皆さんは映画を観るとき、字幕で観ますか?それとも吹き替え?翻訳をするときにどんな日本語で表現するかで、描かれる世界のニュアンスはわずかばかり変わってきます。日本語と英語では言語構造が違うので決められた字数に収まらず、実は結構意訳をしているものもあったり…!?今回は『アラジン』の代表曲「A Whole New World」を使って、翻訳の面白さを紐解いてみましょう!

魔法の絨毯で世界中を旅する二人が見た新しい世界

神秘と魅力の街、アグラバー。青年アラジンと、王女ジャスミン、そして魔法のランプの精霊ジーニー。三人が繰り広げる、自由と未来を求める物語『アラジン』は、1992年のディズニー製作のアニメや、2014年にブロードウェイで封切られたミュージカルなど、様々な形で愛されています。

その中で、アラジンが魔法の絨毯でジャスミンを連れ出し、星空の下でデートをするシーンで歌われる「A Whole New World」は、誰もが知っている名曲。そのサビ部分は、一体どのように訳されているのでしょうか?

英語版に出てきていない「花」を日本語では渡すのはなぜ?

A whole new world

A new fantastic point of view

No one to tell us “No”

Or where to go

Or say we’re only dreaming

“Aladdin” ‘A Whole New World’より

まず、劇団四季版の翻訳は「自由さ 新しい世界 僕らはもう誰にも縛られはしない」。原文に比較的近い翻訳です。後半部分は直訳すると「誰も僕たちにだめともどこに行けとも、夢を見ているだけとも言わない」ですが、それを「誰にも縛られはしない」と翻訳しているのはお見事です。

続いて2019年に中村倫也さんと木下晴香さんが歌って話題となった実写版の翻訳は、「ア・ホール・ニュー・ワールド 新しい世界 風のように自由さ 夢じゃないんだ」。印象的なのは「風」という新しい要素を日本語訳で追加していること。魔法の絨毯で空を飛んでいる二人が、風を切りながら自由を感じていることが伝わってくる翻訳です。

驚きなのは、1992年のアニメ版の翻訳。サビの「a whole new world」の訳はなんと「おおぞら」。しかも、なんと曲の冒頭部分では、英語にはない花を、アラジンがジャスミンに手渡すことになっています!さすがにこれは意訳しすぎなのでは?と思いましたが、実はこれはアニメの映像に乗せてみると納得の翻訳!

アニメでは「a whole new world」とアラジンが歌うサビの場面はなんと、雲の上で二人が逃避行をするシーン!花の翻訳の部分では、確かにアラジンがジャスミンに花を手渡しています。英語をただ曲に合わせて翻訳するというだけではなく、アニメ映像と合わせる形で翻訳を行っていたのですね!

Asa

劇団四季で翻訳を担当している高橋知伽江さんのインタビューによれば、英語を日本語に翻訳するとき、三分の一程度しか要素を盛り込めないそうです。個人的には『アラジン』は自由を夢見る二人の物語なので、「no one say we're only dreaming」の部分を盛り込んだ翻訳があっても素敵だなと思いました。