日本で初めて上演されたブロードウェイ・ミュージカル『マイ・フェア・レディ』。オードリー・ヘップバーン主演の映画版をご存知の方も多いのではないでしょうか。ロンドン下町の花売り娘が、言語学者のレッスンにより貴婦人に成長していく物語。今回は主人公のイライザを神田沙也加さん、ヒギンズ教授を寺脇康文さんが演じた回の観劇リポートをお届けします。(2021年11月・帝国劇場)

日本語でも、コミカルで愛らしいイライザは健在

言葉遣い・発音で育ちが分かる。日本でも訛りや敬語・ビジネス用語など、言葉遣いで人の印象が変わることは多いでしょう。ミュージカル『マイ・フェア・レディ』ではロンドン・下町のコックニー訛りがひどいイライザを、言語学者ヘンリー・ヒギンズ教授が6ヶ月以内に宮殿の舞踏会で踊る貴婦人に仕立て上げる、というストーリー。[ei]と[ai]の区別が付けられないイライザのために、“The rain in Spain stays mainly in the plain”(雨はスペインの広野に降る)という文章を繰り返しながら発音を練習します。しかし日本語版では英語の音声学をそのまま訳しても意味が通じなくなってしまいますよね。

そこで、“日は東 日向にひなげし 光あふれ ひばりひらり”という文章にチェンジ。言葉遣いも乱暴で、「ひ」と「し」の区別がつけられないイライザが見事に誕生していました。今回の公演は文化庁子供文化芸術活動支援事業対象公演となっており、子どもたちも多く観劇。ヒギンズとイライザのやりとりに笑う子どもたちの声が聞こえ、劇場が和やかな雰囲気に包まれました。

イライザを演じる神田沙也加さんは、前半の奔放な下町娘から、貴婦人として言葉・外見だけでなく心も成長していく姿が見事。コミカルな演技から眩いばかりの美しい貴婦人まで、どんどん変化していくイライザに目が離せません。

実力派キャストが光る日本トップクラスのカンパニー

独身を貫くあまり、女性に対して偏見が強いヒギンズ教授と、意志が強く個性的なキャラクターであるイライザ。この2人を繋いでくれるのが、相島一之さん演じるヒュー・ピッカリング大佐です。暴走するヒギンズ教授に付き合いながらも、時にイライザを心配し、励ますピッカリング大佐。2人の緩和剤となる彼の存在感は抜群です。

父親でありながら娘のイライザに金をせがみ、酒に溺れるアルフレッド・ドゥーリトルを演じるのは、ミュージカル界の実力派・今井清隆さん。どうしようもない父親ながら、街の人々と陽気に生きる彼に愛らしさを感じてしまうのは、今井さんの実力あってこそでしょう。街の人々と歌い踊る「教会へは遅れずに」では、帝国劇場に響き渡る迫力ある歌声とアンサンブルとの陽気なダンスに、心掴まれずにはいられません。

また、本作で特徴的なのは冒頭に登場するリトル・イライザのバレエ・ダンス。木村桃子さんが美しい音楽の中でソロダンスを踊りながら、観客をロンドンの世界へと誘います。こういった細やかな演出が、作品全体の美しさと力強さを感じさせてくれているのでしょう。

Yurika

言葉によってその人自身も変わっていくという興味深いテーマを楽しみに観劇しましたが、思った以上にコミカルなシーンも多く、楽しく観劇することができました。実力派ばかりが揃っており、イライザの他にも必ず心惹かれるキャラクターがいるはず。名作ミュージカルの日本上演、ぜひ一度観劇してみてください。ミュージカル『マイ・フェア・レディ』は11月28日まで帝国劇場にて上演、12月1月には埼玉・岩手・北海道・山形・静岡・愛知・大阪・福岡公演が予定されています。チケットぴあでのチケット購入はこちら