2026年3月21日(土)、新しく誕生した文化芸術拠点、福岡市民ホールへ足を運びました。お目当ては、PARCO PRODUCE 2026『プレゼント・ラフター』です。主演の稲垣吾郎さんが演じるのは、孤独感や老いへの恐れから、私生活でも演技をしてしまう大人気俳優ギャリー。本作の魅力を、映画『窓辺にて』(2022年)で彼に魅了された「新規ファン」の視点からお届けします!

世代を超えて愛される「吾郎ちゃん」

17時開演の少し前、開場を待つ列に並んでいると、周囲からは「吾郎ちゃん」という親しみを込めた呼び名が何度も聞こえてきました。長年彼を応援し続けてきたであろう方々の熱量に圧倒されます。新規ファンのわたしは、少し背筋が伸びるような気持ちになりました。

会場の福岡市民ホールは、福岡市民会館の役割を引き継ぎ、2025年に開館したばかりです。洗練されていながら、地域の人々がふらりと立ち寄れる親しみやすさが同居しています。

ロビーを見渡すと、艶やかな着物姿の方から、デニムやスニーカーといったラフな服装の方まで、観客の層は驚くほど多彩でした。「それぞれの形で演劇という贅沢な時間を楽しもうとしているんだな」。文化が息づく街としての空気を感じ、わたしの緊張も次第にワクワクへ変わっていきました。

幕間も脳内はフル回転!

本作は上演時間約130分、幕間20分という構成です。幕間のある舞台をあまり観たことがなく、「集中力が途切れてしまうかも」と少し不安でしたが、全くの杞憂に終わりました。

前半が終了した瞬間、脳内はフル回転。「あのシーンの皮肉、最高だったな」「あのセリフの裏にはどんな孤独があったんだろう」と思いを巡らせているうちに、休憩時間は瞬く間に過ぎ去りました。むしろ、この余白こそが、ギャリーという男の複雑な内面を咀嚼するために必要な時間だったのかもしれません。

カオスとユーモアの渦に巻き込まれる心地よさ

物語の舞台は、ロンドンの高級アパートメントの一室。稲垣吾郎さん演じるギャリー・エッセンディーンは、誰もが羨むカリスマ俳優です。しかし、その華やかな仮面の裏側には、老いへの恐怖と、常に演じなければ自分を保てないという深い孤独が隠されています。

スポットライトがギャリーに当たった瞬間、劇場の温度が数度上がったような錯覚を覚えました。そこにいたのは、稲垣吾郎というスターでありながら、「スターであることに囚われた男」ギャリーそのものだったからです。

『プレゼント・ラフター』は、海外ツアーを目前に控えたギャリーのもとに、次から次へと個性的な面々が押し寄せ、騒動を巻き起こすドタバタ劇です。最初は「ギャリーに振り回される周囲の人々」という構図に見えていたものが、次第に逆転していきます。彼への執着や愛、勝手な期待……。それらが大きなうねりとなり、ギャリー自身がハンマー投げのハンマーのようにぐるんぐるんと振り回されていく様子は、滑稽かつ痛快で、観客を笑いの渦へと誘います。

私を虜にした「最強の味方」たち

わたしが特に心を奪われたのが、ギャリーを支える2人のキャラクターです。

1人目は、桑原裕子さん演じる秘書のモニカ・リード。17年間ギャリーを支え続けてきた人で、倉科カナさん演じる妻のリズとともに、ギャリーにとって最大の理解者です。ギャリーが「素のめんどくささ」をさらけ出せる相手で、モニカはそのわがままをバレーボールのレシーブのように鮮やかに拾い上げます。

彼女は決して物語のマドンナではありません。ダメなときは背中を叩き、本当に弱っているときは対等な立場で寄り添ってくれます。「こんな秘書が私にもいてくれたら!」と羨ましくなるほど、2人の信頼関係は大きな見どころでした。

2人目は、中谷優心さん演じる使用人のフレッド。「OKで〜す」が口癖の、少し生意気で下町風情を感じさせる青年です。ギャリーに憧れるあまり、あえて横柄なナルシストとして振る舞っているようにも見えました。

背伸びをしているけれど隠しきれない若さ。ギャリーに対して「悪いことしちゃだめですよ?」と釘を刺すなど、年の離れた友人同士のような距離感。その絶妙な愛嬌に、気づけばメロメロになってしまいました……!またフレッドに会いたいです。

稲垣吾郎が描く「孤高の美しさ」

ギャリーは大人げなくて、自己中心的で、「俺がいなかったら困るのはお前たちだぞ!」なんて豪語する人です。けれど常に寂しげな瞳をしていて、どこか「心ここに在らず」という雰囲気を纏っています。

この難しい役を、稲垣吾郎さんは完璧に体現していたと思います。知的で皮肉屋。そして自分を含め、誰のことも心の底からは信じきれていないような「孤高の美しさ」。稲垣吾郎さんの天性の華やかさと、積み重ねてきた演技力があるからこそ、このコメディはただのカオスで終わらず、温かくて深い余韻を残す作品になったのだと感じます。

孤独の先にある愛

『プレゼント・ラフター』のユーモアは想像以上に辛口で、「もっと年齢を重ねてから観れば、また違った味わいがあるのかもしれない」と感じました。でも根底に流れているメッセージは温かいものです。「誰しも心の底には孤独がある。それでも愛はすぐそばにある」。わたしはこう受け取りました。

終演後、劇場を出て福岡の街を歩きながら、私は自然と大切な人たちの顔を思い出していました。ギャリーがそうであったように、私たちもみんな、それぞれの孤独を抱えて生きているはずです。けれど、その孤独すらも分かち合える誰かがそばにいるという尊さを、この舞台は教えてくれました。

さよ

ギャリーの浮世離れした魅力と、人間の生々しい孤独を同時に成立させる圧倒的な存在感。スターとしての自意識に翻弄される様子を、皮肉と愛嬌たっぷりに演じる姿は、稲垣吾郎さんにしか出せない「孤高の気品」に満ちていました。稲垣吾郎という俳優の底知れない魅力に触れ、ますます目が離せません......!