演劇の世界では、ひとつの作品を上演するために、観客の見えないところでさまざまな職業の方が関わっています。脚本家や演出家、舞台監督など、聞き覚えのある職業もあれば、どんな仕事なのかよく知らない職業もあるでしょう。そこで今回は、舞台の音楽作りに注目。裏方として舞台を支える、「音楽監督」「歌唱指導」「稽古場ピアノ」の仕事についてご紹介します。
音楽面から演出を取りまとめる「音楽監督」
「音楽監督」は、ミュージカルや演劇において音楽全般を統括します。音楽監督がオーケストラやバンドの指揮者を兼任するケースもあるようです。
よく似た言葉として「舞台監督」と混同しそうになりますが、こちらは舞台進行を取り仕切る立場。役者はもちろん照明や音響、大道具など、舞台に関わるあらゆるスタッフの動きを把握して、安全に公演できるように努めています。(関連記事:「演劇」を作る様々な職業【舞台監督・床山編】)
とはいえ、音楽監督も舞台監督と同じように、全体の流れを掴んでおく必要があります。
例えば、演出家とシーンごとに曲の入り方や役者の歌い方について話し合い、音楽で表現したいストーリーのイメージを共有。また、舞台監督とは、場面転換にかかる時間に合わせてBGMをどうするのか、といった進行具合を打ち合わせします。
さらに海外の作品なら、日本語に訳した歌詞と音楽がぴたっとハマるかどうか、訳詞家と一緒に検証することも大切です。
音楽監督は演出家の意図を汲み、舞台関係者やオーケストラともしっかり意思疎通しながら、観客を物語の世界観に引き込む音楽を届けているんですね。
歌い方の指導で表現を深める「歌唱指導」
「歌唱指導」とは、役者に歌い方や発声方法を教える仕事です。特にミュージカルでは、登場人物の心情を表現するのに歌唱シーンが欠かせません。なかには、台詞より歌が中心の作品も少なくないですよね。そして時には、歌い方や声のトーンひとつで、曲の印象だけでなくストーリーの解釈まで変わってしまうことも。
だからこそ歌唱指導にあたる人は、演出家や音楽監督が「このシーンでは何を伝えたいのか」理解し、作品にふさわしい指導を考えているんです。ささやくように歌い始めたり、圧巻のロングトーンで歌い終えたり。これまで何度も演奏されてきた名曲でも、役者の歌い方次第で表現の幅を広げられるでしょう。今度観劇する際には、歌唱指導の仕事に思いを馳せながら耳を澄ましてみては。
稽古における縁の下の力持ち「稽古場ピアノ」
「稽古場ピアノ」とは、名前の通り、稽古場でのレッスンやリハーサルでピアノを弾く仕事のこと。ミュージカルやオペラ、バレエなどの稽古では、とても重要な役割を果たします。ただピアノが弾ければいい、というわけではないのが、稽古場ピアノの難しさです。
稽古中は演出家の指示をすばやく理解し、指揮者と息を合わせて伴奏します。また、役者が演じやすいように、歌や台詞のひとつひとつに合わせられるテクニックも必要。そのため、作品や楽曲に対する知識を深めておかなければならないでしょう。
このように、稽古場ピアノにはピアニストとしての高い技術に加えて、周囲とのコミュニケーション能力や理解力も求められます。稽古場ピアノの隠れた尽力によって、演出陣や役者が自信を持って公演に臨めるのではないでしょうか。(関連記事:舞台上演までの道のりを支える【舞台制作・演出家・演出助手】の仕事とは?、技術の集合!「演劇」を作る様々な職業【音響・照明編】)
舞台で注目されるポジションといえば、役者や脚本家、演出家が多いイメージ。しかし、舞台に関わる職業はたくさんあって、みなさん一丸となって素晴らしい作品を生み出そうと奮闘しています。舞台の裏側に興味を持った人は、関連記事もぜひご覧ください!