世界で最も有名なこのミュージカルを日本中に届けてきた劇団四季。おなじみのキャッチコピー「劇団四季のオペラ座の怪人は凄いらしい」とともに、2020年秋、新劇場で『オペラ座の怪人』は再びその幕を開けました。劇団四季に受け継がれる作品の真髄と進化を感じさせる舞台に、胸がいっぱいの観劇でした。(2020年・JR東日本劇場[秋]、東京)
『オペラ座の怪人』の魅力-世界が熱狂する複雑な愛の三角関係-
はじめに、いち作品ファンとして本作の見どころを紹介させて下さい。世界各地にリピーターを生むこのミュージカルの魅力は、怪人とクリスティーヌ、ラウルの三角関係の描き方にあると言っても過言ではありません。
オペラ座の地下世界で至高の音楽を追究し、作曲した楽曲をクリスティーヌの歌声で完成させたいと願う孤独な怪人。彼の歪んだ愛が彼女の心を惹きつけ、そして恐怖の底に突き落とします。怪人に怯えながらも、彼の音楽の前では無力になってしまうクリスティーヌ。彼女を守ろうと怪人に対峙するも、クリスティーヌの心から彼女と音楽で結ばれた怪人の存在を消し去ることができないラウルの複雑な心境…。
彼らの複雑な愛憎劇は解釈の余地を残し、演出の違いや俳優の表情によって見え方が多様に変化します。時にはあなた自身の経験や人生観の変化によって、物語の捉え方が変わる。そんな多面性が観る者の心を捉えて離さないのです。
継承されてきた作品で放たれる個の力
さて、本題に戻ります。
現在『オペラ座の怪人』を支える俳優陣の中には、長年出演しているベテラン勢も多数。後輩達に作品の核を受け継ぎ、安定感ある舞台を支える要として、円熟味を醸し出していました。 加えて、今回は一人一人の俳優が際立っていたように感じます。主要キャストはもちろんのこと、アンサンブル(その他大勢を演じ分ける役者)達が表情豊かに存在し、個々が発するエネルギーが物語のドラマ性を高めていました。
主要キャストでは、山本紗衣さん演じるクリスティーヌに心を奪われました。怪人への思慕と憎しみ、それぞれの感情を体当たり的な表現と安定感ある歌唱で表現し、まさしく「音楽の天使」の技量を惜しみなく発揮されています。 不定期にキャストを入れ替えながら上演しているため、他の俳優さんの演技も気になるところ。次はどのような配役で物語の解釈を深めていけるのか、と次回の観劇が楽しみになってしまうのが劇団四季ロングラン公演の醍醐味です。
新たな輝きを灯したシャンデリア
浜松町のJR東日本劇場[秋]のこけら落とし作品として選ばれた本作。実は、劇団四季では専用劇場のこけら落とし作品として『オペラ座の怪人』を上演するのが慣例だそうです(※)。初演から代々劇場を渡り歩いてきた、作品のシンボルでもある巨大なシャンデリアは、今回の開幕に合わせて新調されました。作中で最もドラマティックな役割をもつこの大道具。観客を物語に惹き込むその燦々たる輝きは、新たな劇場で未来を築いてゆく劇団の姿と重なり、力強い希望が灯ったように感じました。 (※https://www.shiki.jp/applause/operaza/learn_more/locus_2.html より)
2021年も『オペラ座の怪人』はあなたを劇場へと誘います。作品に馴染みがある方も、そうではない方も、怪人が奏でる音楽の世界に足を踏み入れ、甘い調べに酔いしれてみてはいかがでしょうか。