2023年9月、待望の日本初演を迎えるミュージカル『ラグタイム』。石丸幹二さんがユダヤ人ターテ役、井上芳雄さんが黒人ピアニスト コールハウス・ウォーカー・Jr役、安蘭けいさんが白人家庭の母親マザー役を務めます。開幕に先立ち、ゲネプロと囲み取材が行われました。(関連記事:「音楽の喜びに溢れた社会派ミュージカル、日本初演へ。ミュージカル『ラグタイム』製作会見リポート」はこちら、「ミュージカル『ラグタイム』公開稽古リポート!」はこちら)
3つの人種を象徴する衣装と、空間を立体的に活かした演出に注目
物語の舞台は20世紀初頭のニューヨーク。アメリカの移民の約9割がやってきたと言われる激動の時代に、ユダヤ人・黒人・白人と3つのルーツを持つ家族が、差別や偏見に満ちた世界に立ち向かいます。
演出家・藤田俊太郎さんが製作発表で、ターテが切り絵アーティストであることを1つの視点に考えていると話した通り、ターテ(石丸幹二さん)が舞台上にハサミを切り込む姿を皮切りに、3つの人種の人々が織りなす約10分間のオープニングナンバー「Ragtime」が幕を開けます。
象徴的なのは、人種の違いを肌の色ではなく、美しい衣装や振り付け、所作、歌い方、照明などで演じ分けていること。ユダヤ人はグレー、黒人は原色のカラフルなカラー、白人は真っ白な衣装に全身を包み、美しい音楽と共に行き交っていく「Ragtime」。未来への期待を感じられる本楽曲で一気に心を掴まれます。
また日生劇場の空間を存分に生かした演出も印象的。ニューヨークらしい階段のついたセットや、空中ブランコ、照明、映像など、様々な手法を駆使して本作を立体的に描いていきます。
もう差別させない。明るい未来を夢見て立ち上がる人々
裕福な白人家庭の父親ファーザー(川口竜也さん)が北極を目指して冒険に旅立ったのち、母親マザー(安蘭けいさん)はある日、家の庭に赤ん坊を発見します。黒人女性サラ(遥海さん)が、恋人でピアニストのコールハウス・ウォーカー・Jr(井上芳雄さん)に愛想をつかし、彼の元を去った後に赤ん坊を置き去りにしたのです。
サラと赤ん坊を迎え入れたマザーの家に、サラとよりを戻すべく、毎週日曜日に花束を持ってやってくるコールハウス。彼がピアノで奏でる音楽“ラグタイム”が、マザーを中心とした白人家庭と、サラの心を徐々に溶かしていきます。「New Music」の訪れは、人々の関係性を変えていくことに。サラとコールハウスの心通い合う様がエモーショナルに歌われるデュエットには、多くの人が心を奪われることでしょう。
美しい音楽が人々の絆を深める中で、コールハウスは自分の成功の象徴であるフォードの車を白人たちに破壊されたこと、そして息子の未来への想いをきっかけに、黒人に対する差別に立ち向かっていくことになります。
一方、移民としてニューヨークにやってきたユダヤ人のターテは、貧困に苦しんでいました。労働者階級への差別に怒りを感じながら、日々娘のために働き続けるターテ。貧困から抜け出すことを目指し続ける彼の転機となったのは、娘のために作った切り絵をパラパラ漫画のようにした本。“ムービーブック”は、やがて映画の誕生に紐づいていきます。
そしてマザーは、コールハウスたちを快く受け入れられないファーザーとのすれ違いをきっかけに、夫のために尽くすことだけが人生の喜びではないと気づき始めます。マザーの弟ヤンガーブラザー(東 啓介さん)も、コールハウスが直面する差別に違和感を覚えるように。
ユダヤ人で女性アナーキストのエマ・ゴールドマン(土井ケイトさん)、黒人で教育者・作家のブッカー・T・ワシントン(EXILE NESMITHさん)らが活動する中、時代の流れと共に、動き出していくターテ・コールハウス・マザーの人生。彼らが見つめる先にある未来とは…。
このカンパニーにしか出来ない『ラグタイム』
石丸幹二さん、井上芳雄さん、安蘭けいさんはそれぞれの人種を表現すべく、歌声や所作など細やかな箇所から個性と文化の背景を描き出しています。囲み取材では、「日本で僕たちが演じるにはたくさんのハードルがあったと思いますが、僕たちなりの表現を見つけられたと思います。思いや生活してきたもの、匂い、動作、文化で人となりを表現できたらいいなと思ってやっています」と語った井上さん。
また石丸さんは「もう少し視点を広げてみると、世界中で弱者が強者に立ち向かっていく戦いは日々起こっています。アメリカの歴史の中の1つの出来事として描いていますけれども、自分たちの本当に身近にある問題であることを、稽古をやってきて改めて感じました」と想いを語りました。
安蘭さんも「このカンパニーにしか出来ない『ラグタイム』が出来た」と話し、ハードな稽古スケジュールの中でもプロフェッショナルなカンパニーだからこそ実現した作品であることを語りました。
ミュージカル『ラグタイム』は9月9日(土)から30日(土)まで日生劇場、10月5日(木)から8日(日)まで梅田芸術劇場 メインホール、10月14日(土)から15日(日)まで愛知芸術劇場 大ホールにて上演が行われます。詳細は公式HPをご確認ください。
遥海さん演じるサラの魂の歌声は必聴です!!美しい音楽と、次から次へと劇場に飛び出してくる演出に心奪われる一方、彼らが描いた理想の先にあるのは、21世紀の私たちの現在であることを思うと猛烈な切なさと悲しみにも襲われます。「分断」の世の中となった今だからこそ、私たちが向き合うべき作品ではないでしょうか。物語・音楽・キャスト・演出・衣装・振付、全てが超一級の大作がここに誕生しました。