俳優・小野田龍之介さんの連載企画「小野田龍之介と春夏秋冬さんぽ」。季節を感じる場所をお散歩しながら、ミュージカルのことはもちろん、小野田さんの近況やこれまでについて様々な視点で掘り下げていきます。今月のテーマは「芸術の秋」。仕事で五感を使う瞬間や、好きな絵について、家に飾っているとある人のサインについて…など様々な角度からお話を伺いました。撮影では、「THE FLAVOR DESIGN®︎ STORE “KAMAKURA”」に訪れ、ファブリックミスト制作づくりにチャレンジしました。
石畳を歩いた感覚を『レ・ミゼラブル』に活かす
−小野田さんは幼少期から耳が良かったのでしょうか?
「聴いたものをそのまま耳コピするのは得意でしたね。アニメーションを見てキャラクターの真似をしたり、芸人さんのネタを真似したりしていました。子どもの頃から映画や音楽など、音楽性の強いエンターテイメントを見ていた環境でもあったと思います」
−台詞も目で見て覚える方と耳で聴いて覚える方がいると言いますが、聴いて覚えるタイプでしょうか。
「聴いたり、口で言ってみたりして覚えることが多いですね。文字で見ただけではなかなか覚えられないです。これは映像ではなく舞台に立つ人間ならではの感覚かもしれないですが、何回も稽古してやり取りを重ねていく中で、耳と口と心を巡らせて、掴んでいくイメージです。文字で見ると成立しているけれど、喋ってみるとよく理解しにくい、あまり成立しているやり取りじゃないね、という時もありますし」
−音楽も楽譜より先に音から聴くんでしょうか。
「そうですね。音を聴いてから、楽譜を見て音の確認をする感覚です」
−セットや衣裳は本番が近づくまで完成系が見えないことが多いと思いますが、どのように世界観を掴んでいますか?
「絵コンテやパネルを見せてもらえるので、それを記憶してイメージしています。あと俳優は、擬似体験や形状記憶が大事だと思っていて。例えば『レ・ミゼラブル』だったら、パリに行くことは出来なくても、石畳のある街は日本にもあって、石畳の道を歩く不安定な感じは掴むことが出来ますよね。そういう時の感覚を常に記憶して持っておくことが重要だと思います。何かを触った時の手の感触とか、苦しかった心の重さとか、喜びとか、五感に対する記憶力が俳優には必要なんじゃないかな」
−では、旅行に行って石畳を歩いた時などの感覚をいつも記憶しているのですね。
「なんとなく覚えていますね。なんとなく、というのも大事だと思っていて、鮮明に覚えていると作品のエッセンスが入らなくなってしまうじゃないですか。これが正解!と思ってしまうと良くないので、なんとなく覚えるようにしています」
−5月の連載で、渋谷のビルの屋上で「Why God Why?」の感覚を掴んだとお話ししていましたが、それも五感で役を掴むためにやられていたことですよね。そういうことは他の作品でもやられるのでしょうか。
「よくやりますね。20代前半の頃、「On My Own」ごっこをしたことがあります(笑)。寒い時に夜空を見ながら、島田歌穂さんが歌う「On My Own」を聴きながらぼーっと歩いていたら涙が止まらなくなっちゃって(笑)。
今度演じる『レ・ミゼラブル』のジャベールも、どんな想いで星を見ながら歩いていたのか知りたいなと思って、星を見上げながら歩いてみたり、橋の上で歌ってみたり。気づくとやっちゃいますね」
感覚を役に活かす重要性に気づいた『パルレ〜洗濯〜』
−感覚を役に活かすことを大事にするきっかけはあったのでしょうか。
「2012年にミュージカル『パルレ〜洗濯〜』に出演した際、演出家のチュ・ミンジュさんがワンシーンごとにその感覚を掴むためのエクササイズをしていたんです。僕は雨のシーンがあって、雨が降っている日に“傘を持たずに稽古場の周りを歩いて、公衆電話があったら自分の大切な人に電話して帰ってきてください”と言われて。本当に雨に濡れてびしょびしょになって帰ってきたら、すぐにそのシーンの稽古が始まりました。僕の感覚もそうだし、他のキャストもずぶ濡れの僕を見て“えっ大丈夫?”ってなるじゃないですか。そういう感覚も大事だなと思わされました。
他にも、キャストが円になって、僕が真ん中に立って、1人1人に台詞を言ったら後ろを向いていくというのもありました。気づいたら誰もこっちを見てくれなくて、凄く孤独感があった時に、ヒロイン役の子が振り返って“おはよう”という台詞を言った時、本当に光に見えて、涙がぶわっと溢れてきたんです。俳優としての疑似体験とか五感、色々な経験の大切さというのを改めて感じさせられた作品でした」
−小野田さんの演技力はそういった経験から来ているのですね。とても精神が削られそうでもありますが…。
「イントロを聴くだけで役の辛さや感覚が一気に蘇る作品がいくつかありますが、『パルレ〜洗濯〜』もその一つですね。あとは『ミス・サイゴン』のヘリコプターの音とか、『ウエスト・サイド・ストーリー』のオープニングのイントロとか、聴くと冷静ではいられないので、結構怖いですね(笑)」
−他に役で感覚を掴むためにやっていたことはありますか?
