日本ではミュージカル『チャーリーとチョコレート工場』が2023年10月に帝国劇場で上演されたばかりで、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。ウィリー・ウォンカはいかにしてあの不思議で魔法に満ち溢れたチョコレート工場をつくったのか―。世界中を虜にした『チャーリーとチョコレート工場』で有名な工場長ウィリー・ウォンカの若き日の物語を描いた映画が、『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』です。

純粋なウォンカが切り拓いていく運命

日本では12月8日に公開される映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』。プロデューサーは『ハリー・ポッター』シリーズを手がけたデイビッド・ヘイマン。『パディントン』シリーズのポール・キングが監督・脚本を務め、ロアルド・ダールの児童書『チョコレート工場の秘密』をもとに、オリジナル・ストーリーを紡ぎます。

幼い頃から、美味しいチョコレートの店をつくることを夢見ていたウォンカは、夢を叶えるため、一流のチョコレート職人が集まるチョコレートの町へと向かいます。しかしチョコレートの町は、“チョコレート組合3人組”が牛耳る町であり、新しいチョコレート店を出すことは禁じられていました。

でもウォンカは諦めません。彼の頭の中には独創的で不思議なチョコレートのアイデアが溢れていて、それを味わってもらえれば認められると信じているのです。ウォンカは、町の人々と“チョコレート組合3人組”に自分のチョコレートを振る舞います。しかし3人組は“チョコレートはシンプルな味にすべきなのに、色々な味が盛り込まれすぎている”と酷評。ウォンカのチョコレートは次から次へと様々な味が押し寄せる…だけでなく、なんと体が浮かび上がってしまうという魔法のようなチョコレートでした!

彼の魔法のチョコレートに人々は魅了されますが、彼の才能を妬んだ3人組はチョコレートが大好きすぎる警部にチョコレートの賄賂を渡し、彼を町から追い出そうとします。さらにウォンカは、“階段を1段登るたびに追加料金がかかる”というぼったくり宿屋の婦人スクラビットに騙され、多額の借金を背負わされることに。

借金を返済するには、地下のランドリー工場で30年間働かなければいけません。無理やり連れてこられたランドリー工場にいたのは、孤児の少女ヌードルと一風変わった宿の住人たち。スクラビットに騙され、長年“夢を見ること”“人を信じること”を忘れていた人々と、人の親切を信じて生きてきた純粋な、どんな時にも夢を見続けることをやめないウォンカ。その出会いが大きく運命を変えていきます。

特に“本の虫”とスクラビットにいじめられていた知性溢れる少女ヌードルは、ウォンカの夢を見る力と想像力、創造力、そして彼の作るチョコレートに魅了されていくことに。文字が読めないウォンカの良き相棒となっていきます。2人の姿は、夢を叶えるには、夢を見ることと、知性を持って実現していくことの両方が必要であること、そしてそれは1人でやり遂げなくても良いのだということを教えてくれます。

組合に気づかれないようにチョコレートを売り続け、ついにウォンカが夢見たチョコレート店が開店。そこはチョコレートで出来た木や雲、お花が溢れるおとぎ話のような空間でした。ミュージカル『チャーリーとチョコレート工場』を観たばかりの身としては、映像の中からチョコレートの甘い香りが漂ってくるような感覚に陥ります。

全てが順調に見えたその時、組合の3人組と警部の謀略によりウォンカは全てを失い、町を追い出されることに…。彼の夢は「権力者」たちに捻り潰されてしまうのでしょうか。

もちろん『チャーリーとチョコレート工場』でも大人気のキャラクターでオレンジ色の小さな紳士ウンパルンパも登場!ウォンカとの因縁の戦いを繰り広げます。

ティモシー・シャラメがピュアな眼差しと甘い歌声で魅せる!

本作で主人公ウィリー・ウォンカに扮するのは、『DUNE/デューン 砂の惑星』『君の名前で僕を呼んで』などの話題作が続き次世代のジョニー・デップとの呼び声高いティモシー・シャラメ。純粋で独創的で、夢を見る力に溢れたウォンカを愛らしく演じ、また歌声もチョコレートのような甘さ。これまで『チャーリーとチョコレート工場』でウォンカは毒っ気のある個性的な人物として描かれてきましたが、本作では“はじまりの物語”に相応しく、彼の芯にある純粋さに焦点が当てられています。

また、ヒュー・グラントが演じるウンパルンパを愛さずにはいられないでしょう。ウンパルンパ界では“のっぽさん”サイズだという彼の小さな体から放たれるユーモアは凄まじく、もはや登場するだけで笑顔になってしまいます。踊り出すと止められないという彼のキュートなダンスに注目です。

そして本作には多くの美しく心躍る音楽があり、特にミュージカルでは最後に歌われる楽曲「Pure Imagination」が効果的に使用されているのも、ミュージカルファンとしては嬉しく、胸が熱くなるポイント。

皮肉的な描写の多い『チャーリーとチョコレート工場』に比べるとまさしく「ピュア」に溢れた『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』ですが、貧困層の労働者たちと権力者たちの構図や、賄賂によって警察が正義を曲げてしまうこと、権力者が利益を独占して才能あるウォンカを潰そうとすることなど、やはり現実世界への皮肉もたっぷりと含まれています。

この冬、一番美しく、尊い魔法に溢れた映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は、2023年12月8日(金)全国ロードショーです!

Yurika

映画を観た後、もう一度ミュージカルを観たい!と思わされました。ミュージカル『チャーリーとチョコレート工場』は映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』を以って完成したのかもしれない、とも。若き日のウォンカを知ってから『チャーリーとチョコレート工場』をもう一度観ると、ウォンカの人物像がまた変わって見えるかもしれません。また、ウォンカとヌードルの姿は、人生は悪くない、そう思える出会いが人生にはあるのだと教えてくれます。