ミュージカル界の巨匠モーリー・イェストンさんが小林一茶の俳句に感銘を受け、脚本・訳詞に高橋知伽江さん、演出に藤田俊太郎さんを迎えて描くオリジナルミュージカル『ISSA in Paris』。現代で生きるシンガーソングライターのISSAこと海人と、若き日の小林一茶が時空を超えてパリで出会うファンタジックな物語です。本作で海人を演じる海宝直人さんにお話を伺いました。
家族と向き合い、新たな音楽を見つけ出す旅

−本作の企画を聞いてどのように感じられましたか。
「まずモーリー・イェストンさんが小林一茶の「露の世は露の世ながらさりながら」という俳句に感銘を受けられたというのも驚きでしたし、そこからミュージカルを創りたいと思われ、その話が実際に進んで、この規模で原作のない初演ミュージカルが創られるというのは非常にチャレンジングだと思いますし、だからこそ尊いなとも思いました。演出の藤田俊太郎さんをはじめ、クリエイターの皆さんとお話ししていると、クリエイターの愛情に満ちた、熱い作品が生まれていくんだろうなと感じています」
−制作発表会見では、藤田さんが時空を超えていく瞬間をダイナミックに描きたいとお話されていましたね。
「まだ細かくは教えていただいていないのですが、今稽古場にはセットの大きな模型もあって、ダイナミックにセットチェンジされていきそうです。ただ具体的に作り込んでいるというより、抽象的で、想像の余地があるものになっていくんだろうなと思うので楽しみです。過去と現代、東京とパリと、様々な世界を行き来する作品なので、藤田さんの中でも今、色々なアイデアをお持ちだと思います」
−モーリー・イェストンさんが手がける音楽についてはいかがでしょうか。
「とても楽曲のバリエーションが豊かで、モーリーさんが発案した作品なだけに、遊び心を持って楽しんで楽曲を作られたのだろうなと感じます。モーリーさんが想像する世界、映像というのが浮かび上がってきますし、ご本人が楽しんで作るというのがクリエイションにおいて一番だなと実感します。R&B調の楽曲もありますし、海人が作った「TALK TALK TOKYO」という楽曲は現代でバズった曲ですから、凄くモダンな楽曲です。アップテンポでかっこいいクールな曲もありますし、制作発表で歌わせていただいた「一つの言葉」はミュージカル的なクラシカルな響きもある楽曲です。モーリーさんの色々な表情を楽しんでいただける作品になるんだろうなと思います」
−俳句は音数が少ないので、それをミュージカルとして音楽で表現する難しさもありそうですね。
「そこはまさに探っていっている最中で、歌詞も稽古でどんどん変化しています。一度、楽曲を流しながら俳句をそのまま読んでみるワークショップもありました。その中で、音楽監督の森亮平くんを含め、みんなで試行錯誤しています」
−海宝さんは現代に生きる主人公・海人を演じられます。役に対しては今どのようなイメージを抱かれていますか?
「ミュージカルではなかなか珍しいキャラクターだと思います。ミュージカルはダイナミックな、スケールの大きい作品が多いので、主人公となるとそれこそ革命であったり、大きなものを背負っていることが多いです。でも海人は現代の日本に生きるキャラクターで、とてもパーソナルな葛藤や苦しみに焦点を当てています。さらに、一茶のダイナミックな旅路から生まれるエネルギーが、時空を超えて組み合わさるというのが斬新です。
本作は、海人がずっと向き合うのを避けてきた、家族と向き合う物語でもあります。一茶がパリに行くというのは海人の母・絹子が描いた物語であり、物語を通して絹子が家族に対して、世界に対して何を思っていたのか、彼女の視点というものを目の当たりにしていきます。ある種、現代では経験できないようなエネルギーに溢れる時代を通すからこそ、海人が母と向き合っていき、自分自身を表現する楽曲を見つけていくというのは、とても新しいアプローチだと思います。主人公自身が旅をして成長するというよりも、他者の視点を通して、共感したり驚いたりすることで成長していく。そういった部分を大事にしているので、もしかしたら一茶の旅路が描かれる舞台上に海人が立ち会う瞬間があっても良いのかもしれません。今藤田さんといろいろお話をしながら稽古を進めているところです。現代の日本のお客様にとっても身近な存在になると良いなと思います」
「芸術の極地」、俳句の世界に触れて

