日々、実はたくさんの作品が上演されている小劇場演劇。どれを観たらいいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。今回は、Audience編集部が独断と偏見で、7月に上演している作品の中からおすすめ作品を3本セレクトしてみました!

とある女性の日記から昭和最後の20年間をたどる。二兎社特別企画 ドラマリーディング6『転職日記』

2019年に公演した『走り去る人たち』が好評を博し、シリーズ化した二兎社のドラマリーディング企画。若手俳優が二兎社の主宰で演出家・劇作家の永井愛さんの戯曲と向き合い、ワークショップを通して、台詞を発するメカニズムを理解・共有し、意見交換をしながら「永井ワールド」を全員で作り上げます。
その成果を「ドラマリーディング」として実際の舞台上で発表するという企画です。

第6弾となる今回は、ドラマリーディングの第5弾『探りあう人たち』で一部上演したところ「全部読みたい」との声が多く上がったという『転職日記』を上演します。これまでのドラマリーディングではオムニバス形式での上演だったため、戯曲を全編通して読むことは今回の公演が初挑戦となります。

『転職日記』は、ある女性の書いた「日記」という形式で、ビートルズが来日した1966年からリクルート事件が起きた1988年まで、昭和最後の20年余りを辿った作品。本作で描かれている社会の片隅で生きたヒロインの転落記は、一個人の日記に留まらず、この時代の「ニッポンの日記」とも言えるものとなっています。

出演者は、約400人の中からオーディションで選ばれた、板場充樹さん、伊藤麗さん、尾崎京香さん、釜木美緒さん、岸本敏伸さん、小嶋佳乃子さん、遠山悠介さん、平井友梨さん、ホリユウキさん、町田敬介さんの10名。20代から30代の出演者たちにとっては、まだ生まれてもいない未知の時代を扱った戯曲。どのようなドラマリーディングとなるのか、期待が高まります。

二兎社特別企画 ドラマリーディング6『転職日記』は、東京芸術劇場シアターウエストにて7月29日(土)、7月30日(日)に上演です。(※7月29日(土)13:00/18:00の終演後にアフタートークあり)公式HPはこちら

翻訳劇に付き纏う“違和感”を、日本語・英語・バイリンガル(日英ミックス)の3バージョンでの上演で解消したい!ハルナツ『Proof』

今作が旗揚げ公演となる、俳優・翻訳家の小林春世さんと俳優の佐藤千夏さんが立ち上げたユニット・ハルナツ。アメリカを代表する劇作家デイヴィッド・オーバーンの『Proof』を、日本語・英語・バイリンガル(日英ミックス)の3バージョンで上演します。

小林春世さん(左)、佐藤千夏さん(右)

『Proof』の舞台はアメリカのシカゴ。主人公のキャサリンは、天才数学者のロバートを父親に持ち、同じく数学を学んで育ちました。ロバートは、精神を病みながらも数学の証明を続けようとしていましたが、晩年には数学もできないほどの状態であったため、キャサリンは自分の勉学を諦め、父の介護に人生を捧げていました。

ロバートが亡くなってしまった後、ロバートの研究を引き継ごうと、教え子のハルが家にやってきます。妹・キャサリンの身を案じるクレアは、ニューヨークから帰ってきます。家の中から未発表の「証明:proof」が書かれた1冊のノートが発見され、キャサリンがこの証明について2人に打ち明けることとは…。

本作は、2001年に第55回トニー賞 演劇作品賞とピュリッツァー賞 戯曲部門を受賞しており、2005年には映画化もされている名作です。日本でもこれまでに様々な翻訳家によって訳され、上演されてきました。今回は日本語・英語・バイリンガル(日英ミックス)での上演という恐らく演劇界初の試み。

翻訳・出演(クレア役)を務めるのは、演劇集団キャラメルボックス劇団員の小林春世さん。令和2年度文化庁新進芸術家海外研修制度で採択され、1年間研修員として米国ニューヨークに派遣されていました。その際に、授業で『Proof』に何度も取り組む機会があり、演じていくうちにどんどん作品に魅了されていったと言います。

