今年で43年目を迎えるミュージカル『ピーター・パン』。11代目ピーター・パンに山﨑玲奈さんを迎え、長谷川寧さんの新演出で生まれ変わります。ダーリング夫人を演じる須藤理彩さんは、ミュージカル初出演。ミュージカルへの挑戦について、長谷川さんの新演出やカンパニーについて、本作で届けたいメッセージなど、お話を伺いました。

“ママの歌声が凄く好き”。娘の言葉でミュージカルへの挑戦を決意

撮影:山本春花

−須藤さんはミュージカル作品への出演が意外にも初めてだそうですね。
「ミュージカルは訓練を重ねた方々が立つ場所だと思っていたので、素人が立つべき場所じゃないとずっと尻込みしていたと言いますか…歌に自信がないのが1番だったんですけれど、それを変えてくれたのが娘の“ママの歌声が凄く好き”という言葉でした。自分の嫌いなところとして歌声を挙げるくらい苦手意識があったのですが、娘が自分の見えていない部分を発見してくれたような気がして嬉しくて。しかも1番身近な人の言葉なので、とても背中を押してくれました。

でもブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』は日本を代表する歴史ある作品なので、特に申し訳ない気持ちがあって、何度も演出の長谷川寧さんに“私で良いんでしょうか?”と確認して、歌を聞いてからもう一度判断してくださいとお伝えして、出演した音楽朗読劇『星の王子さま』を観に来ていただいたんです。そうしたら“歌は大丈夫だと思います”と言ってくださったので、思いきって新しいステージにチャレンジしても良いんじゃないかという前向きな気持ちになれました」

−初めてのミュージカルの現場に参加して、他の現場と違うと感じられたことは?
「まず、私がどこを歌うのかすら分からないくらいの楽譜とデータと資料を渡されて、“この日に歌練習が入っているので”と言われて、もうダメだと思いました(笑)。でも娘がずっとピアノをやっていて、合唱部の部長もやっていたので、娘に相談したら、伴奏と私の歌うメロディー・歌詞を演奏して動画にしてくれて。ミュージカルをやる方はこれを1人でやられているんだと思うと最初から不安になったのですが、娘のおかげでなんとか歌の練習に間に合うことができました。本当に新しいフィールドなのだなと実感しましたね」

−お嬢様は強力なサポーターですね。
「『ピーター・パン』のオファーを頂いた時に、私が出たら作品を台無しにしてしまうんじゃないかと娘に相談していたんです。そうしたら、“絶対にやってほしい”と強く言ってくれて、それならチャレンジしようと思えて。“その代わり助けてよ”と伝えていたので、思いきり頼っています。また娘たちが日々新しいことに挑戦して、出来た!と喜んでいる姿を見ているので、50歳を目前にして私も新しいものにチャレンジしたいなと刺激を受けた部分もありました」

長谷川演出の特徴は、「動き」から気持ちを作る

撮影:山本春花

−カンパニーに参加して感じるミュージカル『ピーター・パン』の魅力は何でしょうか?
「凄くワクワクする作品ですよね。稽古をしていると、毎日ディズニーランドに来ているような気分になるんですよ。まだ実際のフライングも見ていない段階なのに、どのシーンも凄い!と拍手をしたくなるくらいワクワクドキドキしながら、贅沢な稽古時間を過ごしています」

−『ピーター・パン』は明るいイメージとは裏腹に、深く考えさせられるテーマも散りばめられていますよね。ダーリング夫人やウェンディの存在は特に“母親像”の問題提起がなされています。
「私は娘が2人いるので、元々ピーター・パンといえばティンカーベルのイメージが強かったんです。でも今回出演にあたって改めて台本と向き合ってみると、“ずっと子供でいたい”だけじゃないテーマがあるのだと知りました。理想のお母さんというものをみんなが求め続けて、それにウェンディが応えるというのが物語の軸としてあるのですが、ウェンディはダーリング夫人の真似をして理想のお母さんを演じているんだろうなというのが伝わります。なのでダーリング夫人は、最初の登場でみんなが思い描く“理想のお母さん”というものを印象づけなきゃいけないと思っていますし、やりがいのある役だなと思いますね」

−演出の長谷川寧さんと話し合われたことはありますか?
「ダーリング夫人に関しては、ザ・ミュージカルという芝居ではなく、生活感のあるお母さんを演じてほしいと仰っていました。歌唱部分についても、ダーリング夫人として子どもたちに毎晩おやすみの歌を歌い聞かせるというシーンなので、歌い上げるというよりも日常的に読み聞かせをしたり、子守唄を歌ったりしている生活が見える。そういうことをイメージして須藤さんに、とオファーいただいていたので、子どもたちとダーリング夫人がどういう生活をしているのかを考えながら作っていっているところです」

撮影:山本春花

−長谷川寧さんによる新演出版ということで身体表現なども豊富に使われているのでしょうか?
「そうですね。演出の方法もとても独特で、普段芝居する上では“気持ちがこうだからこう動くよね”と気持ち優先で動きを作っていくのですが、長谷川さんは“もうちょっと前のめりに進んでいってもらって良いですか?”とか動きのビジュアルから作っていくんです。

最初は意味が分からなくて、“凄く違和感があるんですけど…”“変じゃないですか?”とか言っていたのですが、その形をやっていくうちに、後で気持ちが乗ってくるようになってきて。前のめりに進んでいくことで積極的な気持ちが出てきたり、動きに気持ちが繋がる瞬間が増えていきました。身体を動かすことで気持ちが動くという作り方は今まで私はやったことのないやり方で、とても新しい経験をしていますね」

