2012年公開の傑作映画を、2020年に宮本亞門さんの演出で世界で初めて舞台化した『チョコレートドーナツ』。コロナ禍で一部公演の中止を余儀なくされた本作が、ルディ役に東山紀之さん、ポール役には新たに岡本圭人さんを迎え、10月に待望の再演です!
全米各地の映画祭で観客賞を総ナメ『チョコレートドーナツ』
映画『チョコレートドーナツ(原題:ANY DAY NOW)』は、ゲイの男性が育児放棄された障がいを持つ子供を育てたという実話に着想を得て製作された作品。社会的マイノリティが直面する問題を告発しつつ、愛と自由を求める人間の本質を描いています。2012年に公開後、全米各地の映画祭で観客賞を総ナメにするなど話題となりました。
原題の『Any Day Now』という言葉は、作中で主人公のルディが魂を込めて歌い上げるボブ・ディランの名曲『I Shall Be Released』の歌詞を引用したもの。いつの日か、私は解放される。映画でも舞台でも、ルディの“魂の叫び”が作品の核になっている本作を象徴するタイトルです。全米ディスコチャート1位を記録したフランス・ジョリの「Come To Me」など、1970年代を映し出すヒット曲の数々が作品を盛り上げます。
邦題の『チョコレートドーナツ』は、ダウン症のある少年・マルコの大好物のチョコレートドーナツに由来しています。また、日本版映画のキャッチコピーである「僕たちは忘れない。ぽっかりと空いた心の穴が愛で満たされた日々―。」という本作を象徴するメッセージもタイトルに込められています。
そして、日本でも広く支持を得たこの映画が、2020年に世界で初めて宮本亞門さん演出で舞台化されました。コロナ禍の影響を受け、一部公演の中止を余儀なくされてしまった本作が、10月に待望の再演です!
家族になることを望む三人。立ちはだかる差別と偏見の壁
『チョコレートドーナツ』の舞台は、1979年のウェスト・ハリウッド。シンガーを夢見るルディは、ショーパブのダンサーとして日銭を稼いでいます。ある夜、ショーパブに客として訪れた検察官のポールは、ステージ上のルディに魅了され、2人はたちまち恋に落ちます。
ルディの暮らす安アパートの隣室には、薬物依存症の母親と、ダウン症のある少年・マルコが住んでいました。ある日、その母親が薬物所持で逮捕され、マルコは施設へ連れて行かれることに。家に帰ろうと施設を抜け出し、街を彷徨っていたマルコを偶然見つけたルディは彼の運命を不憫に思い、彼を引き取るべく、ポールに相談します。
2人は、ポールの法的知識を駆使してマルコを救い出すことに成功。ルディとポールは“いとこ”同士と偽り、生活環境の整っているポールの家で、マルコと共に血の繋がらない3人の共同生活を始めます。
マルコにとって生まれてはじめての「ぼくのおうち」。ダウン症を持つマルコに愛情を注いであげられるのは世界中で自分たちだけ、と確信したルディとポールは、彼を本当の息子のように大切に育てます。しかし、家族になることを望む三人の前に、差別と偏見の壁が立ちはだかるのでした…。
「今もまだ同性婚が認められない日本で、この再演の意味」
本作の翻案・脚本・演出を務めるのは、ミュージカル、ストレートプレイ、オペラ、歌舞伎、能と、ジャンルを越える演出家として、国内外で広く活躍している宮本亞門さん。2022年には、映画「ベスト・キッド」をミュージカル化した『カラテ・キッド』をセントルイスで開幕し、オンブロードウェイに向けて製作中。日本では9月ミュージカル『生きる』、11月オペラ『午後の曳航』、2024年3月にミュージカル『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』で演出を担当、活躍が続きます。
本作の上演について宮本さんは、「この物語は、1979年の実在したゲイと公言するルディを元に作られました。麻薬患者の母から育児放棄されたダウン症のある子供を、ルディは家族のように育てようと奮闘します。しかしLGBTQ+の人たちが家族を育てることは、当時のアメリカでは計り知れない困難を強いられることでした。今もまだ同性婚が認められない日本で、この再演の意味を深め、これからの「あるべき姿」また「あってはならないこと」は何かを、共に考えつつ稽古できればと思っています」とコメントしました。
ルディ役を務めるのは、東山紀之さん。俳優、タレント、報道番組「サンデーLIVE!」のキャスターなど多岐にわたって活躍しています。近年ではドラマ『必殺仕事人』や『大岡越前』『刑事7人』、映画『大人の事情 スマホをのぞいたら』などに出演。 本作の2020年上演時には、70年代のアメリカのヒットナンバーを散りばめた華やかなショーシーンが多く盛り込まれた宮本さんの演出によって、その卓越した歌とダンスで観客を魅了しました。
ポール役を務める岡本さんとの共演について「赤ちゃんの頃に抱っこしていた子が大きくなって、一つの作品で共演できるというのは不思議な感じがしますが、大きな縁も感じます」とコメント。
再演については、「『チョコレートドーナツ』は素晴らしい作品なだけに、たくさんの方に見ていただきたいと思っていたので、もう一度チャンスをいただけて大変ありがたいです。前回、中止となって見ることができなかった方もいらっしゃると思います。これまでよりは生の舞台を安心してお届けできる時期になったので、この普遍的なテーマの作品の魅力を皆様に感じてもらえるよう、時間と場所とを共有できたらなと思います」とコメントしました。
そしてルディと共に障がいのある少年マルコを育てようと、世間と闘う検察官ポール役を務めるのは、岡本圭人さん。近年では、舞台『M.バタフライ』や、『盗まれた雷撃 パーシー・ジャクソン ミュージカル』、『4000マイルズ〜旅立ちの時~』、『ハムレット』と目覚ましい活躍をしています。
岡本さんは『チョコレートドーナツ』の映画が公開された当初に見に行き「美しさの中にある儚さ、人間の強さや脆さ、愛情と優しさ、沢山の感情がちりばめられている作品」と感じたそう。「とても自分の心に響き、そして僕の人生を変えた作品でもあります」とコメントしました。
東山さんとの共演については、「東山さんは僕が小さな頃から抱っこしてもらったり…(笑)自分が生まれた時から成長を見守ってくれていた方なので、自分の心を預けて一緒に作品をつくる事ができるとてもいい環境だと思います」とコメントしています。
ダウン症のある少年マルコ役は、初演同様、実際にダウン症のある青年のオーディションを実施し選ばれた丹下開登さん、鎗田雄大さん、鈴木魁人さんのトリプルキャスト。
2020年の『チョコレートドーナツ』で舞台初出演を果たした丹下さん。NHK BSプレミアムドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』に出演しています。
鎗田さんは、パラリンピックの2016リオ閉会式と2020東京開会式に出演。
鈴木さんは、劇団ラブジャンクス『スーパーマン』『ラブジャンレンジャー』に出演しています。 PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『チョコレートドーナツ』は、10月8日(日)〜10月31日(火)に東京・PARCO劇場にて上演。その後、大阪、熊本、宮城、愛知で上演が行われます。東京公演のチケットは販売中。詳細は公式HPをご確認ください。
物語は1970年代のこと。それから50年経っている今も日本では同性婚が認められていません。このことについて、作品を通して改めて考えてみたいものです。