古代ギリシャの三大悲劇詩人の一人ソポクレスが紀元前に執筆した世界最高峰のギリシャ悲劇『オイディプス王』。演出・石丸さち子さん、主演・三浦涼介さんによって2023年にパルテノン多摩で上演された本作が、2025年2月に再演されます。クレオン役として本作に新たに加わるのが、『La Mere 母』『Le Fils 息子』の演技にて第五十九回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞した岡本圭人さん。念願のギリシャ悲劇出演だという岡本さんに、本作の魅力と意気込みを伺いました。
人生が変わるような作品が好き
−ギリシャ悲劇に出演するのはご自身の目標の1つでもあったそうですが、ギリシャ悲劇にどんなイメージをお持ちでしたか。
「アメリカの演劇学校で学んだ時、座学で演劇の起源として学んでいたのがギリシャ悲劇でした。元々ギリシャ悲劇やシェイクスピア劇などの古典が好きなので、いつかギリシャ悲劇にも絶対に挑戦したいなと思っていたんです。そうしたら、まさかギリシャ悲劇の中でも最高峰と言われる『オイディプス王』に挑戦できるなんて、凄く光栄ですし楽しみです」
−古典のどんなところがお好きなのでしょうか。
「2000年以上もの間、語り継がれている物語というのは、人の教えになったり人のためになったりしていると思うんです。僕自身、舞台を観に行った時に自分の人生が変わるような作品が好きで、そういった作品は古典が多いように感じます。また古典は書かれている物事が大きくて、その分役者の力量が試されますし、自分の心の中にある、出したことのないものを出せるような気がしています。幼少期から演劇を観ていて、“何がこの人をここまでにさせるんだろう”、“あそこには何があるんだろう”という思いが憧れになっていました」
−憧れのギリシャ悲劇に出演ということでの緊張はありますか?
「どうしよう、全然ないです(笑)。これまでシェイクスピア劇に挑戦させていただいたり、2024年は『若村麻由美の劇世界「あこがれいづる」源氏物語より』で日本の古典である源氏物語にも挑戦できたので、いよいよギリシャ悲劇の舞台に立ってみて自分がどうなるのか楽しみです」
古典は解釈次第で変われる可能性を秘めている
−クレオンという役柄を演じると聞いていかがでしたか。
「オイディプス王はまだ早いんだなって(笑)。でもこれは『ハムレット』でレアーティーズを演じた時も思いました。オイディプス王は憧れの役ですし、学校で勉強していて大変さを知っている分、オイディプスを演じる三浦涼介さんを少しでもサポートできるような、再演だけれども違った旅路を導けるような存在でありたいなと思っています」
−稽古はこれからですが、台本を読んでみてクレオンにどんな印象を持たれましたか。
「稽古に入る前に“この役はこう”ということは考えないようにするのですが、どんな人物だとしても出来るように台詞は何度も練習して入れておくようにしています。その中で感じるのは、葛藤がすごく多い人物だなということです。王とは立場が違うので、言いたいことがあっても言えないとか、台詞の裏に書かれている葛藤や思いが多いんじゃないかなと思います。そこにどんな思いがあるのかは、どんな解釈も出来そうですよね。本当は王になりたいとか、オイディプスのことを親友のように思っているとか。古典はシンプルだからこそ、お客様や演じる役者、演出家の解釈次第で変わる可能性を秘めているので、それを演出の石丸さち子さんがどう描かれるのか楽しみです」
−石丸さち子さん演出、三浦涼介さん主演の『オイディプス王』の初演を観て、どのような印象を持たれましたか。
「クラシックに演出されているのが印象的でした。海外では古典を現代的に演出することも多くなっていますが、しっかりと原点に戻り、当時の人たちが着ていたような衣装や想いの強さを大事に、戯曲が持つ力を重んじて演出されているのだなと感じました」
−演出家の石丸さち子さんとは『リーディングシアター GOTT 神』で2024年10月にご一緒されましたが、どんな方だと感じられましたか。
