丁寧に作られた脚本が魅力の演劇ユニット「iaku」。2018年の初演中に早くも再演依頼が来たという『逢いにいくの、雨だけど』は、「許すこと/許されること」とは何かをテーマに、「逢うという行為」の意味を問いかける、いま観られて良かったと思える作品でした。(2021年4月・三鷹市芸術文化センター 星のホール)
不慮の事故をきっかけに、あらわになる感情
絵画教室に通う小学生の君子(きみこ)と潤。君子の母の形見であるガラスペンの取り合いっこをしている最中、はずみでガラスペンが潤の目に突き刺さり、潤は片目を失明してしまいます。
それ以来、仲の良かった家族同士は疎遠に。謝罪することもできないまま、27年の月日が経ち、君子は長年の夢だった絵本作家としてデビュー。しかしその絵本をきっかけに、再びふたりは出逢うことになり…。
物語は、過去と現在のシーンが交互に描かれ、ふたりと、ふたりを取り巻く家族の葛藤があらわになっていきます。幼馴染から加害者/被害者の立場となった君子と潤。それぞれの親同士の、以前から抱いていた不満や嫉妬。事故と向き合えず、やがて離散する家族の過去と並行して、現在のシーンで、当事者である君子と潤は27年ぶりに言葉を交わします。
逢うという、許し。
君子は、謝りたいという想いをずっと抱えて生きてきました。しかし潤は、あれは事故だったと君子の謝罪を拒みます。もちろん、そんな言葉で片付かないほど、あの日以来ふたりも、家族の人生も一変しています。罪の意識も、辛い過去も、消えることはありません。
結局、ふたりは、明確な結論を出すことなく別れます。でもその顔は少し晴れやかでした。台詞として理由が語られたわけではありませんが、そこには、互いの心の傷を共有したことで生まれる、かすかな癒やしがあったのだと思います。謝罪を受け入れてもらうことではなく、心を通わせること。それが「許される」ということかもしれない。だから、人は人に逢いにいくのかもしれません。
そう思わせてくれた緻密に練り上げられた脚本と、心の揺れを丁寧に演じきった役者陣。すべてがそろって初めて生まれる、静かな感動が劇場を包んでいました。
残念ながら大阪公演は緊急事態宣言のため中止となりましたが、2018年の初演DVDはiakuウェブサイトで購入できますので、気になる方はぜひチェックしてみてください。公式サイトはこちら