日本では3度目の上演となるミュージカル『ドッグファイト』。2012年にオフ・ブロードウェイで上演され、今や数々の名作を手がけた作詞・作曲家コンビが手がけた作品でもあります。迫力あるダンスシーン、数々の美しい音楽、コミカルかつ可愛らしいラブストーリー、そして戦争に立ち向かっていく青年たちの姿。様々な魅力が詰まった本作の観劇リポートをお届けします。（2021年9月・シアタークリエ）

ミュージカル界で光り輝く作詞・作曲家コンビが手がけた音楽に注目

『ラ・ラ・ランド』、『グレイテスト・ショーマン』、実写版『アラジン』、そして2021年に映画公開を控える『ディア・エヴァン・ハンセン』。ミュージカル好きでなくとも、1つは見たことがあるのではないでしょうか。これらの作品の音楽を手がけ、今やミュージカル界の売れっ子となった作詞・作曲家コンビであるベンジ・パセックとジャスティン・ポール。オスカー、グラミー賞、トニー賞、ゴールデングローブ賞とあらゆる賞を勝ち取った彼らが2012年にオフ・ブロードウェイで上演したのが、ミュージカル『ドッグファイト』です。

27歳にして、同名のアメリカ映画を元に本作を手がけた彼ら。ミュージカルは音楽が重要な役割を持つ、ということをひしひしと感じさせられる作品となっています。耳馴染みの良さ、メロディーの美しさはもちろんのこと、キャラクターたちの心情を表す音楽が作品に彩りをもたらすのです。主人公のエディにパーティに誘われ、舞い上がるローズの「何よりもワンダフル」や、エディとローズが惹かれ合う恋心を、跳ねるような音で表現した「ファーストデート／ラストナイト」は、マスクの中で思わず笑みが溢れてきます。

歌声の美しい昆夏美さんと軽やかなダンスで魅せる屋良朝幸さんの最強タッグ！

「ドッグファイト」はアメリカ海兵隊の伝統で、パーティに一番イケていない女の子を連れてきた人が賞金を得られる、というなんとも非道なゲームのこと。ベトナム戦争に出征する前夜、ドッグファイトが開催されることに。主人公のエディ・バードレイス（屋良朝幸さん）は、食堂で働くローズ・フェニー（昆夏美さん）をパーティに誘います。しかしローズの優しさや賢さに触れていくうち、エディには罪悪感が芽生えてきて…。

美しい音楽たちを伸びやかに歌い上げるローズ役の昆夏美さんは、可愛らしさと人としての誠実さ、そしてコミカルな役どころを見事に表現。その歌声から、ローズの心の美しさと強さが伝わってきます。パーティやデートに一度も行ったことのない、純粋で賢く、そして少し太った女の子ローズ。彼女の魅力に、すぐに心を掴まれます。

一方エディを演じる屋良さんは、軽やかで重力を感じないダンスが魅力的。親友のラルフィー・ボーランド（藤岡正明さん）とディッキー・バーンスタイン（大久保祥太郎さん）、同じく海兵隊のフェクター（小川優さん）、スティーヴンス（今江大地さん）、ギブス（一色洋平さん）らと踊るキレのあるダンスシーンは必見です。ローズとの出会いによって少しずつ人としての思いやりを知っていくエディの姿は、愛らしさたっぷり。

また、言葉遣いや態度が粗野な青年たちは、心の底では戦争に怯え、それでも自分を奮い立たせて戦争に飛び込んでいきます。「ドッグファイト」は悲惨な戦争に飛び込んでいくための、心を麻痺させる準備期間なのです。そんな彼らの姿が痛々しく、戦争とは何かを改めて感じさせられました。