演劇メディアAudienceでも作品情報やゲネプロ&取材会リポートをお届けしてきた作品『EDGES-エッジズ-2022』。今回は初日公演の観劇リポートをお届けします。(2022年4月・有楽町よみうりホール)
何をもって大人になったと言えるのか。問いかける14の物語
6人のパフォーマーが斬新な演出で彩る14曲の物語は、若者が乗り越える大人の壁=EDGEを表すオムニバス。曲と曲には関連性がありませんが、どの曲にも「他者」が登場し、思春期以降の若者が体験するシチュエーションを描き出します。大人になっていく姉と子供でいたい妹の心の距離、希薄な友人関係、恋愛の理想と現実。妬み嫉みも幸福も、どんな感情も原点には心の中にいる「他者」の存在があるのだと感じさせられる曲の数々でした。
その核心を作っていたのが、自分らしく大人になりたいと歌うテーマ曲「BECOME」。この曲から始まり、さまざまな感情の物語をたどった最後に再び「BECOME」のメロディに戻っていく構成が秀逸でした。精神的に成長する瞬間を切り取った13曲に対して、この曲が”大人になる”の定義を問い直し、バラバラの物語をひとつにまとめる役割を果たしていました。
大人になれば悩まなくなる、なんてことは幻想で、多くの人が、他者との関わりのなかでさまざまに沸き起こる感情とうまく付き合いながら大人歴を重ねているはず。人間関係に悩んだ経験のある全ての方へ届けたい作品です。
まるでコンサートのよう!俳優の魅力を詰め込んだソング・サイクル・ミュージカル
『EDGES-エッジズ-2022』の特徴とされるソング・サイクル・ミュージカル。1曲完結のストーリーをオムニバスで楽しめる形式は初鑑賞でしたが、分かりやすく例えると、さまざまなミュージカルからドラマチックなナンバーを集めたコンサートのような印象でした。『グレイテスト・ショーマン』のパセック&ポールが手掛けた楽曲はメロディの美しい曲からアップテンポで起伏の激しい曲まで、実にバリエーション豊か。難易度が高いゆえに、俳優にとっては、自分の表現の振り幅をアピールできる作品と言えそうです。
6名の俳優のうち、女性陣の歌声がとても印象に残りました。イケイケなラップの後にファルセットを響かせるダンドイ舞莉花さんと、まっすぐな歌声で言葉を聴かせるように歌う豊原江理佳さん。2人の力強い声がアップテンポな曲でもしっかりとメロディを支えます。
歌唱力に定評のある成河さんは感情を全面に出しても音程を崩さない安定感がさすが。養母への感謝を歌う「I ONCE KNEW」では、絞り出すような声からギュインと音圧を上げ、張り裂けそうな想いを歌声で表現していました。ミュージカル初挑戦という草間リチャード敬太さんも堂々と舞台を駆け巡ります。想いを伝えられないもどかしさを歌う「I HMM YOU」では、可愛らしさを覗かせ、心をくすぐられました。
歌に加えてダンスで魅せてくれたのは、振付を担当した植木豪さんと屋良朝幸さん。2人の共演はこの公演の目玉と言えるでしょう。関節を柔らかく使った動きやバック転を披露し、身体能力の高さを存分に発揮。2人が踊り始めると、劇場の温度感が上がり、一体感に包まれていくのを感じました。
周りを見渡すと、出演俳優のファンという方が多くいらっしゃいました。物語よりも出演者個人に注目できるのもソング・サイクル・ミュージカルの良いところ。俳優のさまざまな表情を楽しめるので、ファンとしても嬉しい形式だと思いました。
日本語上演では重点の置きどころが最大の課題か
ここからは、演出の方向性について。ゲネプロ後の取材会では、ソング・サイクル・ミュージカルの捉え方をカンパニー全体で探った、という声も出たそうですが、この作品に取り組むにあたっての最大の悩みどころは、翻訳の壁の高さだったのではないでしょうか。
『EDGES』の楽曲は歌詞自体にパワーがあるので、英語詞であれば俳優の歌声だけでも成立しうる作品です。ところが、翻訳するとなると、歌詞は情報量が多く、メロディは複雑で日本語にした途端に歌いづらくなります。英語から翻訳する過程で開いていく作品の「隙間」を、今回は斬新な演出の「視覚的な面白さ」で埋めている、という印象がありました。
視覚的には6人の俳優陣のパワーで充分楽しませていただいたのですが、ところどころ、歌詞が拾えずに置いていかれた感覚になってしまったのは事実です。1曲ごとに「言葉」がしっかり届けば、『EDGES』の作品としての密度が一層上がっていくのではないかと感じました。
演者の力をめいっぱい感じる舞台が久しぶりで、歌声とダンスの力をたくさん浴び、そのエネルギーを再確認させてもらいました。バンドの生演奏やトークボックス、舞台上のハンディカメラなど、その場で生まれるグルーヴ感が贅沢な公演でした。