−小林一茶の俳句の世界に触れて、どう感じられましたか。
「制作発表の時に岡宮来夢くんも言っていたのですが、ミクロな視点とマクロな視点、双方を持っているのが魅力的だなと感じます。カタツムリが富士山を登る、といった表現は面白いですよね。誰もが分かりやすい表現ながら、味わい深く、どういうことなんだろうと咀嚼したくなる。そういった大きな視点を持ちながらも、大衆に寄り添う視点も持っています。そして、江戸を詠んだ俳句や、故郷の牧歌的な田舎を詠んだ句、田舎にいながら江戸を詠んだ句などもあり、平易に感じるけれど味わい深いというのが魅力的だなと思いました」
−日本ならではの表現である俳句に改めて向き合ってみて、いかがですか。
「日本語の味わい深さ、奥深さ、余白の魅力というのを改めて感じます。5・7・5という短い句で季節や情景を思い浮かべさせるというのは日本語の強さですよね。よくミュージカルでは日本語に翻訳する際、言葉数が減ってしまって苦労するという側面が語られますが、逆に少ない言葉数でも温度や空気、情感を届けられるというのは武器だと思いました。奥行きの中でお客さんが自分自身の解釈を重ねることもできます。俳句というのはそういった日本語の強さを感じる最たるもので、芸術の極地だと思います」
−オリジナル作品の初演、稽古場の様子はいかがですか。
「今回のような作品というのは凄くレアなケースだと思うんです。この規模の初演作品で、いわゆる原作小説や漫画、元になった映画というのが一切なく、本当にゼロから作り上げています。梅芸さんは、よくこの企画をチャレンジすると決断したなと思いました。もちろんレプリカであれば綿密に決まった動きの中で、原作があれば原作に忠実にやりながら、どう咀嚼して自分の表現としてやっていくかという難しさがあります。ですが、オリジナル作品となるとある種の道標が全くない状態で、それぞれが持っている引き出しをとにかく開けて、出し合って創っていくことになると思うんです。藤田さんをはじめ、クリエイターチームの皆さんの中にたくさんのアイデアがあって、良い意味でそれを戦わせながら創り上げていくことになると思うので、みんなが初心に帰って創っていく面白さというのがあると思います。きっとまだクリエイターの皆さんの頭の中にある、僕らには見えていない景色があると思うので、早くその景色を見たいですね」
素朴に生きて、言葉を紡いだ小林一茶の姿

−キャストの皆さんの印象について教えてください。
「来夢くんは、作品や役に対する誠実さをひしひしと感じます。勉強家ですし、これまでのキャリアの中で着実に積み重ねてきたものがあるからこそ、それらが結実して評価され、様々な役を重ねて今この場所に至っていると思うので、凄く心強いです。
(豊原)江理佳さんは映画『リトル・マーメイド』の吹き替えでご一緒していますが、舞台上での作品の共演は初めてです。実は時空が違うので直接的なやり取りはあまりないのですが、彼女の持つ柔らかさ、優しさ、温かさや繊細さが魅力的です。でも奥には芯の強さ、しなやかな強さというのが感じられ、それが新しい革命家像になっていくと思うのでとてもワクワクしています。
潤花さんは今回初めてご一緒しますが、凄く天真爛漫で朗らかな空気感をお持ちで、それが海人にもたらすポジティブなエネルギーになっていくんだろうなと思います。そして彼女は身体表現が素晴らしく、僕は宝塚版の『アナスタシア』を映像で拝見したのですが、「白鳥の湖」の白鳥を見事に踊っていらして、今回はトニー賞やローレンス・オリヴィエ賞にノミネートされているような世界的な振付家ジュリア・チェンさんとのコラボレーションによって生み出される表現が楽しみです。彼女の表現を見て海人は新しいインスピレーションを得る、いわばミューズとなる存在ですから、本当にピッタリな配役だと思って楽しみにしています」
−本作では小林一茶が生きた江戸の貧しい人々や、革命運動に身を投じるテレーズ、またアジア系移民というマイノリティとしての側面を持つルイーズなどの視点も印象的に描かれています。
「自分自身も勉強している中で、小林一茶という人物を描く上で大衆の視点は外せないものだろうなと感じます。また、演出の藤田さんはそういう視点をいつも大事にしている印象があります。僕がご一緒した『ジャージー・ボーイズ』でも大衆というものに凄く目線を向けていらっしゃいました。そこは今回も軸になると思うし、小林一茶という人物自身が大衆の一部として素朴に世界を見て、言葉を紡いでいた人です。藤田さんは小林一茶の故郷である長野県にある記念館も訪ねられていて、晩年過ごしたお部屋というのも写真で見せていただいたのですが、本当に質素な、2人くらいしか寝られない小さいお家なんです。決して、生きていた間に大成功して大きなお屋敷に住んでいた人ではない。最後の最後まで素朴に生きて、言葉を紡いでいた人物だったからこそ、大衆の目線、貧しさや苦しさを抱えた人の目線や情景というのは欠かせないと思います」
−そして制作発表で海宝さんが歌唱された「一つの言葉」という楽曲を始め、言葉の力を信じるという、芸術を愛する私たち観客にも繋がるメッセージが込められた作品でもありますね。
「言葉の力というのは1つ大きなテーマになっていくと思います。新しいものを生み出すことは凄くエネルギーが必要で、海人はそういったものをほとんど失った状態から始まります。そこから一茶の旅路を通して母の思いを知り、だんだんとエネルギーを取り戻す姿には、ポジティブなパワー、表現を信じる力が感じられます。母と向き合ったことで生まれていく新たな表現や海人の決断というのが、お客様の胸に届くと良いなと思っています」

ミュージカル『ISSA in Paris』は2026年1月10日(土)から30日(金)まで東京・日生劇場、2月7日(土)から15日(日)まで大阪・梅田芸術劇場メインホール、2月21日(土)から25日(水)まで愛知・御園座で上演されます。公式HPはこちら
制作発表でも圧巻の歌声で魅了してくださった海宝さん。海人の旅路を繊細に描かれる姿が楽しみです。ファンタジックな物語なので、時代の交差がどのように描かれるのかワクワクします!



















