日本初演から10年。韓国、台湾、ロンドンへと旅を重ね、世界で存在感を示してきた『デスノート THE MUSICAL』が、2025年11月24日(月休)より東京建物 Brillia HALLで新たな一歩を踏み出します。ここでは、加藤清史郎さんが夜神 月を務めた回の公開ゲネプロの様子をお伝えします。
「正義はこの手に委ねられた」
2003年、「週刊少年ジャンプ」での連載から始まった「DEATH NOTE」。“名前を書かれた人間は死ぬ”——死神のノートを巡る攻防は、映画、ドラマ、アニメと広がり続け、いまなお世界の文化に影響を与え続けています。
『デスノート THE MUSICAL』は、『ジキル&ハイド』などで知られる世界的音楽家フランク・ワイルドホーンさんが音楽を、人間ドラマを深く描き出す栗山民也さんが演出を手がけ、2015年に初演。作品は国境を越え、多くの観客を虜にしてきました。

10年の集大成を迎える今回は、初演オリジナルキャストである浦井健治さんと濱田めぐみさんが集結。初演で夜神月を演じた浦井健治さんは、月の運命を翻弄する死神リューク役に。

夜神月役には新たに加藤清史郎さん、渡邉 蒼さんと若き才能溢れる2人を迎えます。
成績優秀な高校生・夜神 月(やがみライト)はある日、「このノートに名前を書かれた人間は40秒で死ぬ」と書かれたノートを拾います。それは死神リュークが退屈しのぎに地上に落とした“死のノート”(デスノート)。

犯罪者を法律で裁ききれない世の中を、もし自分が正せるのだとしたら?月は立てこもり事件の犯人をデスノートで殺したことをきっかけに、次々に犯罪者の粛清を開始。インターネット上では「キラ」と呼ばれ称賛される中、あらゆる難事件を解決してきた謎の名探偵L(エル)が捜査に乗り出します。

正義とは何か、「権力」を手にした人間がどう変わってしまうのか。本作は重い問いを突きつけながらも、ワイルドホーンさんの音楽が放つ熱、キャラクターの鮮やかな造形によって、陰影の中に確かなエンターテイメントが息づいています。
浦井健治さん演じる死神リュークと濱田めぐみさん演じる死神レムは、銀橋のような客席に近い通路舞台から、まるで人間界の我々を眺めるかのように登場。

浦井さんは、退屈と愉悦の間を漂うような怪しさを軽やかにまとい、現実と虚構の境界をひょいと超えてしまうような存在感を発揮します。本作のダークな世界観を劇場全体に染み渡らせていくようです。
濱田さんのレムは、ひどく静かで人間離れした語り口が印象的。“愛”という概念に触れた瞬間の揺らぎを、言葉にならない余韻として残していきます。その姿は、悲劇でありながら美しく、孤独な影のよう。

加藤清史郎さん演じる月は、冒頭の“優等生”としての端正さから、徐々にねじれ、ひび割れていく過程が非常に繊細です。
彼の行為は暴走でありながら、その根底には「世界を良くしたい」という純粋な願いがあったはず。楽曲「デスノート」で見せる高く伸びる歌声は、むしろその“無垢さ”を際立たせます。

しかし、自分の思い通りに世界が動いていく快感と、負けず嫌いな性質が重なり合い、月はもはや自分の正義さえ見失っていく。

その少年の危うさには、誰しもが抱える傲慢や幼さが透けて見え、人間味ゆえの痛みが胸を締めつけます。栗山さんの光と影の演出が、月の揺れる心を可視化し、観客にそっと寄り添わせるように機能しています。

三浦宏規さんは身体能力・柔軟性の高さ、独特な語り口でLの特異な雰囲気を表現。猫背で歌い上げるというミュージカル作品において非常に難解な役ですが、平然とやってのける姿には三浦さんが積み重ねてきた研鑽の確かさを感じます。

鞘師里保さん演じる弥海砂は、瑞々しいダンスがミサのまっすぐな愛情を照らし出し、物語に温度を与えます。

リコさん(HUNNY BEE)演じる夜神粧裕は、兄を信じる眼差しが愛らしくも切なく胸に残ります。

今井清隆さんの夜神総一郎は、父としての迷いと正義の板挟みを、圧倒的な歌声とともに描き出します。

初演から10年経った現代社会では、SNSを通して真偽も分からない状態で人を陥れることができるようになってしまいました。時には言葉の刃で人の命をも奪うことができてしまう。“正義”の名を借りた暴力が容易に生まれてしまう現代において、『デスノート』という物語がかざす問いはますます鋭さを増しています。
デスノートに魅せられ、惑わされる人間たち。その姿は、いま私たちの社会の輪郭を静かに映し出しているようです。

『デスノート THE MUSICAL』は2025年11月24日(月休)から12月14日(日)まで東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)にて上演。12月20日(土)から23日(火)にSkyシアターMBS、2026年1月10日(土)から12日(月祝)に愛知県芸術劇場 大ホール、1月17日(土)から18日(日)に福岡市民ホール 大ホール、1月24日(土)から25日(日)に岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場にて上演が行われます。公式HPはこちら
ゲネプロ時、幸運なことにたまたまワイルドホーンさんと言葉を交わす機会を得たのですが、本作の魅力について、「正義や家族、若者の成長、権力を得た時に人はどう行動するかといった国を超えた普遍的なテーマが描かれており、特に若者に響く作品になっている」とお話しされたのが印象的でした。今後、さらに世界で飛躍する作品となることを願っているとお話しされたワイルドホーンさん。10年愛され続けた本作には、まだまだ新たな旅路が待っていそうです。



















