世界中から愛されるミュージカル『レ・ミゼラブル』。その中でも作品の前半でもっとも涙を誘うシーンの一つが、コゼットの母ファンテーヌがすべてを失った絶望の淵で歌う”I dreamed a dream”です。数多くのアーティストもカバーしたこの楽曲の英語に隠された秘密についてご紹介します!

そもそもどうして「夢やぶれて」?

“I dreamed a dream”の日本語訳は「夢やぶれて」。やぶれたという意味の動詞は入っていませんが、どうしてこの翻訳なのでしょうか。”I dreamed a dream”は直訳すると「夢を、夢見ていた」。この歌は、ファンテーヌが今まで抱いていた希望や理想が、”tigars”によって引き裂かれてしまったと歌っています。

出てくるdreamの回数は、たった3分程度の間になんと11回!希望や理想が、ただの夢であり、現実はそうではなかったのだと、まるで自分に言い聞かせているかのようです。夢には「眠っているときに見る夢」と「理想」という2つの意味がありますが、「自分が夢見ていたものは、いつか叶う理想ではなく、眠っているときにみるような叶わぬただの夢にすぎなかったのだ」と言っているように感じられます。それを端的に訳した日本語訳が「夢やぶれて」なのではないでしょうか。

夢が、shameに変わっていく

But the tigers come at night
With their voices soft as thunder
As they tear your hope apart
And they turn your dream to shame

歌詞の中でも注目したいのがこの部分。「夜に虎たちが来て、雷のような声で囁く 彼らは望みを引き裂いて、夢をshameへと変えていく」という訳ですが、夢が「現実に戻る」のではなく「絶望へと変える」のでもなく、「shame(=恥)へと変える」というのが、この曲の苦しさを一層表していると思います。

あんな夢を見ていたなんて、自分が馬鹿だった。恥ずかしい。夢を見ていた過去の自分を嘲笑しなければやっていられないほどのファンテーヌの絶望を感じてしまいます。

ファンテーヌの見ていた夢

ではファンテーヌの見ていた夢とはどんなものだったのでしょう。彼女の夢は、「愛は決して耐えないこと」「神はお許しになること」「人生は変わること」そして「彼が戻ってきて一緒に暮らせること」。あまりに美しいメロディに乗せて歌ったそれらを、”Now life has killed the dream I dreamed”(=人生というものが私の夢を殺したの)と言って締めくくるところに、この曲のたまらない切なさがあります。

Asa

dreamという動詞は自動詞でも使えるため、タイトルは"I dreamed"だけでも良かったはずです。ではどうしてdreamを重ねたのでしょう。名詞を同族目的語にする"dreamed a dream"や"dream dreams"という使い方は、詩や聖書で用いられる表現だそう。もしかするとファンテーヌを聖女のように仕立て上げ、聖女が絶望するというドラマチックさを表現したいという意図もあるのかもしれないですね。