そして、大学時代に数学を専攻していたことから特別な思い入れのある作品である『Proof』を“生きているうちに必ず挑みたい作品”と言っていた友人の佐藤千夏さんを誘い、この企画が始動したのだそう。

英語版・バイリンガル版での上演の一番の目的は、「翻訳劇の上演に付き纏う“違和感”を解消すること」だと語るハルナツのお二人。

「違和感の正体を、元の言語で現地の方が演じると必ずあるであろう“文化的な何か”が、日本語になると消えてしまうことなのではないかと考え、英語版にも同時に取り組むことで、台詞の持つ本来の意味や現地の文化にも向き合い演じます。その結果、日本語版の上演でもそれが生かされて表現が変わり、新たに見える景色があるのではないか」という目論見です。

また、小林さんは現地の文化の調査・研究のため、シカゴ・ニューヨークまで足を運んだり、ニューヨークの演劇学校で『Proof』に取り組んでいた際には、単語の細かなニュアンスまで研究したそう。そのような体験を持つ小林さんから生まれる新たな翻訳、そして、英語版、バイリンガル版での上演という新たな試みが楽しみです。
日本語版キャストは、ロバートに高川裕也さん、キャサリンに佐藤千夏さん、ハルに祁答院雄貴さん、クレアに小林春世さん。英語版&バイリンガル版キャストは、ロバートに田中壮太郎さんキャサリンにリサリーサさん、ハルに祁答院雄貴さん。クレアを小林春世さんが演じます。

ハルナツ『proof』は、7月21日(金)〜7月29日(土)に東京・シアター風姿花伝にて上演です。
(※英語公演の7月23日(日)12:00/7月24日(月)19:00回は、日本語字幕付きでの上演を行います)詳細は公式HPをご確認ください。

限られた予算を奪い合え!アツい高校生群像劇『沸騰!予算会議』

8月にシアタークリエでの上演が決まっている『SHINE SHOW』で脚本を務めている、アガリスクエンターテイメントの冨坂友さんによる新作書き下ろし公演『沸騰!予算会議』。

出演者には、2015年に舞台『「美少女戦士セーラームーン」-Un NouveauVoyage-』で初舞台を踏み、舞台を中心に活動している髙橋果鈴さん。

ミュージカル『赤毛のアン』やテレビ朝日『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』に出演、吉本坂46メンバーでもある渡口和志さん。

ドラマ『消えた初恋』や『ドクターホワイト』、映画『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜ファイナル』など話題作に出演している北園紫音さん。

アガリスクエンターテイメント番外公演『ナイゲン』(2022年版)や、シベリア少女鉄道vol.34『どうやらこれ、恋が始まっている』、vol.35『アイ・アム・ア・ストーリー』に出演していた大見祥太郎さん。

そして昨年11月に開催された、冨坂さんが脚本・演出を務める人気コメディ『いざ、生徒総会』を題材としたワークショップオーディションで合格した島丈明さん、森田亘さん、田島芽英さん、吉田美織さん、舛舘奏楽さん、服部ニコさんの6名に加え、10名が新作公演に挑みます。

10代が3名、20代が6名というフレッシュなキャストが挑むのは、「高校生が自分の部活の予算を確保するために、限られた予算を奪い合い、互いの予算を削り合う、熾烈な予算会議コメディ」です。

冨坂さんが書き下ろした新作のシチュエーションコメディ。浅草九劇の舞台と客席が近い空間だからこそ、“沸騰”する会議の様子が体感できそうです!8月上演の冨坂さん作『SHINE SHOW』と合わせて観劇したいところですね。舞台『沸騰!予算会議』は7月6日(木) 〜7月9日(日)に東京・浅草九劇にて上演です。公式HPはこちら

チケットぴあ
ミワ

今月は小劇場も大劇場も注目の作品が多く、観劇予定を組むのに困ってしまいます!皆さんのおすすめの作品はなんですか?是非Twitterを通して教えてください。