今年の春に上演されるミュージカル『町田くんの世界』は、同タイトルコミックの初ミュージカル化作品です。原作の漫画『町田くんの世界』はどんな作品なのか、その魅力を知っているといっそう舞台が楽しめるはずですよ。

真っ白な優しさに癒される漫画『町田くんの世界』

『町田くんの世界』は、2015年から2018年まで『別冊マーガレット』(集英社)で連載されていた安藤ゆきさんによる少女漫画です。単行本は全7巻、累計発行部数140万部を超える大ヒット作で、第19回文化庁メディア芸術祭において新人賞を受賞。

第20回手塚治虫文化賞では安藤ゆきさんが新人賞を受賞し、主人公・町田くんのキャラクター造形が高く評価されました。

町田くん(町田一)は16歳の高校生で、物静かな眼鏡男子。外見は頭が良さそうなのに成績は中の下で、運動神経が悪いところは見た目通りです。

スマホは持っておらず調べ物は図書室でメモ(でも活字が苦手)、料理のレパートリーは卵を焼くか茹でるかしかありません。

容量の悪い町田くんに特技はないのか?というとそうでもなく、彼が唯一自信を持っているのは、人を好きになることです。

家では家族に、学校ではクラスメイトや先生に、帰り道では他人にもささやかな親切をする町田くん。天然人たらしな町田くんの真っ白な優しさは、周りの人たちの心を癒し、日常をちょっぴり特別なものへと変えていきます。

新しい王子様?少女漫画の男子像を覆す町田くんの魅力

少女漫画に登場する男子といえば、アイドル的存在のイケメンだったりスポーツ万能だったり、華やかな王子様的イメージが湧くのではないでしょうか?

それに対して、町田くんは可もなく不可もない見た目の男の子。しかしどこにいても誰かのためにすっと手を差し伸べる町田くんの姿はどこかカッコよくて、穏やかな空気感をまとっているのです。

町田くんの親切は「人が好き」という大きなスケールの博愛に基づいています。弟と妹が喧嘩をすると互いが「ごめん」を言えるようになだめ、台詞が入らないコマにも、下校中にお年寄りをおぶって横断歩道を渡るといった描写があり、彼の魅力がよくわかることでしょう。

他人を自分の家族のようにとらえている町田くんは、恋愛には鈍感。顔についているゴミを指で取ってあげるという王道の胸キュンシーンも、町田くんは純粋な親切心で何度もやってのけます。

ところが同じクラスの猪原さん(猪原奈々)と関わるうちに、彼女が町田くんの世界に変化をもたらすのです。みんなを愛する町田くんに特別な愛する人ができたら、彼の世界はどうなるのか?その様子はぜひコミックスを読んで確かめてください。

『町田くんの世界』は、2019年に映画化もされています。映画版では町田くんの何をやってもパッとしない特性は幼い頃に頭を打ったせいだという新たな要素が追加され、漫画とはやや異なる町田くんの魅力を楽しめますよ。

ミュージカル『町田くんの世界』の注目どころ

2024年春、『町田くんの世界』がミュージカルになります。町田くんを演じるのは、帝国劇場の新春公演『Act ONE』にも出演していた少年忍者のリーダー川崎皇輝さん。

猪原さん役は、Netflixシリーズ『First Love 初恋』や3月1日公開の映画『愛のゆくえ』などに出演し、女優としてのキャリアを確実に重ねている長澤樹さんが務めます。

ミュージカルは今回が初挑戦のお二人。原作さながらの初々しい町田くんと猪原さんの恋模様が見られそうで、今から楽しみです。

また『町田くんの世界』の良さは、町田くんと猪原さんだけではなく、町田くんを取り巻く登場人物たちの視点にスポットを当てているところにあります。彼らの反応や言動に注目していると、ますます町田くんのことを愛しく思えるはず。

舞台は漫画・映画とは異なり多角的に物語の登場人物を見られるので、脇を固めるキャラクターたちにもぜひ注目したいところです。

ミュージカル『町田くんの世界』は3月29日から4月14日まで東京・シアタークリエ、4月19日から21日まで大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演。こちらの記事でも詳しく紹介しています。

さきこ

大人になると、だんだん王道の少女漫画のモテモテ男子にときめかない事ってありませんか?私はそれを理由に最近少女漫画から離れていたのですが、町田くんの無垢な人たらしぶりを愛さずにはいられませんでした。普段少女漫画を読まないという大人の皆さんにこそ、ぜひ読んでほしい作品です。