稲垣吾郎さんが主演を務め、横山拓也さんが脚本、眞鍋卓嗣さんが演出を手がける舞台『多重露光』。町の写真館を舞台に、親からの呪縛のような言葉に捉われ、「生涯をかけて撮りたいもの」を追い求める男の物語です。10月6日初日開幕に先駆け、舞台挨拶とゲネプロが行われました。(作品の詳細はこちら)
自宅に暗室を設置?!カメラ愛溢れる稲垣吾郎が写真館の二代目に
舞台挨拶には演出の眞鍋卓嗣さんと、稲垣吾郎さん、真飛聖さん、相島一之さんが登場。脚本を手がけた横山拓也さんのこだわりで、「純九郎(すみくろう)」はズミクロンというレンズ、「麗華」はライカというカメラなど、役名がカメラにちなんだお名前になっていることが明かされました。横山さんご自身の持ち物であるカメラも多数舞台上で使用されています。
また本作は脚本の横山さんが俳優それぞれに「こういう一面を見たい」という思いで当て書きされているのだそうです。
稲垣吾郎さんも大のカメラ好きということで、相島さんにカメラの使い方をレクチャーしていたのだとか。舞台挨拶中も相島さんが身につけていたカメラについて、「ライカのM3というのはみんなが大好きな名機で。ダブルストロークって言って2回巻き上げるんですよ…」とお話が止まらず、「聞かれました?稽古場もこういう状況だったんですよ!」と相島さん。
舞台上にある暗室について「ここに焼き付けて現像するんですよ」と稲垣さんが解説してくださる一幕も。稲垣さんはご自身も自宅に暗室を作り、写真の現像を楽しんでいるそうです。
眞鍋卓嗣さんの演出は初めてだった3人。「俳優に寄り添ってくれて。怒った顔を見たことない」(稲垣)「優しいよね」(相島)と口を揃えます。
「眞鍋さんは私たちが演じたことに対して否定をせずに、必ず肯定をしてくださり、プラスアルファで“こういう提案なんですけど”とお考えを言ってくださるので、“間違った道には進んでいないのかな”と自信に繋がりつつ、道標をくださる」と語った真飛さん。
相島さんも「気がついたら立ち上がっているんですよね。眞鍋マジックだと思う。今まで眞鍋さんの作品を拝見して繊細な印象を持っていて、どういう風に作っているのかなと思っていたら、“良いですね”と言われているうちに出来上がっていってびっくりした」と言います。
これには稲垣さんも「はめられている感じ。無理にパズルをはめる感じじゃなく、自然とシームレスになっていくのが心地よかった」と表現しました。さらに稲垣さんと眞鍋さんは幼少期に板橋区・高島平で過ごしており、同世代ということで「もしかしたらすれ違っていたかも?」とご縁があったよう。
眞鍋さんは「皆さん人柄も良くて、チームワークもバッチリなんです。いつも僕が小さな団体でやるのと同じように、皆さんが作品に向かっていて。色々と話し合いながら形にしていく時間があって、創作現場としてとても良いものだった」と語りました。
稲垣さんは「『多重露光』は、誰もが抱えている過去への思いに優しく寄り添ってくれる物語だと思います。観終わった後に、改めて家族の大切さ、そして何より自分を愛することの大切さを感じてもらえる作品になっています。出演者みんなで、心を込めてお届けしますので、ぜひ劇場でご覧になってください」と締め括りました。
「立派で勇敢な父のようなカメラマンになれ」母の呪縛に捉われ続けた男が辿り着く真実とは
山田写真館の二台目店主である山田純九郎(稲垣吾郎さん)。父・建武郎(相島一之さん)がベトナムの戦地に戦場カメラマンとして赴いたまま戻らず、純九郎は母・富士子(石橋けいさん)から「立派で勇敢な父のようなカメラマンになれ」と言われて育ちます。
写真館の店主として町の人々の家族写真を撮り続けた母は、周囲から愛されている一方で、自身のことを「センスがない」「仕事だと割り切って撮っている」と卑下し、純九郎に「自分のようにはなるな」「生涯かけて撮りたいものを見つけなさい」と言い続けます。
母からの言葉に呪いのように捉われ、撮りたいものを見出せずに無気力に毎日を過ごす純九郎。隣人である二胡浩之(竹井亮介さん)や私立織原学園の教員・木矢野理子(橋爪未萠里さん)が純九郎を気遣いますが、純九郎はいつもひねくれた様子で、本当にやりたいこと、「撮りたいもの」を見つけることができません。木矢野が工面した学校での撮影の仕事にも身が入らず、仕事を失う危機に直面してもどこか他人事。
そんな中で写真館に現れたのが、純九郎が幼少の頃に、愛に溢れた家族写真を撮りに来ていた裕福な一家の“お嬢様”麗華(真飛聖さん)。麗華と、麗華の息子ミノル(杉田雷麟さん。小澤竜心さんとのダブルキャスト)と触れ合ううちに、自分が手に入れられなかった理想の家族像への憧れが蘇ってきます。
戦地に行ったきり戻らなかった父。父を愛し、待ち続けた母。完璧な家族に見えた麗華。偉大なカメラマンだった両親の息子として、もがき続ける純九郎。1コマの中に複数枚の画像を重ねて写し込む写真技法「多重露光」の如く、現在と過去を行き来するうち、登場人物たちが抱える秘密が明らかになっていきます。アイデンティティと家族の愛情を探し求める純九郎が最後に出会ったものとは…?
舞台『多重露光』は2023年10月6日(金)から22日(日)まで日本青年館ホールにて上演(主催モボ・モガ)。チケットの詳細は公式HPをご確認ください。
舞台挨拶中はカメラマンのカメラを見て、「みんなオートフォーカスですね」と話しかけるほど、カメラ愛に溢れていた稲垣さん。「この作品を見て、みなさんカメラに興味を持っていただけるのでは」と語りました。写真館の1シチュエーションで過去と現在を行き来しながら、徐々に登場人物たちの多重な姿が繊細に描き出されていく作品となっています。写真館というシチュエーションは今やノスタルジックを感じますが、純九郎のアイデンティティが見つからずに彷徨う姿は誰もが共感できるのではないでしょうか。