池井戸潤さんの傑作小説を初舞台化するミュージカル『民王』。内閣総理大臣と大学生の息子の心と体が突然入れ替わる混乱を、社会や政治への風刺を絡めて描くコメディ作品です。本作で内閣総理大臣 武藤泰山の息子・翔役を務める有澤樟太郎さんに、本作に挑む意気込みを伺いました。
自分以外の誰かがやっていたらうらやましがったはず

−池井戸潤さんの小説が初舞台化・ミュージカル化となる本作のオファーを受けてどのように感じられましたか。
「もし、自分以外の誰かが池井戸潤さんの小説の舞台化作品に出演するというニュースを見たら、ものすごくうらやましがったと思います。なので自分が最初の舞台化作品の主演としてオファーをいただいたことは、とても光栄で嬉しかったです。
日本のオリジナルミュージカルは増えてきていますが、どんどん海外からも良いミュージカルが来ている中で、日本からも良い作品をもっと生み出したいという思いを持つ役者も多いです。『民王』はまさにそういった可能性を持つオリジナル作品だと思うので今からとても楽しみです。
今回、武藤 翔という役をいただいて、『キンキーブーツ』チャーリー役や『ヒーロー』ヒーロー役、『レイディ・ベス』ロビン役などに続いて“またダメ男か”とも思ったのですが(笑)、原作小説を読んでいると後半では特に人間力の試される役柄だなと感じました。大人が言えない言葉を発したり、その言葉を受けて周囲も気づきがあったりと、言葉に真実味のある役なので、そういう役に声をかけていただいたこと、その役が合うと言っていただいたことがとても嬉しかったです」
−ご自身でも翔役への共感は大きかったですか?
「結構共感できる役だなと思いました。“こういう人間でいられたら良いのに”と誰もが思う人だと思いますし、僕も状況にはよりますけれど、“言っちゃえ”“バカなふりして聞いちゃえ”というところがあると思います(笑)。翔はそれをふりではなく自然に言える人だと思います。小説を読んでいて、印象に残る台詞がたくさんある人物だなと感じました」
−『民王』の舞台化がミュージカルであることに驚いた方も多いかと思います。ミュージカルとしての表現についてはいかがでしょうか。
「政治という題材ではありますが、コメディ作品なのでエンターテイメントとして楽しめる、ショーアップされたものをお届けしたいです。一方で小説が持つ言葉の強さ、翔の真実味のある言葉が、僕が刺さったように、観に来てくださる皆様にお届けできるようにしたいです。
また本作がシアタークリエでの上演ということで、僕はこれまでシアタークリエ作品に出演させていただける機会を多くいただいているのですが、向かう道中で国会議事堂の前を通る時もあります。土日にはデモをやっている様子を目にすることもありますし、そういった場所のすぐそばにある日比谷の劇場で、この作品をやるということにも意義を感じています」
ツバキミチオ×角野隼斗が生み出す新たなミュージカル

−池井戸先生とお話しされて印象に残っていることはありますか。
「まずとても気さくな方で驚きました。お会いするまでは勝手なイメージで厳しい方なんじゃないかとか、原作者としてどのような思いでいらっしゃるんだろうという思いがあったんですけれども、お会いしてみると本当に気さくに、質問にも丁寧に答えてくださったので、とても良い時間を過ごすことができました。
池井戸さんはミュージカルがすごくお好きということで、脚本や楽曲もミュージカルが好きな方にしっかり刺さる構成となっているので、そこはミュージカルファンの皆さんにも期待していただきたいなと思いました。池井戸さんから、音楽の角野隼斗さんもとてもミュージカル愛の強い方だと伺って、ミュージカルへの愛を持ちながら、初めてミュージカルに参加されるお2人だからこそ生まれる新しい作品になるということが再確認できました」
−池井戸先生からのラブコールを受けて、角野隼斗さんの楽曲製作が決まったそうですね。
「そうなんです。池井戸さんが角野さんのコンサートに行かれて、楽屋裏でお声がけされ、角野さんも二つ返事でお受けになったそうです。角野さんと僕は同い年なのですが、とてつもない才能を持たれている方だなと思います。ミュージカルにおいて音楽というのは非常に重要な要素だと思います。音楽が良ければお客様にとって強い印象に残る作品になります。キャッチーなメロディーとクラシカルな感覚の双方を持ち合わせている角野さんが携わってくださることは、とても心強いです」
−角野さんの楽曲の印象はいかがですか。
「既に数曲聴かせていただきましたが、とてつもなくオシャレで、ずっと聴いていたい楽曲ばかりです。一般的には最初に譜面だけ頂いて、歌稽古で音を取っていくことが多いのですが、今回は角野さんの演奏と仮歌が入ったデモ音源まで頂いたので、“もうこのまま音源化できるじゃん!”と思ったくらいです。ここからオーケストラやバンドの音色が入ったらより楽しい楽曲になることが容易に想像できましたし、群衆で歌っているのが想像できるような楽曲もありました」
−ミュージカル『民王』の脚本は原作とはどのような違いがありそうですか。
「原作小説の刊行が2010年ということで、現代に合わせて書き直されています。原作をかいつまんで描くというよりも、舞台・ミュージカルとして成立するようオリジナルの内容になっていると感じます。
ミュージカルの良さの1つとして、それぞれの登場人物の内面を発信できるということがあると思います。『民王』では国民と政治家、双方の内面が楽曲として描かれていて、国民の鬱憤や、政治家の建前の裏にある本音が見えるのがとても面白いです。最初は僕も作品がどのようにミュージカルになるのか想像がつかなかったですが、出来上がっていくのを観ていると、“逆になぜ今までミュージカル化しなかったんだろう”と思うくらい、ミュージカルにピッタリ合う作品だと思います。
「民王のテーマ」や「1億円ちょうだい」という楽曲もあって、タイトルを見ているだけでも面白いです。ミュージカルらしい群衆のナンバーやソロナンバー、デュエットナンバーもありますし、ショーアップされたナンバーもあるので振付が大変そうだなと思っています」
作品を成長させ、新帝劇へ

