5月28日より東京芸術劇場 プレイハウスにて開幕する舞台『未来少年コナン』。宮崎駿さんの初監督アニメが、演出家インバル・ピントさんによって舞台化されます。加藤清史郎さんら出演キャストが登壇したご挨拶&フォトセッションと、ゲネプロの様子をお届けします。

「インバルの描く絵は息を呑むほど美しい」

ご挨拶&フォトセッションには、主人公コナン役の加藤清史郎さん、ラナ役の影山優佳さん、ジムシー役の成河さん、モンスリー役の門脇麦さん、ダイス役の宮尾俊太郎さん、レプカ役の今井朋彦さん、おじい・ラオ博士役の椎名桔平さんが登壇しました。

加藤清史郎さんは「コナンという少年が大好きで、最近は大好きというよりも尊敬の念が優ってしまっていて…コナンだからこそ言える言葉というのも物凄く多いなと、自分の体を通した時に思うことがあります」と役柄を深める中で感じたキャラクターの魅力をしみじみと語ります。

ラナ役の影山優佳さんは「ラナは強く、儚く、芯のある女の子」と表現。稽古中にキャラクターに助けられたことも多かったと言い、「助けられてきた役に乗っかって、今度は客席から見てくださっている皆様が、明日ももうちょっと頑張ってみようかなと生きる希望を持って帰ってもらえるように、そんなラナでありたい」と意気込みました。

インバル・ピント作品の出演経験が多い成河さんは、インバルさんの演出について「近年は『羅生門』『ねじまき鳥クロニクル』などハードでダークな演目が多かったのですが、今回は初心に帰ると言いますか、非常にシンプルで奥行きのある、可愛らしくてどこか大人のエッセンスを持ったような世界というのはインバルにぴったりの感覚があって。『100 万回生きたねこ』などが好きだったお客様に楽しんでいただけるのではないか」「インバルの描く絵というのは息を呑むほど美しいので、楽しんでいただけたら」とコメント。

門脇麦さんは「インバルの作品に欠かせないのはダンサーの皆さん」と言い、『ねじまき鳥クロニクル』では「お話も難解だったので、ダンサーの肉体を使って、たった何十秒間でどんな言葉よりも刺さってくるという作り方だった」のが、本作では「お話がシンプルなので、具体的なものを抽象的に。見ている皆さんの感性が引き出されていくようになっているなと私は思います」と作品の見せ方の変化を語りました。

ダイス役の宮尾俊太郎さんは「他の舞台と圧倒的に違うなと思ったのはまずこの髭ですね」と会場を沸かせつつ、「インバルさんご自身が衣装デザイン・セットのデザイン・振付・演出をするというのは世界を見てもなかなかいらっしゃらない。1人の人間がこれを出来るというのは奇跡で、1つの世界観をまとめてくださる」とインバル作品の魅力を語ります。「そこに色々なキャリアを持った俳優が入ってきてキャラクターを演じた時に、お客様がまだ見たことのない世界が広がっていると思う」とアピールしました。

レプカ役の今井朋彦さんは稽古場での創作活動について「インバルの現場ほどボツになるアイディアが多い現場はないんじゃないか」と思うほど、多くのアイディアが持ち寄られる現場だったと振り返ります。「結果的に選ばれるのは1つのアイディアかもしれないんですけれど、採用されたアイディアの中に採用されなかったものたちが練り込まれているような舞台になっていて、なかなか味わえない経験をさせてもらった」と語りました。

おじいと、ラオ博士の二役を演じる椎名桔平さんは「(コナン・ラナ・ジムシーの)3人の子どもたちが、人間の持つ自然な無邪気さ、たくましさ、美しさを体現してくれていると思う」とキャラクターの魅力を語ります。また「今の時代を予見していたかのような、戦争や自然災害といった要素が物語に込められていて、今僕らがそういったメッセージを受け取って、この作品に込められるんじゃないか」と思いを語られました。

「お前には仲間が必要だ」コナンの冒険活劇が美しく立体的に描かれる

幕が開くと、ダンサーたちによって、1人の怒りが伝染し、大きな感情の渦が蠢き争いとなり、世界が壊れるまでを表現していきます。これぞインバル作品、と一気に惹き込まれるプロローグです。

