心身の幸福感や健康、生きがいなどを表す「ウェルビーイング」という言葉をよく耳にするようになりました。ウェルビーイングはSDGsや経営にも欠かせないキーワードとなっており、内閣府でも「Well-beingに関する関係省庁連絡会議」を設置し、取り組みを進めています。
ウェルビーイングと聞くと働き方の改善やヨガ、マインドフルネスなどをイメージする方も多いかもしれません。しかしウェルビーイングと関連があるのはそれだけではありません。近年、ウェルビーイングと演劇を含めたライブアートとの相関性は様々な研究で明らかとなっています。
ウェルビーイングとライブアートの相関性を示した調査
2021年にイギリスで行われた研究では、ウェルビーイングに文化芸術鑑賞・活動がどのような影響を与えるかを調査しています。
その結果、ライブアート(音楽の生演奏、ダンスや演劇、ミュージカル、オペラ、バレエなど)に触れることは、精神的な幸福や人生の満足度、人生における意味など、ウェルビーイングのあらゆる側面と正の相関があることが分かったのです。これは、スクリーンアート(映画・ドラマなど)やスポーツ観戦よりも、顕著な効果があることが分かっています。
(Totterdell, P., & Poerio, G. (2021). An investigation of the impact of encounters with artistic i magination on well-being.)
さらに、日本の文化庁地域文化創生本部が実施した「文化に関する世論調査−ウェルビーイングと文化芸術活動の関連−」(分析:京都大学こころの未来研究センター)によれば、ウェルビーイングの測定項目の1つ「ユーダイモニア」(人生の意義・社会とのつながり)において、文化芸術鑑賞、あるいは文化芸術活動との関連が見られています。
文化芸術の直接的鑑賞を1年以内に「あり」群と「なし」群で比較をした結果、幸福感・主観的健康・人生満足度・ユーダイモニア・協調的幸福・Awe(畏怖畏敬)のいずれの項目も、文化芸術の直接的鑑賞を1年以内に「あり」群が「なし」群を上回り、ユーダイモニアでは特に明確な差が生まれました。
なお、テレビやオンライン等での文化芸術の間接的鑑賞でも同様に比較をした結果、間接的鑑賞を1年以内に「あり」群が「なし」群を上回りましたが、統計的効果量はいずれも小さいものとなっています。
(文化庁:ウェルビーイングと文化芸術活動の関連)
これらの結果を見てみると、芸術の鑑賞を行うだけでなく、生演奏や生の演劇といった、芸術を「ライブ」で体験することがキーポイントのようです。
さらに演劇の国であるイギリスを初めとする多くの国では、アートが医療の現場でも活用されています。「Art in Health」という用語が存在し、その一環として演劇作品の鑑賞も行われているのだそうです。
2023年の世界幸福度ランキングで日本は47位。日本の内閣府が実施している「満足度・生活の質に関する調査報告書2023〜我が国のWell-beingの動向〜」では、13分野別の満足度を調査していますが、家計と資産・雇用環境と賃金・仕事と生活・健康状態・子育てのしやすさ・介護のしやすさ/されやすさなどの項目で構成されており、幸福感や生きがいに関する項目が少ないのも気になります。
仕事のやりがいと趣味や生きがいの有無に関する項目では、仕事にやりがいを感じる人の81%が趣味や生きがいがあると回答しているのに対して、やりがいを感じない人は60%と大きな差が出ています。(内閣府:満足度・生活の質に関する調査)
生の空間だからこそ五感で得られる幸福感や、想像力を働かせて物語を楽しむ空間を知っている方々からすれば、納得の結果ではないでしょうか。ウェルビーイングを政策の中心に据える国も増えている昨今、演劇を始めとするライブアートは人々の「幸福」の鍵を握っているかもしれません。
シェイクスピアが生まれたイギリスで、演劇とウェルビーイングの相関性が明らかになったことにはとても納得感がありました。Audienceではこれからも、演劇とウェルビーイングの関係を調べていきたいと思います!