フランス革命期のフランスにおいて、マリー・アントワネットやルイ16世の首を刎ねた死刑執行人のシャルル=アンリ・サンソン。そんな彼の数奇な人生を描く舞台『サンソン −ルイ16世の首を刎ねた男−』が、4月14日(金)より東京建物 Brillia HALLにて開幕しました。今作は2021年に初演されましたが、数度の上演後、コロナウイルスの影響により、東京と大阪公演は中止に。しかし、悲運に負けることなく、新メンバーを加え、舞台『サンソン』のカンパニーが再び蘇ります。そんな舞台の初日前日の公開ゲネプロと取材会の模様をお届けします。

死刑の意義について考えさせられる

撮影:竹下力

舞台はマントを羽織ったシャルル=アンリ・サンソンが颯爽と登場し、とある法廷の被告として死刑執行人の存在の重要性を証言するシーンから始まります。その威風堂々たる佇まいは、自らの職業を誇らしげに喧伝する趣で、シャルルの揺るぎない自信が見て取れます。その裁判で勝利した後、ルイ16世の即位に伴い、彼の恩寵を受けながら、シャルルは死刑制度の改革に乗り出そうと決意します。時には蔑まされる地位の仕事についているせいか、誰からも祝福される人生を歩んでいる訳ではありません。それでも、彼を突き動かしているのは正義を貫徹しようとする勇気でした。

撮影:竹下力

しかし、ルイ16世による貴族達の圧政に耐えかねた市民達がバスティーユ牢獄を襲撃したことで、事態は変わっていきます。フランス革命の機運に乗って、理不尽な処刑が数多く行われると、「何が正義で、何が悪なのか。そもそも人間とは何か」という問いかけを観客は舞台からヒシヒシと感じ始めるようになります。死刑執行人のシャルルは、その問題に真正面から向き合って葛藤しながら答えを見つけ出そうとします。

スタッフワークの妙技が光る

舞台の奥、下手、上手には、3階建ての櫓が聳え立ち、そこで民衆がヤジを飛ばし、シュプレヒコールをあげます。見せ物小屋のようでありながら静謐でカオスな空間。舞台奥の櫓の前に幕が降りて映像を写したかと思えば、何もない舞台の中央は処刑場や酒場、あるいは法廷などに見立てられます。18世紀のフランスのパリの混沌とした街並みを緻密なタッチで描いた舞台美術の二村周作さんの手腕が際立ちます。

撮影:竹下力

死刑を扱った作品ということで、重厚で悲劇的な舞台と思われるかもしれませんが、物語は誰もが楽しめるエンターテインメントになっている点に注目です。

撮影:竹下力

それを担っているのは、まず脚本を手がけた中島かずきさん。劇団☆新感線の座付きの作家で、エンターテインメント色の強い作風でも知られていますが、18世紀の海外という日本とは異なる場所と過去のお話であっても、現代の私たちにとって我が事のように感じられる台詞回しとピリッと効いたユーモアで、親近感のある物語に仕立て上げています。

さらにバロック調のクラシック音楽からノイズとマシーンビートが鳴り響く現代音楽を奏でる三宅純さんの楽曲は、狂乱とした時代を卓抜に表現しながら、観客の感情の流れに寄り添うポップな音楽でいつまでも耳に残ります。

そんな有能なスタッフの皆さんの能力を最大限に引き出しながら、死刑が日常茶飯事になったフランスに張り詰めた異様なテンションを壊すことなく、その中で翻弄される多くの人々の悲劇を饒舌に表現することで人間の本質を炙り出し、観客の視線を舞台に釘付けにするのは、稀代の演出家、白井晃さんの繊細な演出によるところが大きいでしょう。

個性豊かな俳優陣が魅せる熱いお芝居

そんなスタッフに支えられる俳優陣のお芝居も見所です。特にシャルル役の稲垣吾郎さんは印象的で、殺伐とした時代を生きる人間が、激しい怒りを発散させながらも、時に愛らしく、時に悲しく振る舞い、それでもどんな困難があっても負けないという凛とした意思を感じさせる演技は見事でした。そこにシャルルがいるような存在感のある稲垣さんは圧巻です。

撮影:竹下力

ルイ16世役の大鶴佐助さんは、国王の権威が失墜していく様をさらりとした軽妙なお芝居で見せることでかえって、国王の抱える切なさと孤独と深い絶望が顕になり、思わず感情移入してしまうほどの人間味溢れるキャラクターを演じていました。

2.5次元舞台でも活躍されるトビアス・シュミット役の崎山つばささんは、友を助けるために躍動する熱血漢で一本気なお芝居が素晴らしかった。ジャン=ルイ・ルシャール役の佐藤寛太さんは、不幸にして殺人を犯した時の悲しみやどことなく頼りのない性格を丁寧に表現していて見応えがありました。

撮影:竹下力

初演のメンバーである落合モトキさん、清水葉月さん、田山涼成さん、榎木孝明さん、今作から参加する池岡亮介さん達の個性豊かなお芝居も魅力的でした。まさにカンパニー一丸となって作り上げる舞台。コロナウイルスによって上演中止になった不幸を吹き飛ばす熱量が劇場に満ちていて、演劇の愉悦を味わえる素晴らしい作品です。

公演中止で稲垣吾郎が改めて感じた舞台の魅力とは

撮影:竹下力

公開ゲネプロの前に行われた取材会では、稲垣吾郎さん、大鶴佐助さん、崎山つばささん、佐藤寛太さんが登壇しました。

コロナウイルスで中止になった初演のことを聞かれると、稲垣さんは「初演の公演中止に一番悔しい想いをしていたのは演出の白井さんなんです。だから白井さんは今作を『再演』ではなく初演の続きである『再始動』とおっしゃっていて、この舞台にかける熱い想いを感じました。そんなお気持ちを抱きながら細部までこだわって演出して下さったおかげで、お客様の心にも記憶にも刻まれる素敵な作品になると思います。僕も突然の中止で本当に辛かったのですが、今作の上演が決まり、頭は冷静、心は熱く、自分のペースを乱さないように役を作っていきました」とコメント。

今回が初参加となる大鶴さんは「ルイ16世という歴史上の人物を演じるとは思ってもいませんでしたが、成り切れるように頑張りたいと思います」と抱負を述べました。同じく初参加の崎山さんと佐藤さんは座長の稲垣さんの印象を聞かれ、佐藤さんは「ほんわかされていて話しやすかったです」と述べ、崎山さんは「お芝居を細かいところまで観てくださる方で、これから千穐楽までにも色々なお話が出来れば嬉しいです」と語りました。

初日を無事に迎える前に、稲垣さんは舞台の魅力を改めて感じたそうで「舞台は僕が最も自分らしく、素直で自由でいられる場所だと実感しています」とコメント。最後に「皆さん劇場でお待ちしております。ぜひ、いらしてください」と挨拶し取材会を締め括りました。

舞台『サンソン −ルイ16世の首を刎ねた男−』は、2023年4月14日(金)~4月30日(日) 東京建物 Brillia HALLにて上演。その後、5月12日(金)〜14日(日) 大阪・オリックス劇場にて公演。そして5月20(土)〜21日(日) 松本・まつもと市民芸術館 主ホールにて上演します。詳細は公式HP(https://sanson-stage.com)をご確認ください。

竹下力

現代でも死刑制度がある日本において、とても考えさせられる舞台です。物語に感情移入しながら、身につまされる仕掛けが随所に施され、一瞬たりとも飽きずに観ることが出来ました。死刑とはこの時代の日本においてどんな意味を持つのか、そんなことを折りに触れて考えていきたいと感じました。