1曲で1話で物語が完結する“ソング・サイクルミュージカル”形式で上演する『EDGES-エッジズ-2022』。まだ日本では知られていない新しい形の作品に、カンパニー一同“演劇と捉えていいのか、ショーとして捉えたらいいのか”頭を悩ませながら、稽古場で会話を重ね、作り上げたと言います。また劇場も、あまり演劇作品の上演では使われることのない、有楽町よみうりホールが選ばれました。そんな新しい『EDGES-エッジズ-2022』のゲネプロ&取材会のリポートをお届けします。(原作者のパッセック&ポールや、キャストについて詳しい情報はこちら。)

衣裳で「なりたい自分になる」ことを表現

日本では、まだあまり馴染みのないソング・サイクルミュージカル。アメリカでは、作曲家の登竜門としてあるのだそう。「いつか大きなミュージカルの種になるものをお客さんと共有するためのショーという、実験精神に基づいたもの。どんな形でも捉えてくれたら嬉しい」と語ったのは、成河さん。客席との一体感・繋がりが感じられる新たな形式に、演じる側も他の作品との違いを感じているようです。

 一曲一話で完結されている『EDGES-エッジズ-2022』ですが、物語の根底には共通して「Become なりたい自分になる」というテーマが。曲ごとに個々の様々な想いが連なっていき、一つの作品として完成されます。演出の元吉庸泰さんは、この“成る”ということを、舞台上でしっかりと提示することを意識されたそう。

撮影:岡千里


その1つの演出が、衣裳。キャストは初め全員、上下白い衣裳に身を包んで登場。舞台上には見える形で衣裳ラックが並び、役に合わせて衣裳を身に纏い、役が終わると白い衣裳へと戻ります。服を選ぶタイミング、着るタイミングも細かく決められています。他にも、キャスト6人が“この作品をどう物語るか”においてルールが。自分が歌唱しない楽曲時も、舞台上にいて聞いていたり、反応したり。それが時に俳優の素なのかわからない瞬間を作り出していました。

ビデオカメラ、楽器…個性的な演出の数々

成河さんの歌う「In Short」。別れた彼女に対して暴言を吐いているかと思えば、実は未練タラタラで、“自分の元に戻ってきてくれ”という曲です。ここではダンドイ舞莉花さんがビデオカメラを持って登場。ビデオカメラの映像が後ろのスクリーンに映っており、カメラに迫る成河さんがドアップで映るなど、大迫力のナンバーになっていました。その後、カメラは舞台後ろに置かれ、スクリーンに度々舞台後ろからの映像が映ります。リアルタイムで、違うアングルからの映像が見られる新しい体験でした。

撮影:岡千里

「I’ve Gotta Run ごめん行かなきゃ」では、植木豪さんがトークボックスを披露。トークボックスとは、キーボードを弾きながら、ホースを咥えて演奏する楽器です。楽器の音がホースから演奏者の口に送られ、口の中で共鳴した音を、マイクを通して外に出すことで、楽器の音が話しているように聞こえる仕組み。『EDGES』はパセック&ポールが、プロダクションごとにキャスト構成、曲順の入れ替え、編曲やオーケストレーションをアレンジすることを許可しているため、このような自由な演出が可能。作品の魅力に繋がっています。

また、新しい翻訳での上演となった今回。訳詞を手掛ける福田響志さんが、足繁く稽古場に通い、俳優含め何度も試行錯誤を重ねて完成したそう。現代語で歌われる歌詞ですが、耳に入ってきやすい言葉の数々でした。

撮影:岡千里

ただのオムニバスにしたくない。一話一話で、必ず何かを置いていけるように。

出演だけでなく、振付も担当している屋良朝幸さんと植木豪さん。お二人の振付を楽しみにしている方も多いのではないでしょうか?振付においても、“ソング・サイクルミュージカル”という新ジャンルに苦労したことがたくさんあったそう。


「自分は普段ショー寄りの振り付けをしているから…」と話すのは屋良さん。「一貫したストーリーがないながら、各話それぞれに生きているものがある。それをどう見せていくか、成河さんにアイデアいただいたり、稽古場でもみんなで話し合ったりしながら作り上げました。パフォーマンスとしては、1個1個すごく見応えがあると思います」。

植木さんは「一話一話で、何かを必ず置いていくことを、振り付けで表現できるようにしたかった。始まる前から振付チームで話し合い、稽古場ではキャスト・スタッフみんなで歌、踊り、芝居、つなぎのことも、全部話し合っていました」と対話が多い稽古場だったことを語りました。

意外にも初ミュージカル出演となるのは、草間リチャード敬太さん。「そう見えなかったなら正解です!」と答えるリチャードさんに対し、全員が「成功ね」とツッコむ場面も。憧れの存在である屋良さんの新たな振付を楽しんでいると言います。屋良さんはリチャードさんに対して、「めちゃくちゃいい素材を持っている。昔からダンスが上手いのは知っているし、ミュージカルの世界で羽ばたいていってもらいたい」とメッセージを送りました。

撮影:岡千里

『EDGES-エッジズ-2022』東京公演は、2022年4月27日(水)〜 5月5日(木・祝)まで、有楽町よみうりホール(※よみうり大手町ホールとの間違えに注意)にて。大阪公演は2022年5月8日(日)・ 9日(月)COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールで上演されます。 詳しくは、公式サイト公式Twitterをチェック。

ミワ

取材会では、演出の元吉さんが「個人的には昔、(有楽町よみうりホール)下のビックカメラで働いていたので戻って来られて嬉しい」と出演者も知らない過去を暴露し、会場がざわめく場面も。約85分間(途中休憩なし)で全14曲は、濃厚であっという間の時間でした。