2019年公開の邦画『ダンスウィズミー』は、『スウィングガールズ』や『ハッピーフライト』の矢口史靖監督によるミュージカルコメディ。ヒロインが軽やかに踊るポスターが印象的ですが、実は彼女、ミュージカル嫌いなんです!「ミュージカルってなんで突然歌って踊りだすの?」というツッコミに焦点を当てた『ダンスウィズミー』。その魅力に迫ります。

ミュージカル映画に向いていないヒロイン

ヒロインは、キラキラOLを目指して大手企業で働く静香。幼少のころにミュージカル劇で大失態をやらかし、ミュージカルを毛嫌いするようになってしまいました。そんな静香が、インチキ催眠術師のマーチン上田に術をかけられ、音楽が鳴ると歌って踊らずにはいられない体質に!

ミュージカルが好きな人なら、静香がかかってしまった催眠術は「楽しそう!」と思うかもしれません。しかし、オフィスや病院、イケメンとのデート中にもミュージカル体質が発動してしまったら…?

催眠術にかかった静香はノリノリで歌って踊りまくるのですが、ミュージカルが終わると現実の世界は冷たいものです。周りからは冷ややかな目で見られ、派手なパフォーマンスで高級レストランの店内はめちゃくちゃ。レストランの弁償代として多額の借金を背負ってしまった静香は、行方をくらましたマーチン上田を探して術を解いてもらうために旅に出ます。

自分の殻を破るロードムービー

静香の旅に同行するのは、イケメンが大好きなフリーターの千絵。ダンススタジオを開くためにマーチン上田のサクラとして働いていた千絵をつかまえて、静香はマーチン上田を追って北を目指します。

ガラの悪い青年たちのダンスバトルに巻き込まれたときはヒップホップで対抗し、お金が底をつきたときは道中で出会ったストリートミュージシャン・洋子と3人でパフォーマンスをしてお金を稼ぎ、困難を歌と踊りで次々と切り抜けていく静香。毛嫌いしていたミュージカルの力で、静香は子供の頃に封じていた自分の殻を破っていきます。

国内各地を巡りながら静香たちが歌うのは、「夢の中へ」や「年下の男の子」などの懐メロソング。40代以上が口ずさめる選曲を意識したというミュージカルシーンは、懐メロ好きにも刺さります。

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歌・踊り・演技の3拍子が揃った名キャスティング

『ダンスウィズミー』のミュージカルシーンは、キャスト全員が吹き替えなしで挑みました。キャスティングされているのは歌・踊り・演技の3拍子が揃った個性的な俳優ばかりです。

オーディションの中から主人公の静香役に選ばれたのは、女優の三吉彩花さん。歌とバリエーション豊かなダンスのために、250時間にも及ぶ過酷なトレーニングをこなしました。三好さんといえば2021年に上演されたミュージカル「The PROM」の主人公・アリッサ役が記憶に新しいですが、『ダンスウィズミー』が彼女のミュージカルデビュー作です。

静香の旅を支える千絵役には、倖田來未さんのものまねで知られる芸人のやしろ優さん、洋子役にはシンガーソングライターのchayさんが起用されています。さらに、マーチン上田役にはディズニーアニメ映画『アラジン』のジャファー役が若い世代に親しまれている宝田明さん、彼の行方を捜査する調査員の渡辺役にはムロツヨシさんをキャスティング。この豪華な顔ぶれで、作品の見ごたえが十分に伝わるのではないでしょうか?

さきこ

矢口監督が『ラ・ラ・ランド』に触発されて作り出したという映画『ダンスウィズミー』。催眠状態で人目を気にせず周囲を巻き混んで歌い踊る静香の姿は、あまりにも生き生きとしていて憧れさえ抱いてしまいます。歌と踊りに感情を乗せることで、静香のように殻を破ることもできる。ミュージカルそのものが自分を強くするための催眠術のようなものなのかもしれません。ミュージカルあるある”がたくさん登場し、ミュージカル好きにとっては頭の中を覗かれているような気分になれる興味深い作品です。