手塚治虫 原作の言わずと知れた名作『ブラック・ジャック』を、主演に坂本昌行さん、演出に栗山民也さんを迎えてミュージカル化。6月28日(土)の開幕を前に、フォトコールと取材会が行われました。

「なぜ生まれ、なぜ死ぬのか」

1973年「週刊少年チャンピオン」での連載開始から50年以上を経ても、手塚治虫作品の中でも根強い人気を誇る「ブラック・ジャック」。今回のミュージカル『ブラック・ジャック』では「命の価値」「再生」をテーマに、栗山民也さん演出で描かれます。

主人公のブラック・ジャック(間黒男)を演じるのは、数々のミュージカル作品で主演を演じ、常に高い評価を得る坂本昌行さん。

双子の姉の腹の中で18年間生き続けていた畸形嚢腫でブラック・ジャックに摘出され人工の身体を得た女の子、ピノコ役を矢吹奈子さん。

安楽死の必要性と正しさを信念とする医師ドクター・キリコ役を味方良介さん。新進気鋭の女優で奇病に冒される真理子役を大空ゆうひさん。真理子の叔父で医師の白川役を今井清隆さんが務めます。

フォトコールでは1幕4場、ブラック・ジャックとピノコの愛らしいやりとりが繰り広げられるシーンと、2幕4場、白川邸にいる真理子の元にドクター・キリコが訪ねてくるシーンが披露されました。

1幕4場では、ブラック・ジャックが真理子の病について探る中、ピノコがやきもちを焼き、楽曲「楽しい口喧嘩」を歌います。ピノコのピュアな乙女心と、それに呆れながらも和んでいる様子のブラック・ジャックが描かれた楽曲。ブラック・ジャックと言うと冷酷な人物の印象もありますが、坂本さんはクールながら人間味あふれるブラック・ジャックの一面を覗かせます。またコート捌きなど美しい所作も印象的で、ブラック・ジャックの世界観が丁寧に作り上げられています。

矢吹さんはピノコのチャーミングさを存分に表現し、命という重いテーマが描かれる本作の中で、太陽のようなポジティブなキャラクターとして存在感を見せました。

また姪の命を案ずる白川を演じる今井さんは、ブラック・ジャックへの信頼と、奇病への恐れ、姪になんとか生きてほしいという切なる願いを圧巻の演技力と歌唱力で魅せていきます。

楽曲「いのちのラビリンス」では白川の願いと、ブラック・ジャックの生命への探求、必ず答えを見つけ出すという決意が重なっていく様子が重厚感たっぷりに描かれました。

2幕4場では病の重さに苦しむ真理子のもとに、安楽死も医療の一つのあり方だと主張するキリコが訪ねてきます。「苦しみながら死にたくない」という真理子の本音に、そっと忍び寄るキリコ。

しかし真理子は楽曲「いのち」を通し、「私が生まれてきた奇跡を信じる」と、生きることへの想いを新たにします。大空さんは真理子の芯の強さを表現し、本作のテーマである「命の価値」を象徴的に演じました。

大掛かりなセットはなく、シンプルながら映像が印象的に映える舞台美術と、光と影、希望と絶望を浮かび上がらせるような照明デザイン、少人数のキャストでの重厚感溢れる芝居で魅せていくミュージカル『ブラック・ジャック』。人間ドラマを深く美しく描き出す栗山民也さんの手腕が光る作品となっています。

「ピノコが裏の主役」「ブラック・ジャックの手捌きに注目を」

取材会には、坂本昌行さん、矢吹奈子さん、味方良介さん、大空ゆうひさん、今井清隆さんが登壇しました。

「正直、『ブラック・ジャック』がどうミュージカルに変わるのか稽古前は想像がつかなかった」と振り返った坂本さん。「ただ(演出の)栗山さんの頭の中では完璧に出来上がっていまして、そこについていくのにかなり脳みそを使い、汗をかきました。でも1つ1つ出来上がっていくのが非常に楽しくもあり、勉強にもなる時間でした。今回は命をテーマに掲げて、考えさせられる時間も多くありました。これをどのように皆さんが受け止めて、どのように楽しんでいただけるのか、非常に我々も楽しみにしております」と胸の内を明かしました。