その後、舞台上は海の中に。原作アニメでも印象的な、コナンが大きなサメと格闘しとらえるシーンを、フライングをしながらダイナミックに描いていきます。サメを担いで登場する加藤清史郎さん演じるコナンは、アニメから飛び出してきたよう。常人離れした運動能力、怪力さを見事に、また軽やかに演じていきます。

人類が超磁力兵器を使用し、地球の地殻を破壊、大変動が起こった西暦20XX年。5つの大陸が沈んでから20年後、コナンとおじいは孤島・のこされ島で暮らしていました。コナンとおじいは漂流した謎の少女ラナによって、2人以外にも人類が生き延びていることを知ります。

しかしラナは工業都市インダストリアからやってきた行政局次長モンスリーによって誘拐されてしまいます。ラナを助けるため、そしておじいの「人は1人では生きられない。いや、生きてはならない。お前には仲間が必要だ」という言葉を受け、コナンは島を飛び出し冒険の旅に出かけます。おじいを演じる椎名桔平さんの温かな声で紡がれる1つ1つの言葉が、コナンと私たち観客に、ゆっくりと染み込んでいくようです。

旅先でコナンが出会ったのは、自然の中で暮らす野生児のジムシー。インバルさんの描く美しい自然の景色の中で、ジムシーとコナンが出会い、友達となる姿が躍動的に描かれます。ジムシーを演じる成河さんはその身体能力の高さと演技力の高さをいかんなく発揮。コナン同様、常人離れしたキャラクターでありつつも、本作では語り手の役目も担うことで、観客と作品を繋いでくれる存在です。

宮尾俊太郎さんが演じるバラクーダ号の船長ダイスは、原作を彷彿とさせるチャーミングさを残しつつも、どこかセクシーさもある魅力的な船長に。ダイスとジムシーのやり取りはコミカルで、本作の良いスパイスとなってくれます。

ラナが暮らす自然豊かなハイハーバーでは互いを認め合いながら生きる人々が描かれる一方、彼女が誘拐された工業都市インダストリアは、暴力で人々を支配し、格差社会も広がっています。2つの都市が対極的に描かれる中で、“今のお前たちはインダストリアではないのか”と問いかけられているようにも感じられます。

インダストリアの行政局長レプカを演じる今井朋彦さんは、コナンたちの対峙する“悪”として圧倒的な存在感を放ちます。暴力や恐怖で支配しなければ、秩序は、人間社会は成り立たないのか。大きなテーマを投げかけてくるキャラクターです。

ラナを演じる影山優佳さんは可憐な少女らしさと、その奥にある芯の強さを繊細に表現。コナンとラナ、2人の可愛らしくピュアなやり取りは、緊張感漂う本作の中で癒しの時間となっています。

そして行政局次長モンスリーを演じる門脇麦さんは、任務遂行に没頭する優秀な、ある種冷徹にも思えるモンスリーを熱演。一方でコナンたちと出会うことで、自分は何をすべきかを自問する柔軟さも持ち合わせています。彼女のような人が、時代を変えていくのだと思わせる力強い存在です。

インダストリアは工業都市で、原子炉が燃え尽きると生きる術を失います。そこでラナの祖父であるラオ博士が開発した太陽エネルギーを、力づくで奪おうとします。しかしその太陽エネルギーはかつて戦争や地殻の大変動を引き起こした原因でもあるため、ラオ博士は協力を拒否しているのです。『未来少年コナン』は1978年に制作された作品ですが、今の我々を、そして未来を描いているようでもあります。

撮影:山本春花

私たちはなぜ争い合うのか。私たちが守るべき景色とは何なのか。コナンたちと共に、考えなければいけない時にあるのだと痛感させられます。

舞台『未来少年コナン』は5月28日(火)から6月16日(日)まで東京芸術劇場 プレイハウスにて上演。公式HPはこちら

Yurika

インバルさんの描く美しい自然の景色が印象的。映像やダンス、フライングなど様々な手法で、『未来少年コナン』をダイナミックに描いていきます。