−翔の父親であり、ある日突然入れ替わってしまう武藤泰山役の別所哲也さんの印象についてお聞かせください。
「別所さんとはミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』でも親子役で共演させていただきました。様々なことを共に乗り越えた別所さんとまた親子役で共演できることが嬉しいですし、取材でご一緒していると改めてオープンマインドの方だなと感じたので、2回目の共演でより距離が近づいていくんじゃないかと思います。今回は親子での入れ替わりがあり、1つの役を2人で作っていくようなものだと思います。自分の中で内閣総理大臣・武藤泰山のイメージを作るのももちろん重要ですが、別所さんが作る泰山像もしっかり役に入れ込まなければいけません。そうなると、別所さんご自身の癖なんかも取り入れていくことになるんじゃないかなと想像しています」
−城山和彦役の竹中直人さんは有澤さんのことを“おれのマブダチ”とコメントされていましたね。
「竹中さんがカンパニーに加わってくださったことは本当に嬉しいです。もう毎日が楽しくなることは間違い無いですから。誰も想像し得ないようなパフォーマンスを毎回してくる方ですし、池井戸さんの映像作品へのご出演経験も多いので心強いです。ミュージカル『のだめカンタービレ』でご一緒した時、袖で竹中さんと“これからも友達でいような”“ぜひ”という会話をさせていただいて、そこからプライベートでもよくお会いしているんです。こんな歳の離れた後輩のことをマブダチと呼んでくださってありがたいですし、舞台で再び共演できるのがすごく嬉しいです」
−他に共演を楽しみにされているキャストはいらっしゃいますか。
「皆さんとの共演が楽しみなのですが、個人的に豊原江理佳さんは舞台で何度も拝見していて、歌声が本当に素敵なので、パフォーマンスを拝見できるのを楽しみにしています。
池井戸さんも“このキャストなら絶対に面白いものができる”と言ってくださって嬉しかったですし、せっかく初演でやらせていただけるので、大きな野望を言うと、作品を成長させて、新帝劇でもできるような作品にしたいです。赤い絨毯が似合う作品だと思いますし、別所さん演じる泰山が新帝劇で総理大臣として演説する姿を見たいです」
−演出を手掛けられるのは、舞台『千と千尋の神隠し』のアソシエイトディレクターを初演から務め、『ミス・サイゴン』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』などでも演出助手を務めてきた永井 誠さんです。
「永井さんとはこれまで何作もご一緒しているんです。それこそシアタークリエで主演させていただいたミュージカル『ヒーロー』でも永井さんが演出助手をされていました。数々の作品で演出助手をされていて、“永井さんがいれば絶対に幕を開けられる”と思えるようなプロフェッショナルな方です。きっとご自身の中で“こんな表現をしたい”“こんな演出をしたい”という思いやアイデアが溜まっていらっしゃると思いますので、僕もできる限りそれに応えたいと思います。先日もお忙しい中ワークショップを開催されたことを伺って、作品への想いの強さを感じています」
−「このミュージカルで日本を元気にしたい」とコメントでは書かれていましたが、改めてこの時代に、『民王』を届ける思いについてお聞かせください。
「若い世代にも政治への関心が深まっている中で、この作品が上演されることは1つ運命だなと感じています。原作小説は16年前に書かれた作品が、それが今、上演されるからこそ、届けられるものがあるように思います。
直近では都知事選を中心に描いたドラマ『銀河の一票』も大きな話題になりましたし、様々な日本の状況を踏まえても、“日本を元気にする”という大それた願いが叶う可能性を秘めた作品だと思います。仲間の役者たちからもこの作品について声を掛けられることが多くて、注目度の高さを感じています。ミュージカルで、エンタメとしてショーアップされたステージだからこそパワーを届けられると思いますし、その中でもしっかりと小説にある刺さる台詞を感じ取っていただける作品になると思います」
ミュージカル『民王』は2026年9月6日(日)から10月6日(火)までシアタークリエ、10月11日(日)から13日(火)まで大阪:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ、10月17日(土)から19日(月)まで福岡・博多座にて上演されます。公式HPはこちら

新帝劇に持っていける作品へ、という強い思いを語ってくださった有澤さん。言葉にして発信し、夢を現実にしていく姿が『民王』の翔にも重なっていきそうです。




















