12月5日は、ウォルト・ディズニーの誕生日。1923年にウォルトが兄のロイ・ディズニーとウォルト・ディズニー・カンパニーを正式に立ち上げてから、今年で100年が経ちました。ディズニー社100周年の思い出は、映画とテーマパークを鮮やかに彩るディズニーソングで溢れています。中でも、ウォルトが特に愛したディズニーソングをご存じでしょうか?

ウォルトが愛した「2ペンスを鳩に」

数あるディズニーソングの中でウォルト・ディズニーが特に好きだったのが、1964年公開のミュージカル映画『メリー・ポピンズ』の挿入歌「2ペンスを鳩に」(原題:Feed The Birds)です。

この曲は、メリー・ポピンズがロンドンの聖堂の下で鳩の餌を売るお婆さんのことを歌っています。大人達が見向きもしないなか、鳩の餌を2ペンスで買ってくださいと呼びかけるお婆さんの様子を「小さな鳥たちに優しくすることであなたも気分が和らぐ」、「誰かが真心を見せるたびに聖人と使徒が優しく見下ろしているのがわかるでしょう」と歌い、子供たちを寝かしつけるメリー。

翌日、子供たちは父親からお小遣いの2ペンスを銀行に預けて投資するよう薦められますが、弟のマイケルはそれを断り、この2ペンスで鳩に餌をあげたいと言うのです。

哀愁のある旋律の中に温かさを感じられるこの曲には、「小さな心遣いで、自分以外の誰かを愛する喜びを知ることができる」という思いやりの心が込められています。

心を温める子守唄

ウォルトは「2ペンスを鳩に」をとても気に入り、「ブラームスの子守唄よりもずっと良い曲だ」と言ったそう。毎週金曜日になると、作詞作曲を手掛けたシャーマン兄弟を個人的にオフィスに呼び出し、この曲を歌って欲しいと頼みました。多忙な日々のなか、ウォルトはシャーマン兄弟が奏でる「2ペンスを鳩に」を聴いて人知れず涙を流したそうです。

シャーマン兄弟の弟のリチャード・ シャーマンは、今でもセレモニーや記念イベントなどでウォルトの為にこの曲を演奏しています。こちらの動画ではリチャードのピアノを囲む人々の中に、『メリー・ポピンズ』でバートを演じたディック・ ヴァン・ ダイクとジェーン役のカレン・ ドートリスの姿が。

彼らは目を細めながら歌詞を口ずさんでいますが、きっとウォルトもこの優しい旋律に心を温め、同じように口ずさんでいたのではないでしょうか。

受け継がれているウォルトの象徴

「2ペンスを鳩に」は、ウォルト・ディズニーの死後に制作された映画の中でも彼を象徴する曲として度々使われています。

2013年公開の実写映画『ウォルト・ディズニーの約束』(現代:Saving Mr. Banks)は、ウォルトが『メリー・ポピンズ』の原作者であるパメラ・トラヴァースから許諾を得て映画を制作するまでの奮闘ぶりが垣間見える作品。

劇中では、リチャード・シャーマンが夜のスタジオで「2ペンスを鳩に」を歌っていると、ウォルトが部屋に入ってきてその歌声に静かに聞き入る様子が印象的に描かれています。

また、12月15日に日本でも公開される最新映画『ウィッシュ』の同時上映短編作品『ワンス・アポン・ア・スタジオ -100年の思い出-』の中でも、当曲が流れるシーンが。アニメーションスタジオからディズニーのキャラクター達が集まる際に、ミッキーがウォルトの写真に向かって語りかける場面のBGMに起用されています。

しかも演奏しているのは、あのリチャード・シャーマン。彼はこの作品のために、もう一度「2ペンスを鳩に」を弾いたのです。ウォルトに優しい眼差しを向けるミッキーの姿とその背景に流れる温かなメロディーには、ディズニー社のウォルトへの敬意と感謝、労いの気持ちが垣間見えます。

さきこ

『ウォルト・ディズニーの約束』が見られるのはもちろんのこと、『ワンス・アポン・ア・スタジオ -100年の思い出-』も、字幕版がひと足お先にDisney+(ディズニープラス)で配信されています。 私も見ましたが、ミッキーとウォルトの場面で「2ペンスを鳩に」が流れた瞬間、涙がこみ上げてしまいました。 この曲は、ディズニー社の長い歴史の中でも特別な思いが込められたディズニーソングなのです。