「凄く親身になってくださる方であり、目指している演出のレベルも高く、役者さんの能力を引き出す力も凄く高い方です。『GOTT』では稽古後にもっと稽古したいですとお伝えしたら、約3時間、1対1で稽古してくださいました。舞台は正解不正解がない世界でもあるので、凄く不安になりやすいんです。台詞を忘れる夢とかよく見ますし。そういう時に自分がどれだけの時間を作品に費やしたかが自信にもなるし、1つの正解にもなり得るので、今回もできるだけたくさん稽古したいです」
−オイディプスを演じる三浦涼介さんの印象についてもお聞かせください。
「華もありますし、強さの中に儚さを秘めていて、見ていると吸い込まれそうな力を持たれている感じがあります。『GOTT』で共演させていただいてはいるのですが、20年前から舞台で拝見しているので、客席から観ている印象が強いですね。今作で対峙して台詞を言い合えるのが楽しみです」
予習をしなくてもしっかりお届けするので楽しんで
−シェイクスピアは、「演劇は時代を映す鏡」だと称しましたが、2500年以上前に創られた『オイディプス王』を今の日本で上演することで、どんなことが映し出されると思われますか。
「古典を現代の俳優が演じるので、それだけで時代を映す鏡になるように思います。当時を想像しながら演じますが、想像力というのは自分が今まで生きてきたものが現れると思っていて、だからどうしても現代的にはなってしまうと思うんです。ただ、お客様と一緒にその時代にタイムスリップするような力が劇場や舞台にはあると思うし、悲劇というのは繰り返さないためにあるジャンルだと思うので、現代では考えられないような大悲劇ですけれど、それを通して何か勉強になったり、人生が豊かになったり、感じることが生まれることを願っています」
−岡本さんが出演されることをきっかけに、初めてギリシャ悲劇に触れる方も多いかと思います。どのように楽しんでもらいたいですか。
「もう好きに楽しんでほしいです(笑)。自分自身、舞台を観る前に予習をするというのはあまりしたくなくて。予習をしなくても伝えますし、しっかりお届けするので、構えず楽しみに観に来てもらえたら嬉しいですね。今、舞台はチケット代がとても高いじゃないですか。無料で見られるコンテンツもある中で、わざわざ劇場まで来て、チケット代を払って観てくださるのだから、その価格以上の経験をしてもらいたいし、そういう仕事をしなければいけないと常に思って舞台に立っています」
−2024年に出演した作品を振り返ってみていかがですか。
「全く異なるジャンルの作品に出させていただいたので、とても勉強になりましたし、まだまだ挑戦できることがあるなと感じました。『若村麻由美の劇世界』では初めての日本人役でしたし、一人芝居も初めてでした。これまでは相手の良さを引き出すのが演劇の面白さだと感じていたし、引き出し合う相乗効果が楽しいと思っていたのですが、不安はありながらも一人芝居を成し遂げることができたので、2025年も一人芝居には挑戦していきたいなと思いました」
−最後に、本作への意気込みをお聞かせください。
「自分の出演作品を振り返ると悲劇ばかりで、舞台で涙が出なかったことがないんです(笑)。その中で、最高峰の悲劇であるギリシャ悲劇に挑戦できるなんて本当に楽しみですし、古典好きとしても、紀元前に書かれた『オイディプス王』への出演は一番の挑戦になると思っています。ギリシャだけでなく、世界中で2500年以上に渡って語り継がれている作品でもあるので、語り継がれている意味を自分自身も探していかなければならないし、作品が日本のお客様に届いて、これからも語り継がれていったら良いなと思います。一生懸命、稽古を頑張りますので、ぜひ観にきてください」
『オイディプス王』は2025年2月21日(金)から24日(月・休)までパルテノン多摩 大ホール、3月1日(土)にSkyシアターMBSにて上演されます。公式HPはこちら
インタビュー中、あまり取り繕わず、とても素直に言葉を紡いでくださるのが印象的でした。紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞し、ますます俳優として注目を集める岡本さんがギリシャ悲劇の名作にどう挑むのか楽しみです。