蜷川幸雄さんから芸術監督を引き継いだ吉田鋼太郎さんが新たに立ち上げた、彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd。その記念すべき1作目を飾るのは、シェイクスピアの名作『ハムレット』。ハムレット役は柿澤勇人さんが務めます。そしてオフィーリア役を務めるのは、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』『どうする家康』やドラマ『先生さようなら』で繊細に、表情豊かに観るものを惹きつける演技が話題の北香那さん。『ハムレット』の魅力、オフィーリア役に挑む心境、また舞台作品ならではの挑戦について伺いました。
役者の数だけ『ハムレット』は味がある
−長年上演され続けている『ハムレット』の魅力はどんな部分にあると思われますか?
「これまでたくさんの公演や上映がされていると思いますが、やはり、何度見ても面白い。なぜこんなに何度見ても面白いのか考えたときに、演じる役者によって、全然違う作品に見えるんですよね。役者の数だけ『ハムレット』は味があるなと思っていて。だから私も今回の『ハムレット』では、もちろん吉田鋼太郎さんにいただいた演出を的確にこなすこと、その上で自分のスパイスを加えてきちんとオフィーリアを自分のものにしていきたいという思いが凄く強くあります」
−オフィーリアという役柄に対しては、現段階でどういった人物だと捉えられていますか?
「すごく明るくて、すごく素直な女性。だからこそ、1つの歯車が狂った瞬間にダダダっと螺旋階段を駆け降りていくような印象があるので、最初と最後の落差をしっかりと演じ分けたいなと思っています」
−まだ稽古前だと思いますが、役作りへのプランはありますか。
「まだ稽古も始まっていない状態なので、まだこうしたいああしたいということは正直あまりないというか、それをしてしまうと苦労することになったりもすると思うので、あまり事前に作ろうとは思っていないんです。ただ、観客の人誰1人もオフィーリアの芝居に対して置いていきたくないという気持ちがあって、みんなが“え?なにこの状況”とか、“今これオフィリーアってどうなっちゃったの?”って置いていかれる状態だと、物語に入って来られないと思うので。そこはきちんと、観てくださる観客の方たちとも空気感を作っていきたいです」
−オフィーリアとご自身が共通していると感じられる部分はありますか?
「どうなんでしょう。オフィーリアのような不幸な状況に陥ったことがないので、そこは分からないのですが、彼女はとても優しくて素直なんだろうなと思います。素直に現実をまっすぐ真正面から受け止めたから、あの悲劇が起こってしまうんだろうなと。私はそういう悲しみを真正面から受け取らず、傷つくのが怖いから1周後ろに回ったりして受け止めるかもしれない。だからオフィーリアの素直さは、凄く人間味のある美しい部分だったのかなと感じます」
−恋人のハムレット役を務める柿澤勇人さんの印象はいかがでしょうか。
「以前時代劇でご一緒したときは直接的なセリフのやり取りがなかったのですが、ありきたりな言葉かもしれないですが、カメレオンというか、誰にでもなれる役者さんなんだろうなという印象があります。柿澤さんのお芝居を間近で見られるのがとても楽しみですね」
−彩の国シェイクスピア・シリーズ2ndの記念すべき1作目となりますが、緊張と楽しみ、どちらが多いでしょうか?
「今のところ喜びしかないです。緊張はしていますが、それよりも、こんな機会ない、だったら楽しみたいという気持ちが大きいです。稽古が始まったら色々な不安要素が出てくるんでしょうけれど、最後に笑って完走できれば良いなと思っています」
観てくださる方のことを思うと、毎回万全でありたい
−映像作品でもご活躍されている北香那さんですが、映像と舞台作品の違いは感じられますか?
「すごくあります。やはり映像作品だと声の張り方も全然違うし、日常でやり取りが行われているような声で全然成立するのに対して、舞台になると、動きも声も、普段やらないことを一発勝負でやる。それは凄く舞台の醍醐味というか、楽しみ方でもあると思うので、映像作品とは全然違いますね。やり直しがきかないという点では凄く面白みがあるし、やりがいがあるなと思います。それに、公演を観に来てくださる方のことを思うと、毎回万全でありたいという気持ちが強いです」
−北香那さんは声で感情の機微を繊細に表現されるのが印象的なのですが、声の表現については意識されていらっしゃるのでしょうか。
「意識は全然してないんですけれども、声帯模写というのか、声の調節が得意だったりして、子供の頃からモノマネして遊んでいたんです。自分が聞いていて心地良い音程があるので、その音程で喋っていると気持ちがリラックスしますね。ただ舞台の声の出し方という点においては、このカンパニーの中で一番知識がないと思うので、そこを稽古でしっかり学んで、挑みたいなと思っています」
−台本を読まれていて、印象的なセリフやシーンはありますか?
「ハムレットがくれた贈り物を返すときに、“一層大事に思っておりましたのに、その香りも失せました。お返しします”というセリフがあるのですが、“香りも失せました”というセリフが非常に印象に残っていて。とても良い表現だし、音も良いし、ずっと私の頭の中にこびりついているんです。夢にも出てきそうなくらい(笑)。シェイクスピアらしい表現で、凄く好きですね。あとは、“尼寺へ行け”のシーンは、柿澤さんのお芝居がとても楽しみです」
−セリフの音を感じ取ってらっしゃるのですね。
「確かにそうですね。普段から心地よいテンポのセリフの喋り方を考えてお芝居するのですが、『ハムレット』の台本はリズムが良いので、とても覚えやすいんです。音楽のように入ってくる感覚があって、覚えていてとても楽しいです。ただ音が綺麗な分、1文字ずれたら崩れていってしまうので、しっかりと稽古で入れていきたいですね」
−これからの稽古に向けて、楽しみにしていることはありますか?
「今まで出会ったことがない感情や、自分の今のお芝居の最上級みたいなところに出会う予感がしていて。それに、この上ない達成感に出会えるんじゃないかなと思っているので、そこはすごくわくわくしています」
−シェイクスピア作品は馴染みがない、難しそうと感じられるお客様もいるかと思います。
「そうですよね。ただ『ハムレット』は物語としては凄く分かりやすいと思いますし、事前に展開を予習してきても良いと思います。その上で観ても絶対に楽しめるし、入り込めるので。私も高校生の妹がいるのですが、観に行くと言ってくれているんです。どんな年代の方にも楽しめる作品になっていますので、ぜひこの舞台に触れてみていただきたいです」
彩の国さいたま芸術劇場開館30周年記念 彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』は5月7日(火)から26日(日)まで彩の国さいたま芸術劇場 大ホールで上演。その後、宮城・愛知・福岡・大阪公演が行われます。チケットの詳細は公式HPをご確認ください。
声の表現がとっても素敵な北香那さん。セリフのリズムが重要なシェイクスピアをどのように演じられるのか楽しみです!