また本作の見どころや好きなシーンを聞かれると、「緊張感のあるストーリーの中で、唯一ピノコが明るい雰囲気を醸し出してくれていて、その明るさを味わえるシーンが随所にあります。それに僕自身もリラックスできますし、稽古場でもセットや照明が組まれた状態での稽古でみんな緊張していたんですけれど、ピノコのシーンになると栗山さんをはじめとしたスタッフの皆さんがニコニコ良い顔をするので、僕らも安心しました(笑)。ピノコが裏の主役です(笑)」と和やかに語りました。

ミュージカル初出演となる矢吹奈子さんは、「稽古に入る前から凄く緊張していたんですけれど、先輩方が優しく教えてくださったおかげで毎回安心して稽古に臨めました。本番を前にまだ若干緊張はあるんですけれど、始まったらピノコとして生きるだけだなと思うので楽しんでできれば」と意気込みます。

稽古期間中に誕生日を迎えた矢吹さんは、バンドの生演奏と、豪華キャスト陣の生歌での「ハッピーバースデー」で祝福を受けたそう。「キーヨ(今井清隆)さんはハモってくださって。本当に綺麗な歌声で、初めて生演奏でお祝いして頂いたので幸せな誕生日を迎えることができました」と振り返りました。

好きなシーンについては「ブラック・ジャックの医療シーンでの手捌きを間近で見ていて、本当にすごいなと。実際に先生が来て教えてくださったんですけれど、それをできる坂本さんがすごいです。細かい手捌きにも注目していただきたいです」とイチオシし、「ありがとうございます」と笑顔になる坂本さんでした。

2年ぶりの舞台作品出演となる味方良介さんは「本当に稽古って楽しいなと感じたのと同時に、俳優という仕事の難しさにも改めて気付かされて。生きることや死ぬこと、たくさんのことを考えた1ヶ月だった」と振り返ります。

好きなシーンについては「4人のアンサンブルの皆さんのエネルギーを凄く感じます。少人数でこの空間を埋めるのは凄いエネルギーが必要で、そのパワーに稽古場から圧倒されていましたし、彼らが歌う歌も明るく前向きな楽曲で、生きることってなんだろうと考えさせられるので凄く好きです」と語りました。

大空ゆうひさんは「シンプルなセットの中で、何もない中で自分たちがドラマを立ち上げるということに一生懸命取り組み、緊張感溢れる稽古場でした。ただ今井さんが果敢に様々なアドリブで和ませてくださって、助けられました」と稽古場の様子を明かします。

また「ミュージカルの楽しさもありながら、人間愛や命について重く扱っていて、そしてピノコの微笑ましいシーンもあるので、色々な角度から楽しめる作品」と語りました。

今井清隆さんは「栗山先生とこの作品で5回目なんですけども、ダメ出しが多くて(笑)。それを消化していくので精一杯で、焦って焦ってやってきて、今日も焦っているんですけれども…皆様にこの作品をお見せするのが非常に楽しみです」とリアルな心境を明かします。

好きなシーンについては「いのち」という楽曲を挙げ、「ブラック・ジャックが歌う「いのち」、私が歌う「いのち」、真理子が歌う「いのち」、そして最終的にピノコとブラック・ジャックで歌う「いのち」と、1つの楽曲が場面によって違う形で歌われます。ブラック・ジャックの場合は人の命を救いたいという思いが込められているし、私の場合は真理子に生きてほしいという祈りの歌だし、真理子にとってはなんとしても生きたいという強い願いの歌だし、ピノコとブラック・ジャックが歌う「いのち」には、人生の素晴らしさが込められています。そういった違いを楽しんでいただければ」と語りました。

最後に坂本さんから「手塚治虫先生の『ブラック・ジャック』がミュージカルになりまして、新たな作品として皆さんにお届けしていきたいと思います。ぜひ会場にいらして、命というものを今一度考えていただきたい」と思いが語られ、会見が締め括られました。

撮影:山本春花

ミュージカル『ブラック・ジャック』は2025年6月28日(土)から7月13日(日)までIMM THEATERで上演。その後、新潟・名古屋・浜松・札幌・兵庫にて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

今井さんは焦っているとお話しされていましたが、流石の演技力と歌唱力に惹き込まれました。栗山さんの重厚感と美しさのある演出が、本作のテーマとぴったりと合わさっています。