−お気に入りのシーンや本作の見どころは?
「今回の『ピーター・パン』は、初めて犬のナナにパペットを使用しているんです。最初はただのパペットに見えていたのが、どんどん命が吹き込まれていて、それが長谷川さんも“ピーター・パンへの新たな挑戦状”だとお話しされているので、ナナの存在感は大きいものになるのではないかなと思います。物語の中でも子どもたちの中でもナナはとても大きな存在なので、新しいナナへのアプローチは楽しみですね。あと今回はパルクールも取り入れているので、視覚的にももの凄くドキドキハラハラさせる要素が加わっています」

プレッシャーのある大役をこなす強さを持つ山﨑玲奈

−11代目ピーター・パンを演じる山﨑玲奈さんにはどのような印象をお持ちでしょうか。
「良い意味で鈍感力があって、素晴らしいです。センターに立つ子は繊細すぎると全部背負ってしまって、潰れちゃうと思うんです。私だったら1日どこかに消えちゃいたくなるくらい(笑)、ピーターパンはプレッシャーのある役です。これまでの歴史もあるし、次に繋げていかなければいけないので、長谷川さんも厳しくする部分もあるのですが、そこに耐えられる強さがあるし、周りを笑顔にさせる力もあります。小学生で『アニー』という大役を務めたキャリアも、活きているのかなと思いますよね」

撮影:山本春花

−『アニー』出演時の山﨑玲奈さんのことはご存知だったのでしょうか?
「実はうちの長女が同い年なんですよ。当時玲奈ちゃんが『アニー』に決まった映像を見ていたのですが、存在感やオーラが凄くて、娘と“この子のオーラ凄いね。この子のアニー見にいきたい”と話して、『アニー』を観劇しているんです。娘と同い年ということもあって余計に凄さを感じていて、今回ご一緒できてもう“あの時の子が立派に…!”とお母さん心で見守っていますね」

−フック船長には、ミュージカル俳優の小野田龍之介さんがいらっしゃいますね。
「小野田さんとは私が『ピーター・パン』に出ていなかったら、もしかしたら一生ご縁がなかったかもしれないですよね、と話すくらい、ミュージカル界でご活躍されているので。フック船長の歌唱力の高さ、歌の迫力は玲奈ちゃんとのバランスも含めて、今までにないことになるんじゃないかと思います。色気もある、大人っぽいフック船長になっていくのかなと感じましたね。製作発表ではマイク要らないじゃんってくらい歌い上げていましたから(笑)」

−カンパニーの雰囲気はいかがでしょうか?
「稽古前からワークショップもやっていたので、共演者同士の距離が近くなるのはとても早かったです。みんなのお母さん的な存在として色々と相談しにきてくれるので、凄く色々なお話をしてくれて、良いチームワークが築けています」

撮影:山本春花

−ドラマ、映画、バラエティなど多方面でご活躍されている中で、舞台ならではの魅力はどこにあると感じられますか?
「映像では基本的に見たい風景や表情を見せてくれる・与えてくれるものだと思うのですが、舞台は物語のほんの一部分だけしか与えられていなくて、あとはそれぞれが想像する。何を見ていても良いんですよね。舞台に見えているネバーランドはほんの一部分で、その裏側にはどんな島があるんだろうと想像したり、この子はどういう表情をしているのかなと自分で自由に見たりすることができます。

時間を重ねるごとに想像力が膨らんでいくのが舞台だと思うし、私たちも表現者として見えない部分をどう見せるのかは気をつけています。例えば後ろを向きながら舞台に出てくると、向こうに何があるんだろう?と想像力を掻き立てることができる。目線一つで空間を広げたり、言動で目の前にはいない登場人物を増やせたり、そういうことが舞台のやりがいですし、楽しんでほしいところです。

あとは観客が参加できるというのも舞台ならではの魅力なので、『ピーター・パン』を見ている皆さんが、“フックがそこにいるよ!ピーター気づいて!”と声をあげたくなるような、好奇心を駆り立てる舞台にしていきたいですね」

撮影:山本春花

−時代を超えて愛され続ける『ピーター・パン』ですが、本作を通して、今の世の中に届けたいメッセージはありますか?
「なかなか親子でのコミュニケーションって薄れてきていて、同じ食卓にいてもそれぞれがスマホやタブレットを持っている時代になっていますよね。でも家族と一緒にいるという普通のこと、“行ってきます”“ただいま”と言い合えることが幸せなのだというのが、『ピーター・パン』のずっと変わらないメッセージだと思っています。ネバーランドに行って子どもたちは楽しく毎日を過ごしているけれど、ふっと一瞬の隙に、“お母さんに会いたい。お家に帰りたい”と思うんですよね。それで家に帰ると、“おかえり”と迎えてくれる家族がいる。子どもにとって楽しいことが家の外にたくさんあっても、家で待っていてくれる家族がいる幸せは変わらずにあると思います。すぐそばに体温の感じる家族がいる安心や幸せが伝わるように、良いダーリング家を作っていきたいです」

青山メインランドファンタジースペシャル ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』は7月25日から東京国際フォーラム ホールCにて上演。詳細は公式HPをご確認ください。

Yurika

『ピーター・パン』への出演が決まった時、須藤さんのお嬢様たちは飛び上がって喜んでいたのだとか。日常的でありながら温かいダーリング夫人が優しく包み込む『ピーター・パン』が楽しみです。