日々、多くの作品が上演されている小劇場演劇。どれを観たらいいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。今回は、演劇を愛するAudience編集部が独断と偏見で、11月に上演している作品の中からおすすめ作品を3本セレクトしてみました!

「継承と深化のための“不変”と“変化”」を描く 露と枕『橘に鶯』

露と枕は、早稲田大学演劇研究会を⺟体とし、井上瑠菜さんを主宰として2018年4月に旗揚げした劇団。「弱いからこそ愛おしい、変わらないから愛おしい」をコンセプトに、優しい悲劇を紡いでいくのが特徴です。

露と枕の新作公演は、老舗化粧品店の伝統として伝わる「不老長寿の存在を演じる存在=“おかくしさま”」の役割を若くして受け継いだ女性・かなめが、その伝統とともに生きていく葛藤を抱えながら、変化を恐れない快活な老婦人・トキと出会い、絆を深め、死別するまでの日々を通して、「継承と深化のための“不変”と“変化”」を描きます。

<あらすじ>
その娘、三百年もの月日を、若く美しいまま生きてきた―

老舗の化粧品店「田路屋」の白粉には、不思議な力があるという。いわく、その白粉を塗ればたちまち歳を忘れたように若返り、女の栄華を極めた頃のまま、生き続けられるのだ、と。そんな作り話の果てに生まれた「おくしさま」という不老長寿の存在を、この家の娘は代々、演じ続けている。人々を信じさせるために娘たちは毎日日記を綴り、先代の、そのまた先代の記憶も引き継いで、三百年の時が流れた。

時代の変容と共に意義も変わり、今では孤独な老人の思い出話を聞くことが主な仕事になっている。現当主は、十万日もの記憶を暗唱し、急に訪ねてくる何者にも、嫌な顔一つしない。先日祖母が亡くなったというのに、殊勝に人々に尽くすばかりだ。

……祖母は、老いていく恐怖に耐えかねて人々を傷つけ、挙句先代の母を死に追いやった。
訪ねてきた、祖母の友人と名乗る婦人が言う。「あんた、あのババアにそっくりだね」

老いてしまった伝統と、これからも老いていく、私たちの物語。


主宰の井上瑠菜さんは、上演にあたり、「守るためには変わらなければならない。組織かもしれないし、家族かもしれない。自分より弱い存在、あるいは、自分自身かもしれません。「守るべきもの」が増えるほど、全てを守れなくなる。そして、今までやってこられた形に固執してしまうのです。しかし、守りの姿勢こそが責められることもあります。人も、世界も、目まぐるしく変化して前に進んで行くから。時には守りたかった人にまで置いていかれてしまう。
本来、人は、変わることを求めるものです。
変化を捨て、その場に立ち止まり続ける人を見た時、背負いすぎてしまったのだなと、守ってあげられる自分でありたいと願っています。
「変化」への恐怖と、選択の難しさ、苦しみ。全てを乗り越えて正しく背負える自分になること。そうして老いていく美しさを紡げればと思います」とコメントしました。

露と枕『橘に鶯』は、11月13日 (水) ~ 11月17日 (日)に王子小劇場にて上演です。詳細は公式HPをご確認ください。

「彼は、かわいそうな人ですか?」 やしゃご『アリはフリスクを食べない 2024』

やしゃごは、劇団青年団に所属する俳優・伊藤毅さんによる演劇ユニット。
登場人物の「誰も悪くないにも関わらず起きてしまう、答えの出ない問題」をテーマに、所謂『社会の中層階級の中の下』の人々の生活の中にある、宙ぶらりんな喜びと悲しみを忠実に描くことを目的としています。

『アリはフリスクを食べない 2024』は、2014年に上演された伊藤さんの処女作の再々演です。

<あらすじ>
「俺ね、兄ちゃん、いないことにしたの」

都内郊外マンション。2DK。
住人は城田兄弟、兄トモユキ。弟アユム。両親は亡くなっている。
兄は知的障がい者である。弟の口利きにより、兄弟ともに工場でバイトしている。アユムの恋人の舞子、幼馴染の西の協力を得て、兄弟は平和に生きていた。
兄トモユキの誕生日の二週間前に舞子の妊娠が発覚する。急ぎ、アユムと舞子は彼女の両親に挨拶に行くが、トモユキの障がいを理由に反対される。
兄の誕生日当日。工場の皆や友人を交えてパーティーを開く。その日、トモユキが施設に入ることが出席者に露見する。弟は、周りの人間から糾弾される。

やしゃご『アリはフリスクを食べない 2024』は、11月14 日(木) ~11月24日 (日)に劇場MOMOにて上演です。詳細は公式HPをご確認ください。

小さな農村で起きた化学詐欺事件の顛末記 十七戦地『平坂村事件』

十七戦地は、俳優の北川義彦さんと劇作家・演出家の柳井祥緒さんを中心に2010年に結成された劇団。柳井祥緒さんは、#1『花と魚』で第17回劇作家協会新人戯曲賞を受賞しています。
ファンタジーやSF、歴史や民俗などの題材を扱いつつ、市井の人々の暮らしや葛藤を描きます。推理劇のような緊張感のある会話と、壮大なイメージを喚起させる情景を描き、現実と地続きの幻を立ち上げる作風が特徴です。

<あらすじ>
昭和38年、小さな農村で起きた科学詐欺騒動の顛末記

福岡県の小さな農村・平坂村に詐欺師の男がやってくる。
男は化学者と共に、安全で簡単なエネルギー技術を開発したと、「石炭再生処理場」の建設を村の有力者に持ちかけるが……。

時代は高度経済成長期の真っ只中。
時代の波に乗り遅れるなと
「新技術」を利用したい村の女たちの思惑と、
詐欺師の魂胆が交錯し、
村は嘘と真がせめぎ合う渦に呑み込まれていく。

十七戦地が描く科学詐欺騒動の顛末記。結末や如何に。

十七戦地 #14『平坂村事件』は11/22 (金) 〜 11/26 (火)に新宿眼科画廊 スペース地下にて上演です。詳細は公式HPをご確認ください。

ミワ

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