群像コメディを得意とする劇団・ヨーロッパ企画。映画『ペンギン・ハイウェイ』『夜は短し歩けよ乙女』の脚本を務めたことでも知られる上田誠さんが代表を務め、すべての本公演の脚本・演出を担当しています。2年ぶりの本公演となる第40回公演『九十九龍城』。香港の「九龍城(砦)」をモデルに、魔窟で暮らす人々を描いた作品です。(2022年1月・本多劇場)※ネタバレにご注意ください
魔窟・九十九龍城とは?
香港にかつて存在していたスラム街「九龍城砦(きゅうりゅうじょうさい)」。英国の統治下にあった香港の中で、九龍城砦は中国側が保持していた領有地だったことから、法的位置付けが曖昧になり無法地帯になったそうです。0.03平方キロメートルの土地に3万人以上の人々が暮らし、ブロックのように住居を積み上げて行ってしまったという異様な場所。九龍城砦の中に許可を得ていない学校や美容院、違法な賭博場、衛生基準のない工場などがあり、独自の社会が築かれていたのだとか。
今は取り壊されて公園となりましたが、もし九龍城砦が残り続けていたら…。『九十九龍城』では九龍城砦が肥大した世界を描きます。本多劇場に九龍城砦さながらのセットが出現。そこで暮らすのは、小さな部屋で精肉工場を営む者、スマホの海賊版らしきものを作っている者、看板の上で寝るという高度な技を繰り広げる者まで!
まるで映画館?!映像を利用した仕掛けに注目
本作で特に印象に残ったのは、映像を上手く演劇に取り入れていること。なんと上演前には劇団の宣伝動画まで流れ、観客からも「映画館みたいだね」という声が挙がります。物語の始まりは、事件を追う刑事が特殊な映像技術システムを使って九十九龍城を監視するというところから。舞台一面に広がったスクリーンがPC画面となり、観客は刑事たちと共に九十九龍城を監視する映像技術システムに入り込むのです。
演劇では舞台上で物語が完結し、観客は物語上いないものとされることも多いですが、個人的には目の前に観客がいることを利用した作品は、演劇が“ナマモノ”であることを活かしていて印象に残ります。例えば俳優が観客に話しかけたり(『3年B組皆川先生〜2.5時幻目〜』)、観客が演出の一部になったり(『マクベス』)。本作では刑事たちと共にPCから九十九龍城を覗き見し、物語に入っていく感覚を味わえる。映像という新たな表現手法を使いながら、演劇らしさを追求する仕掛けに感心させられました。 また物語後半では映像を利用した新たな仕掛けも!思わず笑いの起こる、そして意外な結末が待っています。ぜひ劇場でヨーロッパ企画の真骨頂を体感してください。公式HPはこちら
『九十九龍城』は1月23日まで本多劇場にて上演。その後、広島・福岡・名古屋・高知・大阪・横浜など全国で公演が行われます。