20世紀初頭のアメリカでそれぞれ異なるルーツを持った人々が交わり合い、新しい時代を切り拓いていく姿を描いた傑作ミュージカル『ラグタイム』。2023年の日本初演で大反響を呼んだ作品が、2027年3・4月に待望の再演を果たします。

20世紀初頭のニューヨーク。3つの家族の運命が交錯する

『ラグタイム』は、E・L・ドクトロウの小説をもとにテレンス・マクナリーさんが脚本、リン・アレンズさんが歌詞、スティーヴン・フラハティさんが音楽を手掛けたミュージカルです。

激動の20世紀初頭、全米の移民の約9割が降り立ったといわれるニューヨークの地を舞台に、ユダヤ人、黒人、白人という3者3様の家族の運命が交錯。差別や偏見に直面しながらも互いを受け入れ、より良い未来を築こうとする人々の群像劇となっています。

1998年にブロードウェイで初演されると、トニー賞で13部門にノミネートされ、最優秀脚本賞や最優秀オリジナル楽曲賞など4部門を受賞。同年のドラマ・デスク賞でもミュージカル最優秀作品賞や最優秀脚本賞、最優秀作曲賞などを獲得し、高く評価されました。

さらに2026年、第79回トニー賞においてミュージカル・リバイバル作品賞を含む4部門に輝いたことも大きな話題に。今この時代に本作を上演する意味について、クリエイターから観客まで強い関心を持っていることがうかがえます。

オリジナル版の脚本のテレンス・マクナリーさんは、アメリカを代表する劇作家の1人。ブロードウェイからオフ・ブロードウェイまで幅広く活躍し、人間の生き方や多様な愛の在り方をテーマに作品を創り続けました。本作に加えて舞台『Love!Valour! Compassion!』、『マスタークラス』、ミュージカル『蜘蛛女のキス』で4回もトニー賞を受賞した経歴を持ち、2019年には長年の功績に対し、トニー賞の特別功労賞を授与されています。

タイトルの「ラグタイム」とは、19世紀末から20世紀初頭のアメリカで発展した音楽様式のこと。アフリカ系アメリカ人の音楽文化とヨーロッパ由来の音楽形式が交わる中で生まれ、シンコペーションによる躍動的なリズムが特徴です。後のジャズにも大きな影響を与えました。

本作ではラグタイムをはじめ、多彩な音楽によって異なる文化や価値観を持つ人々の姿が描き分けられています。

日本初演で手腕を発揮した藤田俊太郎が再び演出

日本では長らく上演が実現していなかった本作ですが、初演から25年経った2023年、ノンレプリカ版として待望の日本初演を迎えました。

2023年の日本初演は高く評価され、第49回菊田一夫演劇賞の大賞を受賞。第31回読売演劇大賞では、藤田俊太郎さんが最優秀演出家賞に輝いたほか、作品が優秀作品賞、美術の松井るみさんが最優秀スタッフ賞を受賞しました。

4年ぶりの再演にあたって再び演出を手がけるのは、日本初演の立役者の1人である藤田俊太郎さんです。藤田さんは演出家の蜷川幸雄さんのもとで演出助手として経験を積んだ後、独立して演出家の道へ。外部での演出1作目となった2014年のミュージカル『The Beautiful Game』で読売演劇大賞の杉村春子賞と優秀演出家賞に選出され、早くからその手腕に期待が寄せられていました。

以降、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』や『VIOLET』、舞台『リア王の悲劇』など数々の話題作を演出。直近の2026年7月には舞台『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』の演出を手掛け、井上ひさしさんの未上演戯曲を現代的な視点から再構成しました。今回、100年以上前の世界と現在でいまだに社会を分断する不寛容さや格差といった課題と真摯に向き合い、演出を通じて未来への希望を物語に託します。

<あらすじ>
ユダヤ人のターテ(石丸幹二)は、娘の未来のために移民となり、遠くラトビアからニューヨークにやってきた。黒人のコールハウス・ウォーカー・Jr.(小林 唯)は才能あふれるピアニスト。恋人のサラ(遥海)は彼に愛想をつかし、二人の間に生まれた赤ん坊を、ある家の庭に置き去りにしてしまう。赤ん坊が置き去りにされたのは、裕福な白人家庭の母親 マザー(安蘭けい)の家だった。偏見を持たず、正義感にあふれるマザーは、夫のファーザー(川口竜也/宮原浩暢)が長く家を不在にしている中、赤ん坊を拾い上げ家に迎え入れる。

マザーの弟であるヤンガーブラザー(入野自由)は生きがいをもとめる不器用な若者。アメリカ中の注目の的である美人女優のイヴリン・ネズビット(潤 花)に愛の告白をするが、イヴリンは公衆の面前で彼にキスをしておきながら、その後すぐに軽く拒絶する。

ターテと娘はニューヨークに着いてから貧しい生活が続いていた。やがて同胞の女性アナーキストであるエマ・ゴールドマン(土井ケイト)、奇術師にして“脱出王”の名をとどろかせていた、ハリー・フーディーニ(舘形比呂一)と縁を結ぶことになる。

サラの愛を取り戻すため、マザーの家に身を寄せる彼女の元に通い詰めるコールハウスは、今や“ラグタイム”を奏でるピアニストとして世間で注目され始めていた。ヘンリー・フォード(畠中 洋)が世に送り出したT型フォードを買うことができるくらいまで稼げるようになったが、黒人を蔑視する白人たちに車を破壊されてしまう。そんな中、教育者、作家として啓蒙活動を行う、ブッカー・T・ワシントン(EXILE NESMITH)のように、社会に影響を与える黒人も現れ始めていた。自らの正義と、生まれたばかりの息子の未来を守るため、差別に立ち向かおうとするコールハウスではあったが…。

