東京の劇場の今を伝える、劇場支配人が語る【TOKYO MY THEATER】第3回は、劇場の設立意図を「演劇は社会にとって絶対に必要な文化でありファッションです!」と宣言する、飛野悟志さんがオーナーを務める恵比寿「シアター・アルファ東京」。夜になるとライティングがきれいで、内装も随所に凝っていて、「お客さんが劇場のいろんなところを撮ってインスタグラムにアップしてくれます。お客さんに喜んでもらえる劇場を作りたかったので、まさに狙い通りです!」と飛野さん。さらに、「痒いところに手が届く小屋にしたい」と言います。前編はこちら

オーナーというより、小屋主。個性的で楽しいこだわりの劇場にしたい!

――長引くパンデミックの中での劇場オープンで、コロナ対策も兼ねた最新の空調設備などもしっかり導入していて、安心して観劇ができますが、2階には立派な稽古場もあって、しかも使用料が安いのに驚きます。

飛野悟志(以下、飛野) 安心・安全を優先して最新設備を導入しましたが、初期投資の回収は考えていません。先日も工事費の支払いが全部終わったので、経理担当が初期投資の回収を計算したら、「30年6ヵ月」かかると言われました(笑)。それでもオープン後もご利用いただくスタッフさんたちからの意見を真摯に受け止めて、適宜、改修を行っています。

――そこは役者で演出家の飛野さんのプライドもありますね。

飛野 本多劇場グループ総支配人の本多愼一郎さんにも多くのアドバイスをいただいていますが、本当に尊敬しています。自分はオーナーという肩書きで、支配人は別にいるし、俳優しかやってこなかったので、いわゆるビジネスには向いてない。あえて言えば、小屋主ですね。

――では、小屋主に、連載恒例の「自分が一番好きな席」に座っていただきます。

飛野 どこがいいかな~。お客さんが見て楽しい席は、舞台下手(客席から見て左側)の最前列「0列2番」ですね。

写真:山本春花

――その席を選んだ理由は?

飛野 自分が若手の頃、芝居は勉強も兼ねて俳優を観に行っていたのでいつも最前列でした。この劇場の最前列も絶対楽しいですよ。舞台と段差が無くて、ホールなのに小劇場の感じも味わえます。

――まさに相撲でいう砂かぶり席ですね。役者も楽しいでしょうね、超近くて。

飛野 楽屋も見てもらいましたが、テンション上がるでしょう?

――はい、男性用と女性用の楽屋があって、雰囲気が全然違うのが素晴らしいです。

写真:山本春花

飛野 女優向けの楽屋は真っ白で女優ミラーとライトがあって、男優向けの楽屋にあるタイル貼りの手洗いはオーダーで作ってもらいました。狭いけど、楽しそうな感じがするでしょう? 手洗いはちゃんとお湯が出るのが大事。

写真:山本春花

――役者さんは喜びますね。フレーム付きの鏡も飛野さんが探してきたと聞いて驚きました。

飛野 こだわりの劇場ですから(笑)。2階の稽古場の横には座長、ゲスト用の楽屋もあって、シャワールーム2室にランドリー、さらに、スタッフさん用のモニター付きの控え室もあります。

――まさに、至れり尽くせりです。キャパ200席の劇場で、こんなに充実しているとは思いませんでした。

芝居のチケット代が6000円だとしたら、その内の「劇場代」は?

写真:山本春花

――シアター・アルファ東京の設立意図に「演劇は社会にとって絶対に必要な文化でありファッションです!」という宣言があります。

飛野 自分は、演劇って、「いつまで経っても外(ハズ)れてる」と思っています。

――「外れてる」ってどういう意味ですか?

飛野 映画や音楽と比べると、演劇は「どうしてもムーブメントを起こせない」と思います。誤解を恐れずに言うと、日本の演劇界は地味だし、劇場はもっと個性があっていい。ブロードウェイやオフブロードウェイの明るい雰囲気はとても楽しそうでしょう? シアター・アルファ東京の派手なファザードもその辺りを意識しました。

――なるほど。演劇を変えたい=ファッションということですね。

写真:山本春花

飛野 演劇を見慣れていない人は、「ハリウッド映画の超大作が2000円で見られるのに、演劇は高い」と言います。現状は仕方のないことかもしれませんが、チケット代の何割かは“劇場を楽しむ劇場代”と思ってくれるなら、それも演劇界の貢献じゃないかと思いました。現に劇場内を写メって帰られるお客様の姿もよく見かけます。除菌や空気循環などコロナ感染対策が万全なのはもちろんのこと、気持ちよく見られて、近くて、座り心地が良くて、それでいてオシャレ! そういう施設・設備にしようと思いました。

――そう言われて、客としては「箱代」って考えたことがありませんでした。飛野さんらしい視点ですね。

飛野 せっかくの新しい劇場ですから、そういったことを設立意図としました。

写真:山本春花

これから芝居を頑張る人たちに、夢を持ってもらえる劇場にしたい

――お話を聞いていると、本当に飛野さんの夢の具現化の劇場だと思います。

飛野 アマチュア劇団の頃、「映画館のような椅子の劇場で芝居をやりたいね!」という夢がありました。シアター・アルファ東京は、大きなホールにかけるほどのお金や動員は無いけど、「ちょっと頑張れば、シアター・アルファ東京を使える!」という夢の懸け橋になれる劇場にしたい。

写真:山本春花

――飛野さんが「キャパ200席」にこだわった理由が分かります。

飛野 「頑張れば埋められる200席、頑張れば使えるオシャレなホール」です。これから頑張る人たちにとって、夢を持ってもらえる劇場になれると思うので、応援してください。

――シアター・アルファ東京のキャパからステップアップしていく劇団が生まれてほしいです。

飛野 もちろん、我々劇場スタッフもスキルアップして頑張ります。

――ありがとうございました。

シアター・アルファ東京
渋谷区東3-24-7
https://www.alpha-tk.com/

【公演情報】
白虹劇団「水仙によせて〜たけくらべ〜」
脚色・演出:鶴川里香

【日程】
3月25日(金)18:30
3月26日(土)12:00/15:30/18:30
3月27日(日)12:30/16:00

【キャスト】
尾見涼哉・酒井拓実・林真悠美
中嶋尚哉・内川美幸・伊倉蘭・中田弦太朗・瑞穂
大崎聖奈・細山凛・有賀真織・石田梨乃・浅野華
逆井のどか・金子和花・工藤陽介・龍満花歩・和久田真妃
菊地嶺・杉原由梨奈・西原杏佳・白井公介・円城寺和音
松本脩・町田笑瑚・小嵜菜摘・榎戸真弥・伊藤つきの
白井佳奈・吉見香乃・加藤悠愛・YUZUKI・月川すみれ

Makoto Kajii

「自分が好きな劇団の芝居を、ぎゅうぎゅうに詰めた客席の、前の人の頭の間から観る」のが芝居好きみたいに思いたがる人はきっと多いはず。でも、2年に渡るコロナ禍で、エンタメ界全体に、空間と観客の関係性は激変したような気がします。飛野さんがシアター・アルファ東京で最もこだわった空調設備の費用を聞いて驚くのと同時に、終わりが見えないパンデミックの中で、これだけ徹底してくれるなら、安心して観劇できると思いました。空調設備の詳細は、ぜひホームページからご覧ください。