アメリカン・ニューシネマの第1号として今も語り継がれる名作映画『Bonnie and Clyde』/邦題「俺たちに明日はない」で描かれた伝説のギャングカップルを題材に、フランク・ワイルドホーンさんが音楽を手がけたミュージカル『ボニー&クライド』。上演台本・演出に瀬戸山美咲さんを迎え、2025年3月・4月、シアタークリエにて新演出版が上演されます。本作でWキャストでクライド・バロウを演じる、主演の柿澤勇人さんにお話を伺いました。
フランク・ワイルドホーンの作品は、日々挑み続けなければならない

−ミュージカル作品は2023年8月の『スクールオブロック』ぶりとなりますが、ホームに帰ってきた感覚はありますか?
「ミュージカルでもストレートプレイでも、自分の意識が特別大きく変わることはありません。ただ、ミュージカルでは使う筋肉が全然違いますし、常に準備をしていないといけないなと改めて思いました。久しぶりのミュージカルですがハードルの高い作品に挑戦できて良かったなと思っています」
−本作はフランク・ワイルドホーンさんが音楽を手がけられています。
「彼の作品はこれで合格ということがないんです(苦笑)。譜面通りでなくても、心が動くなら音を変えても構わないよ、という方で、そう言われると日々「こうしたらどうだろう、こうやってみよう」と、挑み続けなければと思うんですよね」
−ワイルドホーンさんからは何度も「クライドをやらないか」と言われていたそうですね。ご自身ではなぜだと思われますか。
「自分では分からないのですが、『デスノートTHE MUSICAL』や『ジキル&ハイド』の役柄と何かリンクした部分を感じられたのでしょうか。『ジキル&ハイド』の初日にワイルドホーンさんから「クライドをやって」と言われて。その時は「今はジキル&ハイドなのに!」とツッコみました(笑)。でも作曲家からこの役をやってほしいと言ってもらえるなんて、凄く嬉しいですし、光栄なことだと思っています」

−実際にクライドの稽古をしてみて、彼に共感する部分はありますか。
「いっぱいあります。これっておかしいな、と思うことは世の中にたくさんあると思うんですけど、クライドは「絶対におかしい、お前らは何もしないのか。俺はやる!」という気概に溢れていて、そういう気持ちは役者でも原動力として持っていたいし、自分とリンクしますね。単に欲深い男で終わってしまったら、大衆に応援される人にはならなかったはずですし、多くの人が惹かれる人間的な魅力があったんだと思います。それは少年性なのか、ピュアさなのか、ほっとけない人柄なのか。台本にもただの犯罪者としては描かれていないので、正面から向き合ってその魅力を掴みたいですね」
手加減を絶対にしない、生半可にやるつもりはない

−柿澤さんは『ジキル&ハイド』や『ハムレット』など、エネルギッシュで生き様がそのまま出るようなお芝居が観客の心を掴んでいると感じます。ご自身で心がけていることはありますか。
「自分が本当に実感して台詞を言う、動くということですかね。「怒り」なら相手を瞬間的に突き刺すくらいの勢いで怒るし、手加減は絶対にしない。そうでないと、芝居が生きてこないと思っています。生半可にはやらないというのは、常に心がけていますね。例えばクライドなら、人を殺す時には、とんでもなく強いエネルギーが必要だったと思うんです。そこで役者の技量が問われると思うし、生き様も現れるのではないかと考えています」
−クライドはまさにそういった柿澤さんのエネルギーが生きる役になりそうですね。
「クライドのイメージとして参考にしているのは、映画『スカーフェイス』の主人公、トニー・モンタナという役です。実在のギャング、アル・カポネをモデルにした役で、悪の世界でのし上がり、破滅していくのですが、演じているアル・パチーノは周囲の屈強な男性たちに比べると小柄なのに、誰よりも怖いんです。目が鋭くて、周囲を圧倒させる力を持っています。でも女性に対しては不器用でチャーミングさもある。それがとても魅力的だなと思いますね。イメージとして参考にしています」
想いが叶った2024年

−2024年は、舞台『オデッサ』『ハムレット』やドラマ『不適切にもほどがある!』『ライオンの隠れ家』『全領域異常解決室』と、ミュージカル作品以外の出演が続きました。
「いわゆるストレートプレイにも挑戦したいという強い想いもあり、2024年はミュージカル作品が1本もなかったけれど、そういった年があっても良いと思っています。ミュージカルをホームと思うことも出来ますが、僕はホームがあって安心するとどこか甘えてしまうし、それだと成長出来ないのでは、という気持ちになるんです」
−『オデッサ』『ハムレット』を通して感じた役者としての変化はありましたか。
「間違いなく、ターニングポイントになった2作品だと思っています。『ハムレット』は究極と言うか、文字通り命をかけましたし、『オデッサ』で再び三谷幸喜さんと作品作りが出来たのも嬉しかったです。『ハムレット』をやり遂げたらどの作品も楽に感じるよと演出の吉田鋼太郎さんに言われたのですが、今回のクライドはもちろん課題がたくさんありつつ、台詞はすぐ頭に入ってくる感覚がありました。『オデッサ』と『ハムレット』では周囲が見えていない時もありましたが、今回は少しリラックスして取り組めていますね」
−ハムレットとしての姿は観客の記憶にも強く刻まれています。ハムレットとして生きてみて、どんな点が大変でしたか。
「王子としての立場の難しさや、家族や恋愛という身近なテーマ、現代にも繋がる戦争、争いとは何か、人間とは何か…。様々なことを問いかけている作品ですし、それをハムレットが1人で背負うというのはとてつもない経験でした。自分の人生、全部を投影しても全く足りなかった。しかもほぼ素舞台で、言葉と身体だけで表現するのが本当に大変でした。今となっては、この経験に感謝しています」

−ハムレットでは「演劇は時代を映す鏡」だと言いますが、ミュージカル『ボニー&クライド』はどんなものを映し出すと思われますか。
「舞台は1930年代のアメリカです。経済が大きく滞っていて、お金もなければ希望を持って生きることもできない時代。そんな風にみんなどこかで何かを諦めているという状態は、今の日本とも通じる部分があると思っています。現代は、物は溢れている時代だけれど、心から幸せだと言える人がどれだけいるのか。クライドのように犯罪をしてしまっては駄目ですが、時代を切り拓くヒーローのような人の登場をみんなが心のどこかで待ち望んでいると思うんです。クライドは、誰もやらないなら自分がやる、絶対に変えてやるという思いがあったからこそ、多くの人に応援されたのだと思います。そういった姿が、芝居の中で見えたら良いなと思っています」
ミュージカル『ボニー&クライド』は2025年3月10日(月)から4月17日(木)までシアタークリエにて上演。その後、大阪・福岡・愛知公演が行われます。公式HPはこちら

意外にもお花との撮影はあまり経験がないという柿澤さん。照れながらもクールな表情を見せてくださいました!クライドは柿澤さんのエネルギーがたっぷり込められる役になりそうで、楽しみです。