4月7日(月)からPARCO劇場で開幕するパルコ・プロデュース2025「エドモン~『シラノ・ド・ベルジュラック』を書いた男~」。日本でも度々上演される名作『シラノ・ド・ベルジュラック』の誕生秘話を描いたコメディで、上演台本・演出をマキノノゾミさんが手がけ、“書けない”劇作家エドモン・ロスタンを自身も作家として活躍する加藤シゲアキさんが演じます。開幕に先立ち、プレスコールと開幕前会見が行われました。

誰とも分け隔てなく隣り合わせで座れる場所がある。それが劇場です。

映画監督としても活躍するフランスの若手劇作家・演出家アレクシス・ミシャリクによって2016年にパリで初演され、モリエール賞に7部門でノミネート、映画化もされた「エドモン~『シラノ・ド・ベルジュラック』を書いた男~」。日本では2023年に新国立劇場にて、マキノノゾミさん演出、加藤シゲアキさん主演で初演され、約2年ぶりの再演を迎えます。

プレスコールではエドモンが作品を書き上げ、稽古から本番を迎えるまでをスピーディに描いた約20分のシーンが披露されました。

エドモン(加藤シゲアキさん)はカフェの店主ムッシュ・オノレ(堀部圭亮さん)に相談しながら、決闘のシーンを書いていきます。2人の台詞のやり取りから、シームレスに稽古場のシーンへと移行。

兄弟でプロデューサーを務めるアンジュ(三上市朗さん)とマルセル(土屋佑壱さん)が見守る中、有名喜劇俳優コクラン(村田雄浩さん)や訳アリわがまま大女優マリア・ルゴー(安蘭けいさん)、エドモンの友人で俳優のレオ(細田善彦さん)らが『シラノ・ド・ベルジュラック』を演じていきます。

少しずつ『シラノ・ド・ベルジュラック』が完成していく感動も束の間、コクランがトラブルで出演禁止を命じられ、それを見たマリアも稽古場から出ていってしまい、カンパニーは窮地に。

初日を1週間後に控え、失意のどん底となった彼らに芝居好きなオノレ氏は「あんたらは芸術家だろ!法律がなんだ。俳優が芝居を辞めるのは死んだ時だけだ」と奮い立たせます。

肌の色を理由に偏見や差別に遭ってきたオノレ氏が「たった一つだけ、誰とも分け隔てなく隣り合わせで座れる場所がある。それが劇場です。この戯曲の中には偏見を捨て、妥協を許さず、理想のために命を捧げる男の姿がある」と語る姿に胸を打たれます。演劇人を描いた本作の、演劇愛溢れるシーンです。

息を吹き返したカンパニーは団結力を高め、衣裳係ジャンヌ(瀧七海さん)や舞台監督のリュシアン(福田転球さん)と共に、いざ本番へと向かいます。

そこで流れるのは、名曲ボレロ。期待高まるメロディーと共に初日の舞台袖の緊張感、ドタバタ具合がコミカルにカオスに描かれ、いよいよ幕が上がります。

観客の反応を恐れるエドモン。彼の不安とは裏腹に、客席からはどんどんと笑いが起こるようになり…。名作『シラノ・ド・ベルジュラック』の誕生が垣間見えたところでプレスコールは終了となりました。

「チケット代以上の価値は間違いなくあると僕は断言します」

開幕前会見には、演出のマキノノゾミさんと、加藤シゲアキさん、村田雄浩さん、瀧七海さん、安蘭けいさんが臨みました。

約2年ぶりの再演となる本作。前回の公演を「内容さながらドタバタなカンパニーだった」と振り返った加藤さんは、「あのドタバタをまたやるのかという楽しさと不安が同時に押し寄せています。昨日ゲネプロだったんですけど、既にやっぱりドタバタで…でもこのドタバタの勢いが逆に面白くお客様に伝わるんじゃないかと楽しみになってきています」と心境を語ります。

本作に初出演となる村田さんは「最初の顔合わせの時に、演出のマキノさんや加藤くんやみんなに“地獄へようこそ”と言われた(笑)」と明かします。「映画の台本なのかなと思うくらいテンポが速いし、シーンも短くポンポン進んでいくので、どうやってやるのかなと思いました。初演の映像を観させて頂いたら本当にスピーディで、これがちゃんとできたら本当に面白いんだろうなと感じました。でも地獄です(笑)」とキャスト12人で約50もの役を演じ分ける本作の苦労を語りました。

