この春に卒業を迎える方も多いでしょう。今まで支えてくれた人への感謝、友達と別れる寂しさ、新生活への不安と期待。胸に湧き上がるさまざまな思いをやさしく包み込むミュージカルソングを聴いて、未来へと歩き出しませんか。
かけがえのない今日に気付かせてくれる「SEASONS OF LOVE」
最初に紹介するのは、1996年の初演以来、世界中で上演され続けているミュージカル『RENT』の代表曲「SEASONS OF LOVE」。ニューヨークの片隅で、貧困や病気など困難に直面しながらも精一杯生きようともがく若者たちが力強く歌い上げるゴスペル調のナンバーです。1年という時間をどう測るか、という問いかけに、皆さんなら何と答えるでしょうか。
歌詞では夜明けやコーヒーの杯数、笑いなど、日常で何気なく繰り返されるワンシーンを例に挙げていき、やがて“love”で表そうという答えにたどり着きます。家族や友人、恋人など自分にとって大切な人を“love”の対象に当てはめれば、誰しもがそれぞれ愛に満ちた季節を送っていたことに気付けるのではないでしょうか。そして卒業後のこれから先も、今日というかけがえのない1日を慈しみ、しっかり積み重ねていきたくなります。
大切な友達に贈りたい「For Good」
『オズの魔法使い』に登場する2人の魔女の過去を描いたミュージカル『ウィキッド』の「For Good」は、卒業する友達と一緒に聴きたくなるデュエットソングです。
何もかも正反対のエルファバとグリンダは出会った当初から衝突してばかりでしたが、ある出来事をきっかけに友情を育んでいきます。しかし、オズの秘密を知ってしまったことで、互いに善悪の象徴として異なる道を進まざるを得ない事態に。運命に翻弄されながらも、物語の終盤、2人は出会えたことへの感謝を歌に乗せて伝えます。
特に印象的なのが“But because I knew you, I have been changed for good”という歌詞。“for good”には「永遠に」と「良い方向に」の2つの意味があり、「私はあなたと出会えて永遠に、より良く変わることができた」と、相手が自分にどれほど大きな影響を与えたか率直に表現しています。たとえ離れ離れになっても、あなたのおかげで変われた私がいるから大丈夫。こんな風に思える友達の存在は何物にも代えがたく、心の支えとなるでしょう。
そして現在、昨年3月に公開された映画『ウィキッド 二人の魔女』の後編にあたる『ウィキッド 永遠の約束』が全国の映画館で上映中であり、「For Good」の楽曲も聴きどころのひとつ。また、2027年初夏には劇団四季ミュージカル『ウィキッド』がJR東日本四季劇場[春]にて上演される予定です。
「Tomorrow」で思い描く明日への希望
卒業に伴う寂しさや不安を吹き飛ばしたいときには、日本でも毎年上演されているミュージカル『アニー』の「Tomorrow」を聴いてみませんか。孤児でありながら逆境にもめげることなく、前向きに生きる11歳の少女・アニーの姿を象徴する劇中歌です。本編を見てはいなくても楽曲を聴いた経験はある、という方も多いかもしれません。
“Tomorrow, tomorrow, I love ya, tomorrow”とアニーが朗らかに歌う有名なサビをはじめ、歌詞全体に「明日はきっといい日になる」と明るい未来を信じる希望が溢れています。いいことがあった日も悪いことがあった日も、この歌を口ずさめば自然と背筋が伸び、前を見て歩いていく勇気を与えてくれるでしょう。
2026年4月25日(土)から今年も『アニー』の東京公演が開幕します。
独りじゃないというメッセージが胸を打つ「You will be found」
続いて、SNSを題材にした人間ドラマが共感を呼びトニー賞6部門を受賞したブロードウェイミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』より、「You will be found」を紹介します。主人公のエヴァン・ハンセンが、自ら命を絶った同級生のコナーへの思いをスピーチで発信するシーンで歌われ、特に人気のあるナンバーです。