「普段はタバコを吸わないのですが、『ミス・サイゴン』のクリス役を演じる時は稽古中もタバコを吸うようにしています。タバコを吸ってみると、“吸って吐く”ので、意識的に呼吸をしていることに気がつきました。だからリラックスするのかな、クリスは無意識だけれど、リラックスを求めて部屋を出てタバコを吸ったのかなと感じました」
1つの空間で、1つの時間を共にするのはとても特別なこと
−秋は「芸術の秋」と言われますが、絵画を鑑賞することはありますか?
「やっぱりディズニーの展示会はよく行っちゃいますね。あと画家の福井江太郎さんとはお会いすることがあって、ミュージカルも好きでいらっしゃる方なのですが、福井さんのダチョウの絵は凄く好きです」
−お部屋に絵を飾ったりすることは?
「太陽とか、自然を感じる絵を飾っています。あと部屋にはサインがありますね。同業者の方にサインをもらうことはなかなかないのですが、最近では市村正親さんにサインを頂きました。というのも、『ミス・サイゴン』共演中に2人で飲む機会があって、“30年前の初演のCDを持っていて、子どもの頃からそれを宝物のように聴いて、ミュージカルを勉強してきたから、それにサインをして欲しい”と頼んだんですよ。それで本当に2022年の川越公演での千穐楽でサインを頂いて、部屋に飾ってありますね」
−ミュージカルファンにとっても嬉しいエピソード!素敵ですね。ディズニーの展示会で絵を買うことはあるのですか?
「あまり自分では買わないんですよね。ファンの方に頂くこともあるので、既に自分が持っていると申し訳なくて。なので、いつでも待ってます(笑)」
−ミュージカル界では近年、チケットの値上がりもあり、ミュージカルと観客との距離が変わってくるのかなとも思います。選びに選んだ渾身の1作品を観にくるという方も増えてきそうです。
「でも俳優としては、渾身の1作品を観に来てもらっているという感覚は常に持っているべきだと思っています。何千人のお客様が、1つの空間で、1つの時間を共にするのはとても特別なことだということを、肝に銘じたいですね。もちろん何回も観に来ていただけることは嬉しいけれど、1つの公演をいかに有意義で充実した時間にするかを大事にしたい。俳優・スタッフ・お客様が作品を共有するという、ミュージカルの美しさを、改めて考えなければいけないと思っています」
ファブリックミスト制作づくりでは、ベンダーやジャスミンなどの甘い香りをベースに、プルメリアの優しい香りと、ヒノキの香りをプラス。香りのバランスを調合してもらい、オリジナルのファブリックミストが完成しました。
香りに好きなタイトルを付けられるということで、小野田さんが付けたタイトルは「Wakisita sweet」。脇下が甘い香りになれるよ、という小野田さんのお茶目心が詰まったタイトルになりました。
小野田さんは10月9日(水)から11日(金)まで『The Gentlemen’s』にゲスト出演。公式HPはこちら
石畳の道を歩く感覚を持って、『レ・ミゼラブル』の世界を生きる。小野田さんは様々な場所での経験、感覚が作品に活かされているからこそ、私たちも演じられる役柄に感情移入できるのだなと感じました。今回撮影協力を頂いたTHE FLAVOR DESIGN®︎ STOREは、鎌倉店のほか、大阪本店、東京店、神戸店、福岡店などがあります。ぜひお揃いの香水を作ってみてください!