7月10日(水)からシアタークリエで上演されるミュージカル『モダン・ミリー』。1967年公開のミュージカル映画を原作にした本作は、2002年にトニー賞作品賞や主演女優賞などを受賞し大ヒットしています。2022年に引き続きミリー役を朝夏まなとさんが演じ、とびきりハッピーな世界観を創り上げます。ジミー・スミス役として初出演となる田代万里生さんに、本作の魅力を伺いました。
ジミーは遊び人ではなくて、遊び人“風”なんです
−公式HPのコメントでは「ミュージカルの素晴らしさが全てがここに」と仰っていましたね。本作のどういった点に惹かれましたか?
「クラシカルミュージカルの流れを汲んだ作品で、歌・踊り・芝居の3拍子が揃っています。近代的なシンセサイザーや電子音を入れた作品とは違って生のオーケストラを根底にした作品ですし、ジャズエイジのジャンルの中でタップが入るナンバーもあって。笑える場面はもちろん、ホロっとしたり、ロマンチックになったり、最後は無理矢理にでもハッピーエンドに繋げていく感じも、ミュージカルの全部が詰まっているなと感じました。僕はオペレッタのような、喜歌劇の要素がある作品に見えています」
−本作の音楽の魅力について教えてください。
「一番はジャズエイジの要素が入っているということですね。あとはバレエのようなシーンでチャイコスフキーが流れていたり、ガーシュウィンの時代なので「ラプソディ・イン・ブルー」のモチーフが出てきたり、隠れクラシックもたくさん入っています。タップだったり遊び心が入っている曲も多いですね」
−田代さんが演じるジミー・スミスは遊び人なキャラクターのようですが…
「ジミーは遊び人ではなくて、遊び人“風”なんですよ。ちゃんと台本の1ページ目にもそう書かれていて、僕が最初に面白いなと思ったところでした。遊び人風であることが物語の展開にも関わってくるので、僕の中では色々な計算をして、登場シーンに繋げていきたいですね」
−ジミーの魅力はどういったところにあると思われますか?
「ジミーはこうなりたいという理想の人物像がきっとあった中で、ミリーと出会うことでそれが一度崩れるんですよね。でもそれで自分自身も変わって、勇気を持って飛び込んでみるのがジミーの素敵なところだと思うので、そこを上手く体現したいです」
−ご自身とジミーとの共通点はありますか?
「そうですね、全体的に共通点は多いように思います。演出の小林香さんが役者の個性を生かすのに長けている方なので、それで伸び伸びと演じられるというのもあるんですけれど…ジミーの明るさは僕との共通点かな。僕も基本的にずっと明るいので。ただクラシカルなルーツがあることもあって、デビュー当時はクラシカルな発声が求められるシリアスな作品が多かったんです。だからミュージカルコメディって今までほとんどやったことがなくて、今回出演できて嬉しいです」
“ここだけの話だよ”という特別感のある劇場
−演出の小林香さんはどのような印象でしょうか。
「歌手活動でのデビュー前からコンサートを担当していただいていて、とてもお付き合いは長いのですが、ミュージカル作品をご一緒するのは初めてです。もっとフィーリングでやっていく感じなのかなと思っていたのですが、お芝居のお話をしてみると冷静で、ロジカルに組み立てていかれる方なのだなと思いました。質問をしてもゆっくり確実な答えが返ってくるので、とてもディスカッションしやすいです」
−小林さんの言葉で印象に残っているものはありますか。
「この作品を2022年に上演した時はコロナ禍で演劇界も大変な時期に上演されたということで、とにかくお客様を元気づける、笑わせて元気になって帰ってもらうということに徹したのだと仰っていました。本来演劇やコメディってそういうものだなと思いますし、アーティスティックに創るだけでなくエンターテインメントをするものだと思うので、お客様のことを考えたという言葉が明確にあったのは印象に残りました。
そこから再演にあたって、時代考証や細かい部分を掘り下げて考えて創っていらっしゃるようなので、また一歩踏み込んだ深みのある『モダン・ミリー』をお届けできたら良いなと思います」
−時が経って、観客側の受け止め方も変わりそうですよね。
「そうですね。前回は笑ったり声を出したりしてはいけないという雰囲気がありましたが、今は自然に笑うことが出来るようになりました。それにこの作品の設定が1920年代の禁酒法に抑圧された中で隠れ酒場に行ったり、女性の市民選挙権が与えられてミリーのように女性が羽ばたこうとしたりしている時代なので、コロナ禍が落ち着いて少しずつ自由を得た今、この作品が持つ“活力”をより体感していただけるんじゃないかと思います。僕もそれを意識してお客様に渡したいですね」
−田代さんがシアタークリエにミュージカル作品で出演するのは久しぶりですよね。シアタークリエはどんな劇場だと思われますか。
「とにかくお客様との距離が近いですし、地下にあるから、他の劇場とは違う感覚があります。エレベーターや階段で降りていって、良い意味で少し隔離された感じがあるので、“ここだけの話だよ”という特別感のある劇場というイメージです」
−観客との距離が近いことで、演じる上での変化はありますか?
