普段スマホで聴いている好きなアーティストの曲を初めてライブで聴いたときに、普段聴いている何倍も感動したことはありませんか?生歌はやはりライブの最大の魅力!しかしこの逆の現象として、舞台作品を映画化したとき、撮影手法上どうしても生歌感やリアル感が失われてしまうのが一番の課題。この映画の壁に挑んだ作品が、『レ・ミゼラブル』(2012年公開)です。
ミュージカル映画の常識を覆した「ライブ録音」
たった一本のパンを盗んだ罪で、19年の間苦渋の服役を強いられたジャン・バルジャンの人生。貧困に喘ぐパリ市民たち。愛娘の養育費のために堕ちるファンテーヌの悲痛な叫び。ジャン・バルジャンを追う警官ジャベールとの宿命の対決。甘やかに差し込むコゼットとマリウスの恋、マリウスを陰から見つめるエポニーヌ。そして、青年たちの革命への闘志。
様々な人物たちの悲しくも熱い物語を全編歌で紡いだミュージカル『レ・ミゼラブル』は1980年代以降全世界を席巻。その舞台を元に映画にしたものが、2012年に公開された『レ・ミゼラブル』です。
ミュージカル映画を撮影する際は、撮影前に歌を収録し、俳優たちは撮影の際に音に合わせて演技をするという方法がスタンダードです。ですが昨今の歌番組で口パクだと分かるとどこか興醒めしてしまうのと同じように、これではリアル感が失われてしまう。そこで本作品はまさかの「全編ライブ録音」という異例の撮影方法にチャレンジ。ミュージカル映画の常識を変えてしまったのです!(大量の水が歌声をかき消してしまうオープニングシーンを除く)
アン・ハサウェイが魅せた奇跡の「夢やぶれて」
キャストはヒュー・ジャックマンを始め、ミュージカル界で名を馳せてきた面々ばかり。ですが、ほとんど全てのシーンをワンテイクで撮影し、歌もその場で俳優が歌ったものを採用する「ライブ録音」はもちろん簡単ではありません。『レ・ミゼラブル』はそもそも氷点下の山頂など過酷な撮影場所も多く、演技をしながら感情を込めて歌い上げるのは至難の技。前例の少ない撮影手法に、ファンテーヌ役のアン・ハサウェイも「最初は無謀だと思った」のだとか。
けれど結果として、無謀な挑戦は奇跡の瞬間を生むことになりました。作中屈指の人気ナンバーであるファンテーヌの「夢やぶれて(I dream a dream)」では、アン・ハサウェイがあまりにも役柄に入り込んだため普段は絶対に出せない高音が出せたといわれています。まさにこの撮影方法をとったからこそ、唯一無二のシーンとなったというわけです!追随を許さない圧倒的な臨場感とスケールの本作は、アカデミー賞やゴールデングローブ賞を受賞し、高く評価されました。
映画『レ・ミゼラブル』を何度見ても感動の涙が止まらないのは、俳優とスタッフたちの覚悟を持ったチャレンジゆえなのかもしれません。「戦うものの歌が聞こえるか」という民衆の歌に込められた全キャストの闘志が、私たちの心に直接響いてくるようです。