横山拓也さんが初めてPARCO劇場に書下ろした『ワタシタチはモノガタリ』。演出を初タッグとなる小山ゆうなさんが務め、江口のりこさん、松岡茉優さん、千葉雄大さん、松尾諭さんら豪華キャストが出演します。2人の文通を元に、現実と虚構が入り混じるファンタジックなラブ・コメディ。本作について、横山拓也さん、小山ゆうなさんにお話を伺うことができました。

横山拓也がPARCO劇場への初書き下ろしにラブコメディを選んだ理由

−今回、ラブコメディであり、主人公の富子は脚本家を目指す書き手というテーマを選ばれた理由を教えてください。
横山「いつも自分が劇団iakuでやっているような、人間の業に踏み込んで突き詰めていくというよりは、コメディのような外枠を意識した作品にチャレンジしてみたいという思いがあって、企画の会議の中でラブ・コメディというところに辿り着きました。ただ大阪で劇団をやっていた時はシチュエーションコメディもたくさん書いていたので、自分の手つきの中にあったものを久しぶりに引っ張り出してきたような感じですね。
富子を書き手にしたのは、普段の自分の作品でも基本的にそう思って書いているんですけれど、登場人物それぞれに少し自分の一面が何か乗るようにというイメージはあって、その中でも富子というキャラクターが、自分が当時から抱いていた書き手としてのコンプレックスだったり、何か高みを目指したい気持ちだったりを投影できたら面白いかなと思いました」

−小山さんは、本作の台本を読んでみていかがでしたか。
小山「プロットの段階から読ませて頂いて、アイデアから凄く面白かったです。プロットから台本に立ち上がっていく過程をつぶさに垣間見せて頂いたので、本当に魔法がかかっていくような感じがして、ただひたすらに凄いなとずっと思っていました」

−ご自身で演出もされる横山さんの作品を、演出するというのは小山さんにとっても新しい挑戦ですね。
小山「先日、スズナリで横山さん作・演出の劇団iaku『流れんな』を観たのですが、本当に素晴らしくて、放心状態で終演後もなかなか電車に乗れずに、下北沢を1時間くらい歩いていたんです。その時に改めて、本作も横山さんが演出した方が面白くなるんじゃないかと思いましたし、横山さんだったらこの作品をどう演出するかなと考えることもあります。演出もされる方の脚本を演出するというのはなかなかないので、未知な部分が多いですね」

−横山さんから見て、小山さんの演出家としての印象はいかがでしょうか。
横山「まず、もの凄く丁寧に作られる印象があります。小山さんが演出された作品は何作品か拝見しているのですが、作品によって全然手つきが違っていて、戯曲や作品に寄り添ってくれる演出家さんなんだなという印象があったので、はなから信頼していて、小山さんとだったらぜひという思いがありました。
僕が演出をするのは劇団iakuでしかなくて、外の現場ではないんです。だから、ここは僕の悪い癖なのですが、あまり演出のことを考えずに台本を書かせて頂いたので、無茶なところもあって…ある方には“全部の作品を自分が演出するつもりで書かなきゃダメだよ”と言われたのですが、そうだなと思いつつ、小山さんとご一緒できるからこそ、“小山さんどうにかしてください、これってどうやるのか僕に逆に教えてください”という思いを台本に託させて頂いた部分もあります」

小山「でも無茶に思える部分も色々やりようがありますし、楽しんでいますね。むしろ着替えの時間を考えて書いてくださっているんだなと思って、さすが演出もされる方だなと思いました。本能的に考えてくださっているんだと思います」

−稽古場ですぐ横に脚本家がいるという現場はいかがでしょうか。
小山「100年前の作家の台本だと、聞きたいことが聞けなくて、ここは思いつきで書いたのか、深い意味があるのかとか、どういう背景があるのかとか、いつも考えたり調べたりするのが大変なので、隣にいてくださって直接伺えるというのはすごくありがたいです」

文通は「自分の実体験を作品に乗せました」

−本作は、文通を交わしていた富子と徳人という実在の人物と、富子がSNSに投稿したミコとリヒトの恋愛小説という、現実と虚構が混ざっていく過程が見どころの1つになっています。SNSで現実に虚構を織り交ぜた投稿がコンテンツとして盛り上がるというのは現実社会でも起きているなと感じたのですが、そういったことを踏まえて執筆されたのでしょうか。
横山「それは、僕も書いていく中で気づいたことでした。大元は文通というところから立ち上げていて、それを今の時代に広めるならやはりSNSだなと思って。書いていくうちに、SNSという世界の中の人格と現実の人格を乖離している人がたくさんいる社会のことをも思ったりとか、ただそれがそのままこの作品にテーマ的に乗せてっているわけではないので、感じることはお客さんそれぞれでいいと思うんですけど、結果的にすごく現代的なものがたくさん散りばめられた作品になるかなと思っています」

−文通を選んだのは理由があったのでしょうか。
横山「これは僕自身の経験で、小学校2年生から中学校2年生まで千葉にいたのですが、中学校3年生で大阪に転校したんです。その時に千葉の友達4人と文通を始めて、その中には好きな女の子もいました。それじゃあこの作品そのままじゃないかと言われたらそうなんですけれど(笑)、本作で富子にも語らせているのですが、手紙ってたった1人のためだけにああでもないこうでもないと思いを巡らせながら書くというのが、10代の時の出力のトレーニングになっていたように感じていて。作家としてそういうことに気づいた瞬間を描けたら面白いと思って、文通という自分の実体験を作品に乗せました」

