11月3日よりシアタークリエにて開幕する『ビロクシー・ブルース』。喜劇作家ニール・サイモンの自伝的戯曲で、第二次世界大戦中の新兵訓練所で繰り広げられる若者たちの青春群像劇となっています。主人公ユージンを演じるのは、数多くの映画・ドラマで活躍が続き、2022年には舞台『東京ラブストーリー』に出演した濱田龍臣さん。初日を前に囲み取材とゲネプロが行われました。
会話のテンポ感で若き新兵たちの関係性を表現
ブロードウェイを代表する喜劇作家ニール・サイモンの自伝的戯曲『ビロクシー・ブルース』。1985年にブロードウェイ初演を迎え、トニー賞最優秀作品賞を受賞するなど多くの反響を得ました。11月3日よりシアタークリエにて開幕する『ビロクシー・ブルース』では、2018年に読売演劇大賞を受賞した小山ゆうなさんが演出を務めます。
囲み取材には、主人公ユージンを演じる濱田龍臣さん、エプスタイン役の宮崎秋人さん、カーニー役の松田凌さん、セルリッジ役の鳥越裕貴さん、トゥーミー役の新納慎也さんが登場しました。
各々の役柄について、濱田さんは「ユージンは自分の事を回顧録に記しているということで、彼がノートを開いて振り返っていくことで物語が始まっていきます。ユージンの主観で広がっていくのですが、詩的で、でも可愛らしい部分もあるようなキャラクターになっています」と語りました。
宮崎秋人さんはエプスタイン役について、「みんなの輪から外れているような青年で、ユージンの理解者なのか、友人なのか、よく分からない男の子だなと思いながらやっております。人のためにやっているのか、自分のためにやっているのか、掴みどころのない役です」とコメント。
松田凌さんはカーニー役について「優柔不断な男です。皆さんのお近くにもいると思います。なんでそんなことで悩むんだ、食べ物1つとってもどこまで悩むんだという男の子です。作中でも恋に悩み、将来に悩み、でも戦時中の時代をビビットに生きていて、成長過程も見られるのではないか。何か決断できているのではないか」と語りました。
鳥越裕貴さんはセルリッジ役について、「年代にふさわしい素直でアホな子です。クラスに1人おればいいなぁと僕は思っています」とコメント。すると松田さんが「まんまやん」と呟き、鳥越さんは即座に「まんまやん?!良いキャスティングですね!」と返し、チームワークはばっちりのようです。
鬼軍曹のトゥーミーを演じる新納慎也さんは「コンプライアンスが叫ばれている世の中で、コンプライアンス無視のことをやっていますが…僕としては礼儀と作法を持って、パワハラをしているという役です(笑)」とコメントしました。
ニール・サイモンの会話劇ということで、長台詞の多い鬼軍曹トゥーミー役の新納さんは「ニーロ・サイモンとしてはですね(笑)、ニール・サイモンをしばきたくなるくらい長台詞のオンパレードで…」と苦労を語り、「役者のエゴなのですが、長台詞のある役で“長台詞よく覚えたね”と言われるのは一番恥ずかしいんですね。なのでそれを言われないように一生懸命稽古をしていたんですけれど、通し稽古を重ねているうちに色々な方から“そんな長台詞言っているように見えないよ”と言っていただいたんですけれど、それはそれで“こんなに一生懸命覚えたのに?!”っていうジレンマで…今日を迎えております…」と複雑な胸の内を明かしました。
濱田さんは「テンポ感をすごく探りました。読み合わせの頃より会話のテンポが上がっていて、その中で言葉の持っているパワー、表現力を感じています」とニール・サイモンの戯曲の魅力を語りました。軍曹として若者たちを見守る新納さんも、「みんなは若い役だけれど実年齢は若くないので(笑)、会話のテンポ感で若い感じが出ているよね。うまく誤魔化せているんじゃないでしょうか(笑)」と話し、会話のテンポ感によってキャラクター像が構築されているようです。
また新納さんは演出の小山ゆうなさんと同い年とのこと。「こういう演劇少女いたな、そのまま大人になったんだなという印象で、台本の読み込みも深いし、時々演出なのか感想なのか分からなくなるくらい、演劇への愛を感じます」と語りました。
新兵訓練所で繰り広げられる若者たちの喜劇的な青春劇
1943年、様々なルーツを持った18歳から20歳までの青年たちが汽車に揺られています。ニューヨーク出身の作家志望のユージンは仲間たちの様子を観察し、「回顧録」をしたためています。5日間の過酷な汽車の旅の果てにたどり着いたのは、猛暑のミシシッピにある新兵訓練所。鬼軍曹トゥーミーが彼らを待ち受けていました。
個性溢れる彼らは思わず笑ってしまうようなコミカルなやり取りを繰り広げますが、トゥーミーは規律という名の理不尽な体罰で、彼らの個性をねじ伏せ、従順な兵士に育てようとします。腕立て伏せや深夜の訓練、酷い食事、仲間を疑い合わせるような仕打ち。しかし、虚弱体質で博学なエプスタインは、トゥーミーに臆することなく反論し、彼の思惑に反する言動を繰り返します。
なぜそこまでことをややこしくするのかと問うユージンに、「それだけ人生が面白くなる」と答えるエプスタイン。ユージンにも物事を傍観せず、「ど真ん中に飛び込め」「人生に突っ込みが足りない」とアドバイスします。
様々な出来事を通して、徐々に絆を深めていく青年たち。ユージンは48時間の外出許可を利用し、娼婦・ロウィーナを相手に童貞を失ったり、カトリック学校に通う美少女デイジーと恋に落ちたりして、特殊な環境ながら青春を謳歌していきます。しかし若さ溢れる彼らの日々もやがて基礎訓練の終了と共に終わりを迎え、戦争という現実へと踏み出していくこととなるのです。
作家を志しながらもまだ読んだことのない本も多く、恋に憧れるピュアな青年・ユージンを濱田龍臣さんが好演。宮崎さん、松田さん、鳥越さん、木戸邑弥さん、大山真志さんら演じる個性溢れる青年たちのバランスも絶妙で、異なるルーツ・価値観を持つ相手を徐々に理解しあい、共に過ごしていく姿は、まさしく「青春」と言えるでしょう。
舞台『ビロクシー・ブルース』は11月3日から19日までシアタークリエにて上演。チケット詳細は公式HPをご確認ください。
「国家が国民を守らない時に、国家を守る気はない」というエプスタインの言葉が印象的でした。