今回ご紹介するのは『Shall we ダンス?』の周防正行監督が手掛けた『舞妓はレディ』(2014年)。現代の京都を舞台に、舞妓を目指す少女の成長物語をミュージカル映画に仕立てました。主人公・春子を演じるのは本作がデビュー作となった上白石萌音さん。彼女の透明感のある歌声はもちろん、舞妓修行の必須科目を取り入れたミュージカルシーンにも注目です。

日本版『マイ・フェア・レディ』!京言葉を習得する厳しい舞妓修行

名作ミュージカルをもじったタイトルから連想されるように、本作は日本版『マイ・フェア・レディ』という言葉がふさわしいストーリーです。

舞妓の仕込み(見習い)がおらず、後継者不足となっている京都の花街。そのひとつ、老舗のお茶屋・万寿楽(ばんすらく)にある日、主人公・春子がやってきます。津軽から出てきた春子は「鹿児島弁と津軽弁のバイリンガル」と表現されるほどのひどい訛りっぷり。舞妓になりたいと懇願する春子を、女将の千春(富士純子さん)は門前払いにしますが、彼女に京言葉を叩き込むと申し出た言語学者の京野(長谷川博己さん)の取り計らいにより、彼女の舞妓修行が始まります。

ストーリーに加えて、音楽や衣装など、全編に散りばめられた『マイ・フェア・レディ』へのオマージュが軽妙。たとえば、京言葉のイントネーションを学ぶレッスンのシーンで使われる「京都盆地に雨が降る」というオリジナル曲は「スペインの雨」を彷彿とさせます。また京野がレッスンの成果を試すべく、春子を「京言葉のネイティヴ・スピーカー」として紹介して馴染みの客を騙したり、そんな京野に春子が淡い恋心を抱いたりといった様子はまさしくイライザとヒギンズ教授のよう。舞妓の世界とロンドンの上流階級の世界、その違いを比較しながら見るのも楽しいかもしれません。

豪華俳優陣が好演!花街文化を受け継ぐ人々が春子に寄せる思いとは

陰りを見せる伝統文化を守ろうとする花街の人々の姿には豪華な俳優陣の好演が光ります。万寿楽の女将を演じる富士純子さんは、着物に身を包み、キリッとお客様をお迎えする女将の顔と、芸妓たちがお母さんと慕う柔和な顔が印象的です。

姐さん芸妓を演じる草刈民代さん、田畑智子さん、渡辺えりさんは歌に舞に芸達者な一面を見せ、ミュージカル映画としての要素に欠かせない存在感。冒頭に繰り広げられる3人の寸劇でお茶屋遊びの世界へと一気に引き込まれます。言わずもがな、草刈さんの迫力あるダンスシーンは必見です。

強烈な先輩たちに揉まれ、慣れない京言葉や花街のしきたり、厳しいお稽古に一生懸命取り組む春子。心の中で「がんばれ!」と応援したくなる、上白石さんのまっすぐな視線やあどけなさの残る表情に心を掴まれました。

舞妓修行に奮闘する春子と、彼女をあたたかく厳しく指導する姐さんたちが築く信頼関係はやがて物語のカギになる見どころ。うつ科目やそこから発展するミュージカルシーンの華やかさとオリジナリティに目を奪われます。

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Sasha

途中、厳しい稽古のストレスで声が出なくなってしまった春子に姐さん芸妓が放つ「京言葉は舞妓が夢を売るための仕事道具」というセリフ。苦しさではなく、成長した先で必要となる力を身に付けなさい、というメッセージに、頑張る気力をもらえる映画です。