ストレートプレイ、ミュージカル、オペラに舞踊。舞台作品と一口に言ってもその内容は様々です。そんな“舞台”や“演劇”を知っていく中で押さえておきたい言葉のひとつが「ノート(note)」。本記事で徹底解説していきます!
ダメ出しって何?誰かに怒られるの?
まず、本題に入る前に質問です。皆さんは「ダメ出し」と言われたらどんな想像をしますか?「悪い部分を言われる」「批難される」のようなマイナスなイメージを持ってしまう方も多いのではないでしょうか。
演劇用語においての「ダメ出し」とは、演出家などが役者やスタッフに対し、修正したい点や見直したい点を伝えることを指します。カンパニーや演出家によってやり方は様々ですが、稽古の後に“ダメ出しの時間”を設け、「何時〜何時はダメ出し」とあらかじめタイムスケジュールに組み込まれる場合も多いです。
つまり、「ダメ出し」は作品作りにおいて、それほどまでに必要不可欠なフィードバックの時間なのです。
罵詈雑言を浴びせられる!というような激しい場ではなく、“良い点”と“気になる点”を挙げたうえで、ではどう直していきたいか?どんなアプローチをしていくか?全員の認識を統一していく、大切な作業の場、ということです。
否定する意味での「ダメ」ではなく、これから改善できる部分という意味での「ダメ」。「ダメ出し」とは、きっと前向きな言葉であるはずです。
そもそも、「ダメ(駄目)」という言葉は囲碁の用語。碁盤の目が語源です。自分の囲んだ領域と相手が囲んだ領域の境にあって無駄になってしまう目のことを指していて、転じて【価値のないこと】【無駄なこと】という意味合いになりました。つまり、本来は「ダメ」に何かを否定するような意味は無いのです。
とはいえ、その語感からマイナスなイメージを抱かれがちなのも事実。そこで演劇人の皆さんが使っているのが「ノート(note)」という言葉です。
海外の演出家が抱える作品やオペラの現場では「ダメ出し」よりも多く用いられています。動詞のnoteに「気づく」という意味があるように、役者やスタッフが自身を振り返り、自ら改善点に気が付くことができるのがノートの時間。演出家よりも本人が主体の印象です。「ダメ出し」よりもいくらかマイルドに感じますね。
待って褒めて伸ばす!ノートの極意とは
「ダメ出し」と「ノート」。前述の通り、ほとんど意味は同じです。
ただ、このダメ出し/ノートの時間の使い方は演出家によって様々。ミュージカル界で活躍する井上芳雄さんが、以前ご自身の記事で「演出家によるダメ出し/ノートの違い」について語っています。
井上さん曰く、やり易いのは“とにかく見守り褒める”スタイル。
特に2018年に出演した『黒蜥蜴』の演出家、デヴィッド・ルヴォーさんとの出会いは衝撃だったそうです。通常のミュージカルだと通し稽古は2~3回ということもある中、なんとこの作品では10回も通したのだとか。そして通し稽古の後は必ずルヴォーさんが何か一言。ただし、「こう動きなさい」「こう演じなさい」というような指示はありません。その代わりに何回も通し稽古を繰り返して、役者が自分で役の動き方やテンションを見つけていくというやり方だったといいます。指示を出されたり怒られたりするわけでもないため、ストレス無くどんどん自由になっていく、という感覚だったそうです。
また『レ・ミゼラブル』などで知られる演出家のジョン・ケアードさんは、ダメ出しの時間に「『良い出し』をします」という言い方をするそう。
更に、ルヴォーさんやケアードさんには共通点が。役者が何かをすると、まず「ベリーグッド」と褒めるのです。その“褒め”があったうえで「ここをこうすると……」と意見を言う。それを結果的に「ダメ出し」とは呼びますが、決して否定的な時間ではないのです。
まさにnote。“良い気付き”に繋がる時間の使い方をしています。
不安を抱えて挑む役者やスタッフに対して、ただマイナスなことを伝えるだけでは現場の士気は下がってしまいます。単純に言い方を変えるだけでも相手の感じ方は変わるもの。
日本も海外も関係なく、参加した全ての人が「ダメ出し/ノート」を有意義に、前向きに受け取れるような現場であればきっと素敵な作品が生まれますよね。
はるか昔から人々の娯楽として親しまれてきた舞台演劇。普通に生活していたら聞かないような用語や興味深いルールが盛りだくさんです。
皆さんもぜひ、そんな奥深い演劇の世界に足を踏み入れてみてください。役者やスタッフがどのようなことをしているか知った上で観劇すると、また観え方が変わってくるかもしれませんね。

学生時代、初めて「ダメ出し」という言葉を知った時はどんな悪いことを言われるのだろうとドキドキしました。 もちろんその言葉の印象通り、ただただ厳しいことを言う演出家さんもきっといるとは思います。それを悪とは言いませんが、みんなが「作品を良くしよう」と前向きな気持ちで取り組めるカンパニーが素敵ですね。