7月3日(水)から東京国際フォーラム ホールCにて開幕するミュージカル『ダブリンの鐘つきカビ人間』。後藤ひろひとさんの作品をウォーリー木下さん脚色・演出によってミュージカル化し、Travis Japanの七五三掛龍也さん・吉澤閑也さんが主演を務めます。本作の公開ゲネプロと初日前会見の様子をお届けします。

七五三掛龍也は階段落ちに挑戦!名作を初のミュージカル化

初日前会見には本作に出演する七五三掛龍也さん、吉澤閑也さん、伊原六花さん、加藤梨里香さん、松尾貴史さん、中村梅雀さんと、ウォーリー木下さん(脚色・演出)、後藤ひろひとさん(作)が登壇しました。

原作者である後藤さんは「30年ほど前に書いた作品で、おさえとカビ人間はもの凄く悲しいストーリーなんですけれども、こんなに幸せな2人はいないと思います」とミュージカル化への喜びを語ります。ミュージカル化は後藤さんも「いつかやってみたい」と思われていたそうで、ウォーリー木下さんからの打診を受け「これは彼に任せるしかない」と感じられたのだそう。

ウォーリー木下さんは「筋立てがしっかりしていますし、物語の虚構的な部分もあれば現実的な要素もあり、カラフルなキャラクターたちの群像劇でもあり、ミュージカルにうってつけの作品」と語り、「稽古をしていても、ミュージカルにして良かったと思っております」と自信を覗かせました。

七五三掛龍也さんはカビ人間について「今まで挑戦したことのない役柄で、ビジュアルもそうですけれど、どう演じたら良いのか凄く考えながら稽古をしていました。ここまでピュアで心が綺麗で真っ直ぐな役をやらせてもらったので、自分の中で新しい扉が開いた感じがします」と演じてみての感触を語ります。

七五三掛さんはカビ人間のビジュアルになるため、メイク時間に1時間20分ほど掛かっているのだそう。またカビ人間は常にハットを被っており、「カビ人間はハットを友達のように扱っているんです。ハットの先生に難易度の高い技を教わって、カビ人間が日常的にハットを使っているようにしていくまでに、2週間ちょいかかりました」と明かしました。毎日家にハットを持ち帰って、技を1日50回やると決めて練習されていたのだそうです。

その甲斐あって、「ハットを稽古前に触ったり練習すると、自然とカビ人間のスイッチが入るようになりました」と役づくりにも大きな影響があったことを語ります。さらに「先輩である堂本光一さんがやられている、階段落ちにも挑戦しています。映像で見て勉強したりして、とにかく本当に難しかったです」と大きな見どころを明かしてくださいました。

吉澤閑也さんは「29歳でお芝居にちゃんと打ち込むのが初めてなので凄く緊張はしているんですけれど」と語ると、七五三掛さんが「まだ29歳じゃないじゃん!」とツッコミ。吉澤さんは「来月29歳になります!良い29歳を迎えられるように聡役を頑張ります」と弁明しつつ意気込みました。聡役は吉澤さんご自身に近い部分が多かったようで、「ウォーリー木下さんにも閑也が出てるよと言われることもあって、閑也をなくして聡にしていくのが難しかった」と役作りの苦労を語りました。

以前、インタビューでも本作の脚本にすぐに心を掴まれたことを語っていた伊原六花さん。「稽古では悩みながらも凄く楽しい日々を過ごせて、劇場入りしてからはさらに、ウォーリー木下さんによる色々な仕掛けによって新しい発見があって。素敵な作品をお届けできるのが凄く楽しみ」と初日を心待ちにしている心境を語りました。

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聡と共に物語に迷い込む真奈美役の加藤梨里香さんは、「真奈美と聡と一緒に、お客様も物語に入り込んでいって、最後の結末を見届けるのを楽しんでいただけたら。(聡と真奈美は)よく喋る2人なので、その掛け合いも楽しみたい」と意気込みました。

松尾貴史さんは1996年に行われた本作の初演を下北沢ザ・スズナリで観劇後、2002年の大倉孝二さん主演版、2005年の片桐仁さん主演版も観劇してきた作品だといいます。「小劇場から壮大な世界が繰り広げられていて、ものすごくイメージの冒険が起きる素晴らしい作品だと思っていました。その名作にまさか自分が出るなんて、それもストーリーテラーの役割を担うような役で出られるなんて」と本作への想いを語りました。また「音楽が凄いです!曲が鳴り始めただけでワクワクするような場面の連続です」と語ると、中村梅雀さんも「うちに帰ると頭の中で曲がぐるぐると鳴っている」と音楽の虜になっていることを語ります。

