2022年M-1グランプリで準決勝に進出し話題となったお笑いコンビ「かもめんたる」。2015年から「劇団かもめんたる」を旗揚げし、2020年・2021年には岸田國士戯曲賞候補にも選ばれました。今アツい劇団かもめんたるの最新作、『奇事故(KIJIKO)』の初日観劇リポートをお届けします。(2023年1月・あうるすぽっと)※以降、若干のネタバレがあります

催眠術がもしもずっと解けなかったら。奇妙な物語の中に滲む、家族の切なさ

昭和XX年、大人気催眠術師・木村トーゴーが舞台上で殺されるという事件が発生。ちょうどその時、海賊のキャプテンになる催眠術をかけられていた少女・雉子(きじこ)は、催眠術が解けないままとなってしまいました。自分が海賊のキャプテンだと思い込んでいる雉子は、海賊らしい振る舞いで家族を困惑させます。木村トーゴーの催眠術は強力だったようで、一向に催眠が解けないまま時が経過していってしまいます。

奇妙な展開はコメディさもありながらも、“本来の娘”を失ってしまった家族のやりきれなさが胸に迫ります。どうにか元に戻したいと、藁にもすがる思いで様々な人に助けを求めながら、前例のない出来事に戸惑う気持ち。

筆者は催眠術を体験したことがないのですが、催眠術にかかる番組などを見ていると、本当にこんなことがあるのだろうか…?と疑いながらも少し怖さも感じます。催眠にかかりやすい方は解けにくくもあると聞いたこともありますが、“解けないかも”と感じる瞬間は、本人や家族はかなり恐怖を感じるのではないでしょうか。

そもそも、催眠術というもの自体も奇妙なものです。自分ではない何かになったと思い込んでしまうなんて。

悲壮感漂う家族に対して、海賊になりきっている雉子は生き生きとしていて、それがさらに状況の“奇妙さ”を加速させます。彼女は心の底から海賊になりたかったのかもしれない、潜在的な意識からそうなっているのだとしたら、今のままでも良いのかも…?世の中に正解などないのだと改めて感じさせられます。

もちろん笑いも!奇妙な物語にスパイスを加えるキャラクターたち

考えさせられる部分も多いストーリーですが、もちろんコメディシーンも多数。岩崎う大さん、槙尾ユウスケさん、宮下雄也さんらが演じるキャラクターたちが、奇妙な状況にツッコミを入れていきます。キャロパン 平岡さん演じる、ちょっと絶妙に空気の読めない言動をしてしまう雉子の元担任の先生も、作品の良いスパイスに。

また物語は怪奇事件を追うYouTuberらしき人物の視点から語られるのですが、彼の言葉の意味を観劇後に理解するなど、伏線も楽しめました。二度見ると、また作品の印象が変わりそうです。

劇団かもめんたる第12回公演『奇事故(KIJIKO)』は1月29日(日)まで東京・あうるすぽっとで上演中。お見逃しなく!

Yurika

カーテンコール時には写真撮影OKの時間も。Tシャツやタオルなどのオリジナルグッズや、台本も販売しているそうです。