「大劇場でオーケストラピットがあると物理的にお客様との距離がありますし、スポットライトの逆光でお客様の表情までは見られないんです。でもシアタークリエではステージ上の照明がお客様の顔にも当たるので、しっかり表情まで見えます。特に『モダン・ミリー』のようにコメディで反応がある作品では、お客様の表情を感じ取ることが出来るのは嬉しいですね。それに舞台袖にいても、客席の声が聞こえてくるので、すごく近さを感じます。すぐ近くで笑ってくれている感覚があるので、やりがいがありますね」
−ミリー役の朝夏まなとさんはどういった印象でしょうか。
「ミュージカルでは初共演になるんですけれど、2020年に帝国劇場で行われた『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE』で約1ヶ月ご一緒して、仲良くさせていただきました。それ以来、初めての共演ですが、まぁちゃんは本当にミリーそのもので、ミリーの明るさや強さを兼ね備えています。初演からの続投組ということでカンパニーを引っ張ってくださるのですが、それがまぁちゃんがリードしているのか、ミリーがリードしているのか分からないくらい。とても自然に演じられるので、僕もまぁちゃんとの関係性にリンクしながらジミーをやることができて、すごく助けられています」
ニューヨークは怖い場所でした
−ミリーは夢を求めて憧れのニューヨークにやってきますが、田代さんにとってニューヨークはどのような場所ですか?
「怖いイメージがあるなぁ(笑)。というのも、僕はずっとクラシック音楽ばかりを聴いて育ってきていて、あまりポップス音楽には触れてこなかったんです。揺らぎのある音楽で育ってきたので、アメリカのビートのある音楽や、街の喧騒の音が怖く感じて。人種も多様で価値観の異なる人たちが集まっているので、話し声が喧嘩のように聞こえてしまうのも怖かったです。でもそれは本当に喧嘩をしているわけではなくて、価値観の異なる人たちが集まる文化なのだと知りました。イメージが変わってからニューヨークには行けていないので、もう一回行ってみたいですね」
−なぜ印象が変わっていったのでしょうか。
「やはり色々な作品を通して学ぶことが多かったです。今年出演した『カム フロム アウェイ』でも世界には色々な考えを持つ人がいるのだと学びました。そういう機会を経て、感じ方が変わってきたのだと思います。先日『モダン・ミリー』の現場でもリスペクト講習があったのですが、全てを受け入れる必要はない、受け止める必要があると言われたんです。全部を理解することはできなくても、相手の意見を受け止めることが大事なのだと。これって生きていく上でとても必要な考えだなと思います」
−『モダン・ミリー』ではどのようなことを大事に演じられたいですか。
「揺らぎのある音楽、オーケストラレーションの音楽の作品なので、ぜひそれを楽しんでいただきたいですし、いわゆるオールドミュージカルの再評価に繋がったら良いなと思います。僕ら俳優はこういったミュージカルは怖い部分もあって、現代的なミュージカルは映像や視覚的な効果、音的な効果など仕掛けがたくさんあることで助けになっていることもあるのですが、オールドミュージカルは体一つで見せなければいけないシーンもたくさんあります。そこはしっかりお稽古をして、お届けできるようにしていきたいですね」
ミュージカル『モダン・ミリー』は7月10日(水)から7月28日(日)までシアタークリエ、8月24日(土)25日(日)に昭和女子大学人見記念講堂にて上演されます。公式HPはこちら
稽古期間中のお忙しい中でも明るく『モダン・ミリー』の魅力を語ってくださった田代さん。素敵なセットの中で撮影させていただく、贅沢な取材となりました!