俳優としても活躍する岩井秀人さんが主宰・脚本・演出する劇団「ハイバイ」。20代の青春と挫折を描いた初期の代表作『投げられやすい石』の再演を観てきました。(2020年11月・東京芸術劇場シアターイースト)

芸術家になりそこねた者たちの一晩の出来事

物語は、天才芸術家と呼ばれた男・佐藤と、その友人の山田、佐藤の恋人・美紀の3人の若手アーティストを中心に、突然失踪した佐藤と数年ぶりに再開する一晩の出来事が描かれます。

かつて憧れの存在だった佐藤は難病ですっかり見た目が変化。コンビニの店員からは「バケモノ」扱いされ理不尽な暴力を受け、旧友の山田や美紀との会話もぎこちなく、よそよそしさが漂う。山田はすでに絵を諦め美紀と結婚。しかしその事実を言えない。一方の佐藤は山田の目を盗んで美紀に関係を迫ろうとして…

誰しもが持つ青春の記憶に突き刺さる

これでもかと世の不条理や情けない姿を突きつける中で浮かび上がるのは、才能とは何か、自分は何者なのかという問い。認められたい、憧れの存在でいてほしいという3人の関係が崩れていくさまは滑稽なほどリアルで、観客の青春の記憶に突き刺さってきます。

終盤、佐藤が「お前は何者なんだ」と山田に問いかけると、山田は「佐藤を知っている男だ」とぶっきらぼうに答えます。無敵だった頃の自分たちと、もう戻れない現実を凝縮した言葉。そして佐藤の現在の絵を見た瞬間、3人の関係は本当の終わりを迎えます。

Shinpei

残酷な現実を描きながらも共感でき、みっともない姿に笑いながら胸に突き刺さる。恐ろしくも目が離せない劇薬のような舞台でした。
12月15日から期間限定で映像配信も開始するそうなので、この危険な傑作をぜひ!(配信は1月31日まで、チケットは1月11日まで販売)