何度も繰り返される”You will be found”というフレーズは、作品の重要な要素である「人々の抱える孤独感」に対し、ひとつの答えを示しています。それは「あなたを見つけてくれる人はいる。だから決して独りではない」という温かいメッセージ。
卒業した先の日々で、挫けそうになることもきっとあるでしょう。そんな時はこの曲を思い出して顔を上げてみてください。孤独ではないと信じる心が、あなたへ差し伸べられた手を握り返すきっかけを与えてくれます。
2026年7月より、本作の日本演出版が東京で初演されるので、気になる方はチェックしてみてくださいね。
「Corner Of The Sky」が問いかける自分の居場所
卒業後の進路は決まっていても、自分の将来について漠然と不安を覚えている方もいるかもしれません。仕事や勉強、人間関係など、人生に悩みは尽きないもの。そんな自分を励まし、背中を押してくれる楽曲がミュージカル『ピピン』の「Corner Of The Sky」です。過去にはジャクソン5や、『ディア・エヴァン・ハンセン』のミュージカル版・映画版ともに主演を務めたベン・プラットさんがカバーしています。
本作は、旅芸人一座が若き王子・ピピンの物語を披露する形で展開していきます。主人公のピピンが自分の人生の意味を探すべく旅立とうとするシーンで歌われるのが、こちらのナンバー。ピピンは「猫には窓辺が、子どもには雪が似合うけれど、僕の場合は?」と自問し、サビの締めくくりで「自分の居場所を見つけなくちゃ、この空の片隅に」と決意を示します。空はどこまでも広いからこそ、自分らしくいられる場所だって見つかるはず。そう考えると、新しい世界に飛び込むこともポジティブに捉えられる気がします。
旅立ちを見送る方にも聴いてほしい「星から降る金」
ミヒャエル・クンツェとシルヴェスター・リーヴァイのゴールデンコンビによる大ヒットミュージカル『モーツァルト!』の「星から降る金」は、卒業する方はもちろん、送り出す方にとっても心に響くナンバーです。
主人公・ヴォルフガングの才能を高く評価するヴァルトシュテッテン男爵夫人は、父親の元を離れてウィーンで音楽活動をするよう促します。しかし、父親は息子の性格や普段の振る舞いからその提案に反対。そこで男爵夫人は、あるおとぎ話になぞらえ、親子を諭します。息子であるヴォルフガングには「なりたいものになるため 星からの金を求め 旅に出るのよ」と語りかけ、外の世界へ飛び出しなさいと激励。対する父のレオポルトには「愛とは解き放つことよ 愛とは離れてあげること」「自分の幸せのためではなく 涙こらえ伝えよう」と、息子のそばを離れて見守ることも愛だと伝えるのです。
卒業する子どもや生徒たちを見送る側にとって、成長を嬉しく思う一方で、この先上手くやれるだろうかとどうしても案じてしまうかもしれません。そんな心配をそっと胸のうちにしまい、星からの金を手に入れられるように願うことが、卒業のはなむけになるのではないでしょうか。
この世界で生きていることを祝福する「この世界のあちこちに」
最後に紹介するのは、日本発のオリジナルミュージカル『この世界の片隅に』より「この世界のあちこちに」。こうの史代さんの同盟漫画を原作として、太平洋戦争下の広島県呉市でつつましく生きる人々に焦点を当てた物語は、現代の私達に何気ない日常がいかに尊いかを伝えています。
本作の音楽を手掛けたのはアンジェラ・アキさん。なかでも「この世界のあちこちに」は作品のテーマを示す大切なナンバーです。「この小さな紙切れには 色んな人や色んな景色 描き込まれている」という歌い出しから、さまざまな人との出会いや絆、重ねた日々が散らばったり集まったりして、「あなた」や「私」を形作っていきます。この世界の片隅に、ちゃんと自分の居場所は存在したんだという確かな感覚は、卒業後のまだ見えない未来を照らす光となってくれるでしょう。
卒業シーズンはお祝いムードが漂う一方で、家族や友達と別れたり、進学や就職に不安を感じたりする場面も少なくないでしょう。そんな時こそ、親愛や友情、人生について歌ったミュージカルソングを心のお守りにしてみてください。



















