人間とヴァンパイアの欲望が入り乱れる世界へと観客を誘う、ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』。2025年5月に6年ぶりとなる東京公演が始まる前に、繰り返し上演されてきた歴史を振り返るとともに、今回新たに加わるキャストについても紹介します。
ウィーン発のミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』は、ロマン・ポランスキー監督による映画『吸血鬼』を下敷きにした作品で、1997年にウィーンで初演されました。
脚本と歌詞を手掛けたのは、『エリザベート』『モーツァルト!』『マリー・アントワネット』『ベートーヴェン』などの作品で日本でも評価の高いミヒャエル・クンツェ。また、数々のヒット曲に携わり、プロデューサーとしてグラミー賞を受賞したジム・スタインマンが音楽を担当しました。
「勝つのは欲望か理性か」という普遍的な問いを巡って、人間とヴァンパイアそれぞれの運命が交錯し、物語は意外な結末を迎えます。一度観たら忘れられなくなるほど個性的な登場人物が歌って踊り、観客を引き込むカオスな世界観こそ、本作の魅力といえるでしょう。
<あらすじ>
ヴァンパイア研究に生涯を捧げるアブロンシウス教授と若き助手アルフレートは、雪深いトランシルヴァニアの山に迷いこむ。身も凍る吹雪に見舞われながら何とか宿屋にたどり着くが、そこは「ガーリック、ガーリック」と歌う怪しい村人たちのたまり場であった。不審な村人たちの様子を見て、教授はヴァンパイアの存在を確信する。そんな教授をよそに、アルフレートはお風呂が大好きな宿屋の娘サラに恋をする。しかしサラは、お城に住むクロロック伯爵からの舞踏会の招待を夢みていた。夜も更ける中、入浴中のサラの元に忽然と現われるクロロック伯爵。サラは伯爵の誘惑に抗えず、アルフレートの前から姿を消してしまう…。
不器用にサラを想うアルフレート。研究一筋、理性を信奉する教授。身を焦がす激しい恋を求めるサラ。この世のすべてを見通し、サラの血を求めるクロロック伯爵。それぞれが自らの欲望に突き動かされる時、ヴァンパイアと人間の存亡をかけた運命の戦いがはじまる…。
日本における『ダンス オブ ヴァンパイア』の歴史
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』が日本に初上陸したのは、2006年夏のこと。記念すべき日本初演では山口祐一郎さんが主演を務め、山田和也さんが演出を手掛けました。初演の千穐楽では、なんと1200名が当日券を求めて帝国劇場に集まったんだとか。それから2009年、2011年、2015年、2019年と5回も再演を重ねており、名実ともに人気演目となっています。
ヒットの理由は、なんといっても観客の心を沸かせる要素があちこちにちりばめられているところです。
“ヴァンパイア”というキーワードや重々しい序曲からホラーな展開が待っているのかと思いきや、予想に反して目に映るのは、くすりと笑いたくなるコミカルなやり取り。躍動するダンスシーンやコミカルなナンバーでは、リズムに乗って思わず体が動き出しそうになります。一方で、ソロやデュエットの美しいメロディが印象深く、登場人物たちの心情もよりリアルに伝わってきます。
とりわけ最高に盛り上がるのが、ヴァンパイアと観客で作り上げるフィナーレ。「真っ赤に流れる血がほしい、モラルもルールもまっぴら」と欲望むき出しで歌いながらダンスするなんて、人生でなかなか味わえない体験ではないでしょうか。舞台と観客席の見えない壁が消えて、会場内がひとつになる瞬間は、まさにガーリックのごとくやみつきになるはずです。
そして今回、日本初演から20年目となる2025年5月より6回目の再演がスタートします。キャスト陣には歴代公演の出演者はもちろん、フレッシュな顔ぶれも揃い、ますます目が離せません。
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ヴァンパイアの物語は永遠に
2025年の公演では、これまで単独主演だったクロロック伯爵がWキャストとなります。1人は、ミュージカル界において圧倒的な歌唱力と演技力で唯一無二の存在感を誇る山口祐一郎さん。初演から一貫して伯爵役を務め、山口さんなしでは本作を語れないほどのレジェンド的存在です。
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もう1人は、舞台から映像作品まで目覚ましい活躍を見せ、山口さんが「息子!」と親しみをもって接する城田優さん。Wキャストだからこそ、雰囲気や解釈の異なるクロロック伯爵に出逢えるだろうと期待が高まります。
山口さんとともに長く日本公演を支えてきたキャストといえば、アブロンシウス教授を演じる石川禅さんです。こちらも、新たに武田真治さんがWキャストで登場。武田さんはタレントやサックス奏者としてだけでなく、舞台にも活動の場を広げ、2024年には『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』『SONG WRITERS』などに出演しました。
さらに、クロロック伯爵に仕えるクコールも新旧混合のWキャスト。駒田一さんは初演以来、幕間の“クコール劇場”で親しまれるように。直近では、帝劇クロージング公演のミュージカル『レ・ミゼラブル』に出演しています。そして新しいクコール役に選ばれたのが、俳優や演出家、MCとしてマルチに活動する「梅棒」の伊藤今人さん。東京公演のみの出演ですが、多彩な経験を活かした演技が楽しみです。
この他の配役でも、新キャストが集結しています。
ヒロイン・サラ役は、日英バイリンガルのミュージカル女優であるフランク莉奈さんと、
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乃木坂46のメンバーでミュージカル『EndlessSHOCK』に2023年、2024年と出演した中村麗乃さん。
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気弱な助手のアルフレート役は、ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』でWキャストでの主演を務めた太田基裕さんと、
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2025年3月まで日本初上演のミュージカル『HERO』に出演中で、2025年2月にtimelesz projectを経てtimeleszに加入した寺西拓人さんです。
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また、サラの父親・シャガールには俳優やダンサーとしての顔も持つ芸人の芋洗坂係長さん、その妻・レベッカにはシス・カンパニー所属の舞台女優である明星(みょうせい)真由美さん。シャガールの愛人・マグダ役の青野紗穂さんは歌手であり、ミュージカル『SONG WRITERS』など多数のミュージカル作品への出演歴もあります。村の宿屋で繰り広げられる三角関係も見どころのひとつです。
そして、出番こそ長くないものの強烈なキャラクターで爪跡を残すクロロック伯爵の息子・ヘルベルト役は、ブロードウェイの舞台で活躍するジュリアンさん。伯爵の化身として欠かせないヴァンパイア・ダンサーに、佐藤洋介さんと加賀谷一肇さんが名を連ねます。
次世代へのバトンパスを予感させるキャスト陣に対し、演出の山田和也さんと振付の上島雪夫さんは初演から変わらず、作品への思い入れが感じられます。2025年の公演でどんな進化を遂げるのか、ぜひ劇“城”に足を運んでみてください。
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』は、2025年5月10日(土)から31日(土)まで、東京・東京建物 Brillia HALLにて上演。その後、6月7日(土)から15日(日)まで愛知・御園座、7月4日(金)から12日(土)まで大阪・梅田芸術劇場 メインホール、7月19日(土)から30日(水)まで福岡・博多座にて全国公演を行います。公演の詳細は公式HPをご確認ください。
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筆者は2015年公演を観に行き、今まで見たことのないような世界観に圧倒され、終演後も同行者と一緒に興奮しっぱなしでした。特に今回はWキャストの配役が多いので、初見の方はもちろん、何度も観ている方にとっても新鮮な体験ができるのではないでしょうか。