演劇のパンフレットでもよく目にする「アンダースタディ」「スウィング」の文字。緊急時の代役として認識している方も多いと思いますが、この名称にはどのような違いがあるのでしょうか。

アンダースタディってなに?まずは用語をおさらい

最初に確認しておきたいのがこちら。

舞台演劇において、表に立つ役者には大きく分けて2つの役割があります。

・プリンシパル
主要な役どころ。メインキャスト。

・アンサンブル
着替えたりメイクを変えたりしながら多種多様な役を1人でこなす人たち。時には脇役を演じたり短いセリフや役名があったりと、作品によって扱いはまちまちです。

言うなればアンサンブルは縁の下の力持ち。大きく目立つことはなくとも、全てを完璧にこなす必要があり、作品になくてはならない存在です。

今は主要なキャストとして有名な役者でも、若い頃・駆け出しの頃はさまざまな作品でアンサンブルを務めていた、という方は少なくありません。

そして本題、アンダースタディとは。プリンシパルを演じる役者に不慮の事態が生じた場合に代役を務められるように準備をすること、または、準備をして公演中に待機している役者のことを指します。

つまり、「アンダースタディする」という動詞でもあり、「アンダースタディの〇〇さん」のように役割の名称でもあるのです。

このアンダースタディ、主にアンサンブルの役者が務めることが多いです。

稽古期間はアンサンブルとして役を磨きながら、決められたプリンシパルの役も覚えます。何日も前から決定していることもあれば、本番中に穴を埋めるため急いで準備することも。とても大変な役どころです。

とはいえ、ダブルキャストの役はアンダースタディが無いことがほとんど。日本はダブルキャスト制度を取り入れている作品が増えてきているので、アンダースタディに馴染みがない方も多いかもしれません。

ちなみに本番時の出演が無い(つまりアンサンブルではない)人がアンダースタディを担当する場合は、「稽古代役」と称されることもあります。

稽古期間中はプリンシパルの役を覚え、時には稽古に参加できなかった役者に演技をレクチャーし、本番期間は原則帯同せず。こちらも非常にハードな役回りです。

スウィングとは?スウィングの役割とアンダースタディの違い

ここで気になるのがスウィングの存在ですが、アンダースタディとは大きな違いがあります。

スウィングも有事の際の代役として待機する役割。

しかし原則、本番時の出演はありません。加えて担当する役は、基本アンサンブル全て。

例えばミュージカルの場合、女性スウィングは女性アンサンブルの全パート(ソプラノ・メゾ・アルト)、男性スウィングも男性アンサンブルの全パート(バス・バリトン・テノール)を覚えたうえで、ダンスがあればもちろんその振り入れも全てこなさなくてはならないのです。

縁の下の力持ちのアンサンブルをさらに支える役割。1人の負担が大きく、かなり過酷なポジションです。

そして稽古代役とは違い、もしもの時に備えて本番期間も劇場に帯同します。

過酷な役入れをしたにもかかわらず全く披露することなく公演が終了することもしばしばですが(公演としてはそれが一番良いことなのです)、アンサンブルが怪我をしてしまった時に穴を埋めたり、喉を潰してしまった際に袖から歌唱だけ参加したり。

プリンシパルが降板ともなればアンダースタディのアンサンブルはその役に専念することになるので、逆にアンサンブルの枠はスウィングの役者にバトンタッチ、ということもあります。

また1人の方がアンダースタディとスウィングを兼任している作品もありますが、その大変さは計り知れません。

観客は舞台の裏で何が起きているかなんて分かりません。

ですが、その公演が円滑に何事もなく幕を開くことができるのは、このような形でカンパニーに参加している方々がいるからだ、ということを覚えておきたいですね。

アンダースタディとスウィングってこんなにすごい!

まとめると、2つの役割の違いは以下です。

アンダースタディ:プリンシパルキャストのカバー
スウィング:アンサンブル全枠のカバー

舞台のカーテンコールでプリンシパルの方が「この公演を支えてくれたアンサンブル・スウィングにも拍手を!」とおっしゃる場面がありますが、これを読んだ皆さんも思わず拍手を送りたくなったのではないでしょうか。

役者、スタッフ、どの役割もなくてはならないものです。

演劇公演のパンフレットやホームページを見る際は、ぜひそんな方々の存在もチェックしてみてください!

かとうまゆ

前職で担当していた作品ではケガや体調不良が重なり、スウィングの方がさまざまな代役を務めていらっしゃいました。無事、ではないですが、なんとか千穐楽を迎えられたのはその方の尽力もあってのことです。偉大なお仕事だな……と改めて感じました。