中村さんは本作について「奇想天外な設定で、しかもキュートでラブリーでショッキングで。だけど実は凄く深い。しかもステージにはびっくりするような仕掛けがたくさんある」と魅力を語りました。

奇妙な病が蔓延する街で繰り広げられる“ポップでダーク”な群像劇

『ダブリンの鐘つきカビ人間』は後藤ひろひとさんによるポップかつダークなファンタジー作品。今回は脚色・演出をウォーリー木下さんが手がけ、ケルト音楽の独特な音色によってミュージカル化されます。

山中、深い霧によって立ち往生した旅行中の聡(吉澤閑也さん)と真奈美(加藤梨里香さん)は、老人の住む洋館に立ち寄ります。老人(松尾貴史さん)はこの土地にはかつて街があり、自分は街の市長であったと語り始めます。客席を巻き込む演出も多々盛り込まれた本作では、気づくと聡と真奈美と一緒に物語の世界に入り込んでいってしまいます。

その街ではある時、奇妙な病が蔓延し、背中に天使の羽が生えてしまう病や、目玉が大きくなってしまう病、自分が電池になってしまう病などにかかっていました。“笑っちまうけど笑えない”病が蔓延った街の状況をなんとかするため、市長は街を封鎖します。

カビ人間(七五三掛龍也さん)も病にかかった人物の一人。彼はかつて容姿端麗ながら心は醜く、多くの人を騙していました。しかし病によって心と体が入れ替わり、心は水晶のように美しい一方で、外見は醜くなってしまいます。

彼の元には誰も近付きませんでしたが、鐘つきの仕事をするカビ人間は、どこか晴れやかな表情。鐘つき台の上から街を眺める彼は、かつての自分とは異なる視点で見える世界を感じています。七五三掛さんの刹那さと明るさの両面を持ち合わせた歌声と、周囲から疎まれていることを感じながらもポジティブに振る舞い続ける健気な演技が、本作の悲しくも美しい魅力的な主人公像を創り上げています。

ある日カビ人間に出会った娘・おさえ(伊原六花さん)。彼女は病によって思っていることの反対の言葉しか話せなくなってしまっていました。病を知らないカビ人間の勘違いから始まった2人の交流ですが、カビ人間の真っ直ぐな心に触れ、おさえは徐々に心を開いていきます。

おさえを演じる伊原さんは、心を開いていくたびに正反対の罵倒の言葉が出てしまうという難役を愛らしく演じており、カビ人間と、様々なキャラクターたちが彼女に心惹かれるのも頷けます。

病を治す伝説の剣・ポーグマホーンを探すため、物語に入り込んで旅に出る真奈美と、真奈美に引きずられるようについていく聡。2人は無事に剣を手に入れ、病を治せるのか。そして、カビ人間とおさえの運命とは。コミカルなやり取りやファンタジー感溢れる世界観と、本作に込められた深いメッセージとの絶妙なバランスが魅力的な作品です。

撮影:晴知花

カビ人間は醜い姿で人々から疎まれますが、外見だけでなく彼自身の過去、醜い心を持っていたことも人々を遠ざけた理由の1つ。過ちを起こした人間が心を入れ替えても、周囲の人々は、社会はそれを許せないのだろうかと考えさせられます。そして彼の辿る運命は、真実かどうか確かめられもしない言葉によって追い詰められてしまう今の社会を反映しているようでもあります。1996年に生まれた作品ながら、現代を生きる私たちに問いかけてくる、ポップでダークなファンタジー作品です。

PARCO&CUBE produce 2024 ミュージカル『ダブリンの鐘つきカビ人間』は7月3日(水)から10日(水)まで東京・東京国際フォーラム ホールC、7月20日(土)から29日(月)まで大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールにて上演が行われます。公式HPはこちら

Yurika

市長を演じる松尾貴史さんや神父を演じるコング桑田さん、おさえの父を演じる中村梅雀さんが本作に深いスパイスを与えてくれています。ウォーリー木下さんらしい色鮮やかでファンタジー感溢れる世界観と、映像を用いたポップな演出も見どころです。