ドラマ『ブラッシュアップライフ』やNHK大河ドラマ『光る君へ』に出演、本作が初舞台となる瀧さんは「お芝居や転換がちゃんと動けるか心配だったのですが、稽古期間、ちゃんと向き合ってきた時間があるので、それが自信に繋がっています」とご挨拶。これには村田さんが「すげえ」、加藤さんが「素晴らしい」と感心し、加藤さんは「最初はサポートするつもりでいたんですけど、彼女が成長していく姿にみんな逆に引っ張られていた」と絶賛しました。

初演に続いての出演となる安蘭さんは「前回よりも作品の質が上がり、分厚い良い作品になっている気がしています。お客様にも笑いや拍手で参加してほしい」と呼びかけます。

演出のマキノさんは「出演者の地獄はお客様の天国なので(笑)、エドモンが酷い目に遭えばあうほど面白い、そういう仕掛けの芝居になっています。映画のシナリオのような台本なんですけれど、2時間生で、そんな転換無理だろうというようなものをやって魅せる、人間の力やアナログの魅力を体感してほしい」と本作の魅力をアピール。「劇作家としての苦悩と苦労をよくここまでコメディに仕立てたなと。だからもうエドモンには同情禁じ得ないんですけれど、それが楽しいです」と語りました。

皆さんが口々に大変さを語る本作。稽古場では「みんなストレッチが入念」と加藤さんが明かします。「どこのストレッチ器具がいいとか、それ貸してくれとか、ずっとそんな話(笑)。あと体が持たないのでずっと誰かしらが食べていますね」と語ります。

初演時はコロナ禍のために食事会が出来なかったそうですが、今回は何度か食事の機会があったとのこと。村田さんは「マキノさんも参加してくださるので、そこで質問できたりもして、有意義なお話もできました」と振り返りました。

約2年ぶりのエドモン役に加藤さんは「2年前もみんなで話し合ったり、翻訳の堀切先生からフランスについて学ぶ講習もあったりして、深めたつもりではいたんですけれど、今回2年ぶりに向き合ってみると“こういう台詞もあったんだ”“こういう意味だったのか”と発見がまだまだありました。演劇の深みというのは本当に底がない」と役者としての探求を明かします。

安蘭さんは「前回の公演映像を観てみて、少し叫びすぎていてうるさいから少なめにしようかなとか。もがいてまだまだ色々とやりたいと思います」と語ると、加藤さんも「僕もエドモンうるさいなと思ったんですけれど、動画で見るとうるさくても劇場だとちょうど良いのかなと。初演から変えたくなっちゃうんですけれど、実際やってみるとやっぱりあれが正解だったんだなと思う瞬間も多かったです」と語りました。

最後に加藤さんから「劇作家が無茶振りされてドタバタするコメディではありますけど、きっと劇作家のみならず多くの方がいろんな上司やら先輩やら会社やらからきっと無茶振りの日々だと思いますので、この舞台に来れば憂さ晴らしも少しできるし(笑)、きっと励みにもなるんじゃないかなと。“こんなに苦労している人たちがいるんだ”とキャスト12人を見ながら優越感を感じてもらえれば良いなと思いますし(笑)、初演を観てくださった方もいらっしゃると思うのですが、間違いなくそれ以上のパワーを得ていると思います。チケット代以上の価値は間違いなくあると僕は断言しますので、どうぞ観に来ていただけると嬉しいです」と力強く語られ、会見が締め括られました。

撮影:晴知花

パルコ・プロデュース2025「エドモン~『シラノ・ド・ベルジュラック』を書いた男~」は2025年4月7日(月)から4月30日(水)までPARCO劇場にて上演。5月には大阪・福岡・愛知公演が行われます。公式HPはこちら

Yurika

ご自身も舞台『染、色』で脚本を執筆し、岸田国士戯曲賞の最終候補作品にノミネート経験がある加藤さん。劇作家の経験は「小説とは違う楽しさがたくさんあって、台詞をキャストが言ってくれる面白さもあった」と振り返りながらも、エドモンを演じる中で「安蘭さん演じるマリアが凄くわがままなので(笑)。台詞を増やせとか減らせとか言われたらどうしよう」と劇作家の大変さを知ってしまったご様子。マキノさんからも「詳しくは言えないけれどあるあるだよ(笑)」と明かされ、「小説は自由だから…」と尻込みしつつも「いつかまた(戯曲も)書きたい」と意気込みました。