舞台のキャスト表では、「アンサンブル」という演劇用語をよく見かけます。彼らは1つの作品でいくつもの役を演じ、舞台上でも舞台裏でも大活躍。今回は、完成度の高い舞台づくりには欠かせないアンサンブルの役割をご紹介します。

アンサンブルという言葉の由来とは?

ミュージカルにおけるアンサンブルとは、合唱、群舞などを担い、その場面に必要な森羅万象を演じる俳優たちを指します。アンサンブルはフランス語で「調和」という意味を持つ言葉で、もともとは室内楽で様々な楽器の奏者が合奏することを表す音楽用語でした。そこから派生して、オペラの合唱団を「アンサンブル」と呼ぶようになり、ミュージカルでも同様の役割の俳優たちを指す言葉として定着しました。アンサンブルに対して、名前のある役を演じる俳優はメインキャストやプリンシパルキャストと呼ばれます。

1回の公演で10役?!アンサンブルは「場面づくりのプロフェッショナル」

一口にミュージカルと言っても、歌が多い作品からダンスに力を入れたものまでさまざま。作品によってアンサンブルに求められるスキルも異なりますが、どのような作品でも、俳優として役を演じる力は必須です。

1つの役を演じ通すメインキャストが物語を動かすプロだとしたら、アンサンブルは場面づくりのプロ。映画のエキストラ同様に、その場面の雰囲気を盛り上げるのが仕事です。場面ごとに必要なキャラクターを演じ分け、その数は10を越えることもあります。ほとんどは台本に名前もセリフも書かれていない役ですが、彼らは演じる全ての役に名前をつけ、人物像を深く掘り下げて舞台に臨んでいます。彼らの精緻な演技はとても見応えがあり、場面をダイナミックに盛り上げます。

アンサンブルの俳優は出番が終わると次のシーンまでの短い時間で衣装を着替え、化粧を変えるため、本番中はほとんど休みなく動いているそう。素早く着替えたり、暗い舞台裏で化粧直しをしたりする器用さも必須のスキルと言えそうです。

歌って踊るミュージカルナンバーは腕の見せどころ!

歌と踊りによって観客を惹きつけるミュージカルは、アンサンブルにもその高い技術力が求められています。ダンスが多いほど、観客としては華やかで楽しい場面になりますが、息が上がった状態で歌うのはとても過酷なこと。だからこそ、日頃から訓練を重ねた俳優がアンサンブルとして出演する舞台は安定感が違います。キャスト総出のミュージカルナンバーがあれば、まさにアンサンブルの腕の見せどころ。美しいハーモニーと高いレベルのダンスで観客を魅了できるかは、彼らの技量にかかっているのです。

それぞれの俳優が得意な力を発揮できるよう、アンサンブルが演じる役の組み合わせが「シンガー枠」と「ダンサー枠」に分かれる場合もあります。歌唱力のある人が音楽の品質を支え、踊れる人が躍動感あるダンスで華やかさを添える、というような具合です。たとえば『ライオンキング』では、シンガー枠が作品の魅力でもあるアフリカンミュージックの力強い歌声を響かせ、ダンサー枠が生命力溢れる踊りを披露。ロングランを視野に入れて制作される作品では特に、この分業制を取り入れて、俳優が入れ替わっても作品の魅力は変わらないような仕組みが機能しています。

観客の見えないところでも大活躍。公演を支えるアンサンブルの仕事とは

最後に、アンサンブルの暗躍ぶりをご紹介します。彼らは観客が気づかないようなところで実に様々な働きをしています。メインキャストが歌うミュージカルナンバーでバックコーラスとして舞台袖で歌う「影コーラス」、場面が変わるときに大道具を動かす「セット転換」など、注目されなくても重要な仕事を担当していることがあるのです。

本番以外では、「ダンスキャプテン」や「子役担当」などの役職を担うこともあります。最近日本のカンパニーでも見かけるようになった「スウィング」は、出演者が怪我をした場合でも上演の進行を続けられるよう、複数のアンサンブル枠にいつでも出られるよう備えているピンチヒッターのこと。公演の品質維持を任されるこれらの役職はキャリアを考慮して選任され、公演を支えています。舞台裏での役職は公演パンフレットのプロフィール欄や稽古場レポートに載っていることがあるので、ぜひ注目してみてくださいね。

Sasha

アンサンブルとして経験を積み、メインキャストを演じるようになる新人俳優もいれば、メインキャストを演じた後にアンサンブルに入って作品を支えるベテラン俳優もいます。どちらもそれぞれの仕事の難しさがあるはず。カーテンコールでは、全ての俳優さんに拍手で敬意を示したいと思います。