黒澤明監督と、その多くの作品で主演を務めた三船敏郎さんが初めてタッグを組んだ作品『醉いどれ天使』。本作の舞台版が、脚本・蓬莱竜太さん、演出・深作健太さんによって上演されます。主演を務めるのは、6年ぶりの主演舞台となる北山宏光さんです。

闇市を支配する若いやくざ・松永に北山宏光が挑む

戦後の混沌とした時代に生きる人々の葛藤をいきいきと描き、黒澤明監督による力強く斬新な世界観と三船敏郎さんの荒々しくも繊細な演技が絶賛された映画『醉いどれ天使』。

映画史に燦然と輝く本作は、映画が公開された 1948 年 4 月から約半年後、ほぼ同じキャストとスタッフが集結し、舞台作品として上演されたという記録が残っています。当時の映画界では、大規模な労働運動が起こり、多くのスタッフや俳優達が窮状に陥っていました。彼らを救うために黒澤明監督を中心に劇団が編成され、全国巡業が催されたと言われています。この時、上演作品に選ばれたのが『醉いどれ天使』でした。

その後、当時の舞台台本は長い間眠っていましたが、近年偶然にも発見され、2021 年に脚本・蓬莱竜太さん、演出・三池崇史さん、主演・桐谷健太さんで舞台化。明治座・新歌舞伎座にて上演されました。

そして2025年、新たなスタッフ・キャストにより、『醉いどれ天使』の上演が決定。脚本・蓬莱竜太さん、演出・深作健太さん、主演に6年ぶりの主演舞台となる北山宏光さんを迎え、伝説の名作に挑みます。

深作さんは「黒澤明監督の名作〈映画〉を〈演劇〉として再構築する。
重責に押し潰されそうな仕事をあえてお引き受けした最大の理由は、蓬莱竜太さんによる素晴らしい脚本でした。
〈新しい戦前〉ともいわれる現代。戦後 80 年の節目となる年に、焼跡の瓦礫を振り返る事は、とても意味のある事だと思えるのです。まるで野良犬のように、ひと握りの希望を求めて〈闇市〉をうろついた人間たち。その根底にある〈滅びの美学〉は、映画『仁義なき戦い』の中でも描かれた父・深作欣二の青春時代ともつながっています。
モノクロの舞台セットの中で、才能あふれる北山宏光さんと御一緒に、まったく新しい極彩色の松永像を創り出す事ができたら。そして深作組の盟友・西川裕一さんが舞台上で奏でる、生きた音風景にも御期待ください」とコメント。

北山さんは「時代を超えてこの令和に素晴らしい歴史ある作品に携われる事をとても光栄に思います。ストレート舞台は約 6 年ぶりになりますが、緊張と責任、喜びと期待で身の引き締まる想いです。混沌の時代を生き抜いた松永と、それを取り巻く人々の命のエネルギーをステージで演じ届けられる事にとても感謝しています。
観た後の帰り道で思わず感動のため息が出てしまう、そんな作品をキャスト一丸となって作り上げていきたいと思います。ぜひ会場に足を運んでください」とコメントしました。

<あらすじ>
当たり前のように存在していたすべてが失われた、敗戦後の東京。
戦争で帰る場所を失った人々は、荒れ果てた都市に流れ着き、闇市でその日その日を生き延びていた。
ある夜、銃創の手当てを受けに、闇市の顔役・松永が真田の診療所を訪れる。
真田は闇市の界隈に住む人々を診る町医者で、酒に溺れ口は悪いが、心根は優しく一流の腕の持ち主。
顔色が悪く咳込む松永を、診療所に住み込みで働く美代も心配する。
一目見て肺病に侵されていると判断した真田は治療を勧めるが、松永は言うことを聞かずに診療所を飛び出し、闇市の様子を見回るのだった。
居酒屋で働く同郷の幼馴染のぎんは、そんな松永を心配しつつも、密かに想いを寄せるようになっていた。
しかし、着々と病魔が松永を蝕み、ダンサーの奈々江は彼から離れていく。
戦後の混乱の中、松永の采配によって落ち着きを保っていた闇市だったが、松永の兄貴分の岡田が出所し、闇の世界の力関係に変化が起きていくのであった…。

『醉いどれ天使』は2025年11月7日(金)から23日(日)まで明治座、11月28日(金)から30日(日)まで御園座、12月5日(金)から14日(日)まで新歌舞伎座で上演されます。公式HPはこちら