石丸幹二・安蘭けいが続投、小林唯がコールハウス役で初参加

本作では、ユダヤ系移民、裕福な白人家庭、黒人コミュニティという異なる背景を持つ3つの家族を中心に、物語が展開していきます。

まず、ユダヤ系移民のターテ役を務めるのは、初演に引き続き石丸幹二さんです。劇団四季の看板俳優として人気を博し、退団後も高い歌唱力と緻密な演技力を武器に、数多くの舞台・ミュージカルで活躍。さらに映像作品に出演するだけでなく、テレビ番組の司会や音楽分野への進出など多方面で活動を展開しています。2026年12月には、鹿賀丈史さんと市村正親さんが長年コンビを組んできた人気ミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』で、初のWキャストとなる主役カップルの1人を演じます。初演でターテの葛藤と希望を体現した石丸さんが、再演でどのような変化を見せるのか注目です。

裕福な白人家庭の母親・マザー役に、初演と同じく安蘭けいさん。元宝塚歌劇団の星組男役トップスターであり、現在は舞台やミュージカルを中心に数々の作品で実績を残しています。2026年はミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』と『ディア・エヴァン・ハンセン』でも母親役を務め、それぞれの心情を丁寧に汲み取って表現しました。本作では絵に描いたような良妻賢母であるマザーが、さまざまなルーツを持つ人々と交流する中でより強く、1人の人間として自立していく姿を等身大で演じます。

黒人ピアニストのコールハウス・ウォーカー・Jr.役には、本作初参加の小林 唯さん。2023年まで劇団四季に所属し、『アラジン』や『美女と野獣』など数々の人気作で主要な役を経験しました。幅広い音域での歌唱力や豊かな感性に磨きをかけ、卒業後も次々と話題作に出演。2027年1月まで上演中のミュージカル『ミス・サイゴン』ではクリス役、また2027年夏開幕予定の『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』ではクリスチャン役と、憧れの役を演じる機会が続きます。高い歌唱力と繊細な表現力を持つ小林さんが、作品の中心となる難役にどう挑むのか期待が高まります。

メイン3人を取り巻く面々にも、豪華なキャストが集結します。

コールハウスの恋人でマザーの世話になる女性・サラ役には、近年ミュージカル界で鮮烈な印象を放つ歌手の遥海さんが続投。2020年のミュージカル『RENT』をきっかけにミュージカル俳優として注目を集め、『SIX』や『ジェイミー』などの作品ではパワフルな歌唱と生き生きとした演技で観客の心を掴みました。

新しい時代の変化になじめず苦悩するマザーの夫・ファーザー役は、今回からWキャストに。1人は、数多くの舞台やミュージカルで確かな存在感を示す川口竜也さんです。なかでもミュージカル『レ・ミゼラブル』では2021年公演まで長らくジャベール役を務め、内面の揺らぎを滲ませた迫真の芝居でファンから厚く支持されました。

もう1人は、初参加となる宮原浩暢さん。ヴォーカルグループ「LE VELVETS」のメンバーで朗々としたバリトンボイスに定評があり、コンサートだけでなく朗読劇やミュージカルにも活躍の場を広げています。

マザーの弟・ヤンガーブラザー役には、声優として圧倒的な人気を誇る一方、ストレートプレイからミュージカルまで精力的に舞台出演を続ける入野自由さんが初めてカンパニー入り。豊富な経験を活かし、若者の揺れ動く心境を全身で表現します。

さらに、劇中には実在した著名人が登場し、フィクションと史実を織り交ぜた世界観を支えています。

そのうちの1人、ユダヤ人アナーキストのエマ・ゴールドマンを演じる土井ケイトさんは、多彩な役を柔軟に演じ分ける実力の持ち主です。

同じくユダヤ人で奇術師のハリー・フーディーニ役は、エンターテインメント集団「THE CONVOY SHOW」オリジナルメンバーとして、俳優・舞踊家・振付家とマルチに才能を発揮する舘形比呂一さん。

また、当時私生活のスキャンダルでアメリカ中の話題となった美人モデルのイヴリン・ネズビット役で初参加するのが、潤 花さん。元宝塚歌劇団宙組トップ娘役を経て、現在は舞台や映像作品で活動中です。

そしてミュージカルを中心にドラマや吹き替えなどでも活躍する畠中 洋さんが、大量生産方式で有名なフォード・モーターの創設者ヘンリー・フォードと、マザーの家族・グランドファーザーの2役を担います。

最後に、ブッカー・T・ワシントン役を演じるのは、ダンス&ボーカルユニット「EXILE」のヴォーカリストとしてだけでなく、近年は舞台での活躍が光るEXILE NESMITHさん。差別が色濃く残る時代において教育者や作家として活動し、劇中ではコールハウスに影響を与える人物を演じます。

ミュージカル『ラグタイム』は2027年3月10日(水)から4月4日(日)まで東京芸術劇場 プレイハウスにて上演。4月10日(土)から11日(日)まで愛知県芸術劇場 大ホール、4月16日(金)から18日(日)まで兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホールにて上演が行われます。公式HPはこちら。

もこ

作品設定こそ100年以上前のアメリカですが、現在の世界、そして日本が抱えている問題とあまりにも重なりすぎていて、その現実に打ちのめされそうになりました。しかしただ悲嘆するのではなく、本作を通じて「ではどうすればいいのか?」と考えることにこそ意味があるのだと信じたくなります。