−小山さんは、現実の人物と作品上の人物、同じようで違う2人をどう描こうと考えていらっしゃいますか。
小山「どこまで2人が同じ人物で、どう見せようかというところは今探りながら稽古をしているのですが、そこが演劇の楽しいところだなと感じています。物語の中の2人を演じる松岡茉優さんと千葉雄大さんも稽古の中で色々と試してくださっていて、少女漫画っぽく見せるのか、無機質にいるのか、韓国ドラマっぽい感じはどう?とか色々と試しています。2人とも引き出しがたくさんある方達なので、やっていて楽しいですね」

キャスト4名の印象は?

−富子役の江口のりこさん、徳人役の松尾諭さん、物語の中に生きるミコ役の松岡茉優さん、リヒト役の千葉雄大さん、それぞれの印象を教えてください。
小山「まだ立ち稽古が始まったばかりなのですが、江口さんはもう富子としているという印象を受けたので驚きました。ご自身は仰らないけれど、きっと稽古までに準備されている量がとてつもないのだと思います。言葉1つ1つにどういう意味があって、富子としてどういう気持ちで言っているのかを分析されていらっしゃるんだと思うんです。1人でされている、見えない部分での作業がもの凄い方なんだろうなと感じました。

松尾さんは以前一度ご一緒していて、その時は猫の役だったので、関西弁で、年齢的にもリアルな人間像というのは新鮮です。富子がどういう人かによって徳人も変わってくると思うので、その辺りを繊細に考えながら稽古をされている印象です。
松岡さんと千葉さんはもの凄く可愛くて、あざといと思われそうなことをやっていてもピュアで可愛く見える、絶妙なところにいてくれるのが素敵だなと思います。稽古中は“これはどうかな”と私が投げかけたものに対して凄い速度で考えて、次には違うものを出してくださるので、知性も感じる素敵な2人です」

横山「僕は本読みに参加したのですが、江口さんは凄く素直な方だなと思いました。素直に台詞の言葉を発していて、言いにくいセリフがあったら引っかかっている感じもして、それが信頼できるなと思いました。無理やり自分で処理するのではなく、分からない部分は表明してくださるのが、信頼できる俳優さんという印象でした。

松尾さんは、一生懸命生きているだけなのにズレていく富子を関西弁で、愚鈍さも持ちながら突っ込んでいく徳人というのがピッタリだなと思いました。神経質に、ちょっと自分本位に突っ込んでいく姿がとてもハマっていて、面白いなという印象でした。

千葉さんは凄く好きな俳優さんで、あんまりテクニカルに見せないのに実はもの凄くたくさんの技術を持っている印象があって、例えば過去の作品で、ヒステリックに怒る千葉さんの演技を見て惚れちゃったんです。今回そういうシーンはないんだけれども、思いに蓋をして隠しながらいる役を千葉さんがやると、裏までちゃんと見えて厚みがあって面白いんじゃないかなと思って書かせて頂いた役です。あと一役、全く異なるキャラクターも演じていただくのですが、それも千葉さんの二面性が楽しめると思って書かせて頂きました。

松岡さんは自分のことをちゃんと分かっているというか、自分が発する言葉や表情がどうなっているかをちゃんとコントロールできるという恐ろしいほどの上手さがある印象でした。だからこそミコのようなちょっとつかみどころのない役もご自身なりに色々なアイデアを持ってやってくださるんじゃないかなという期待があります。あともう一役あるのですが、そちらはざっくばらんにバンバン言ってくる感じが、僕の好きな松岡さんらしさなので、それを僕も楽しみたいと思って書きました」

撮影:蓮見徹

−最後にお客様に向けてメッセージをお願いします。
小山「横山さんの書き下ろし作品がPARCO劇場で上演されるというのは、私にとっては演劇界の画期的な1事件だと思っています。普段横山さんが書かれる作品よりも文量が多い大作にもなっていると思うので、コメディですし、演劇はお客様と作るものなので、ぜひ客席で、ライブで感じていただければと思います」

横山「淡い恋心や自分の叶えたい夢の話など、作品にはたくさんの要素が詰まっているので、お客様それぞれに感じるところがあるんじゃないかなと思います。何よりも言葉の応酬が面白味だと思っているので、演出の小山さん始め、俳優たちがどうやって言葉の波の中で、どんどん自分の言葉にしていきながらお客さんに届けていくエンターテイメントになるのかというのを、僕自身も楽しみにしながら稽古を頑張りたいと思っております」

『ワタシタチはモノガタリ』は9月8日(日)から9月30日(月)までPARCO劇場にて上演。その後、福岡・大阪・新潟にて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

横山さんの「手紙はたった1人のためだけにああでもないこうでもないと思いを巡らせながら書く」というお言葉を聞いて、改めて手紙の尊さを感じました。小山さんの演出によって本作がどのように立ち上がっていくのか、楽しみです。