最近耳にすることが増えた「イマーシブシアター」ですが、一体どのような演劇作品のことをさすのでしょうか。普通の演劇とは何が違うのか、実際の作品を紹介しながらその魅力に迫ります。
観客が物語世界に飛び込んでストーリーを追いかける
イマーシブは“没入”という意味で、イマーシブシアターは“没入型演劇”と訳されます。普段私たちが観ている演劇作品では、観客は第三者としてストーリーの行方を見届けます。一方、イマーシブシアターは、舞台上と客席の垣根を飛び越えて、観客が物語の世界に入りこむスタイルの演劇です。観客は、自らが登場人物の一人となり、物語を進めていきます。舞台となるのは、建物や広場などのオープンスペース。そのため、ステージ・観客席など、役者と観客の間に隔たりはありません。
イマーシブシアターの始まりと言われているのが、イギリスの劇団「Punchdrunk」。シェイクスピアやチェーホフといった演劇の古典作品を現代風にアレンジして上演しています。集まった観客に役を与えたり、廃墟となった建物や広場で上演したりするのが彼らの特徴です。イマーシブシアターというと、『Sleep No More』という作品を一度は耳にしたことがあるかもしれません。これも「Punchdrunk」が手がけた作品です。
イマーシブシアターの金字塔、『Sleep No More』はシェイクスピアの悲劇『マクベス』がベースになっている作品です。2003年にイギリスのロンドンで初演、その後2011年にアメリカのマンハッタンにあった廃墟となったホテルを専用劇場として改装し、ロングラン公演を行っています。
観客は“アノニマス(見えざる者)”として参加しているため、ホテルで渡される白い仮面をつけます。チケットはなく、観客は“ホテルの予約”をし、当日はチェックインをするところから物語が始まります。
ホテル内で舞台として使用されている部屋は約100部屋!観客は、自らの足で俳優の後を追いかけたり、部屋のドアを開けたりして自由にストーリーを追っていきます。『Sleep No More』は台詞がなく、身体表現やダンス、表情で俳優が表現するため、言葉の壁を越えて、誰でも楽しめることも魅力の1つです。
日本でも体験できるイマーシブシアター
ユニバーサルスタジオジャパンが2018年にハロウィンに『ホテルアルバート』というイベントを開催し、イマーシブアターの存在を知った方もいらっしゃるのではないでしょうか?ここからは、日本で触れられるイマーシブシアターを3つご紹介します。
1つ目は、多くの人にダンスを楽しんでほしいという想いで「開かれたダンス」をコンセプトに活動している、ダンスカンパニーDAZZLE。2017年に廃病院を舞台にした『Touch The Dark』という作品を発表。2018年にはワンピースタワーとのコラボ作品を上演して話題に。2019年に上演された『SHELTER』では観客の行動によって物語の結末が変わるマルチエンディングストーリーを採用しました。
常に新しい体験を提供するDAZZLEですが、今年の3月末に閉館になったお台場ヴィーナスフォートに常設の劇場を持っていました。『Vennus of TOKYO』はマルチエンディングストーリーで、2021年の6月に劇場がオープンしてから、ヴィーナスフォート閉館までの10ヶ月間毎日上演されました。
2つ目にご紹介するのは「泊まれる演劇」です。現在、企画・プロデュースを手掛けている花岡直弥さんは、元々ホテルのフロントマンとして働かれていました。“ホテルはお客様一人一人の旅の物語の入り口”だと感じ、ホテルでの体験をより魅力的なものにしたいと思ったんだそう。ホテルで過ごす時、どこか“非日常”な感じがしますよね。演劇作品も、日常から非日常へと私たちを連れて行ってくれます。そこで花岡さんは、演劇とホテルのコラボレーションを考えついたそうです。
「泊まれる演劇」では6月3日(金)〜7月5日(火)まで『MIDNIGHT MOTEL’22 “ROUGE VELOURS”』がHOTEL SHE,KYOTOで上演予定。舞台は閉館間近のモーテル・アネモネ。クロージングパーティーに参加するところから物語が始まります。1泊2日の演劇体験になること、チェックインから1日目の22時半ごろまではスマートフォンが使えなくなることにご注意ください。
3つ目は、日常の延長線上に潜む、目に見えない別世界へ没入する体験をデザインするクリエイティブチーム「Dramatic Dining」。上演する場所や空間に根付いたストーリー展開が特徴的です。4月15日(金)から上演中の今作『料亭で愉しむポケットイマーシブシアター -粋人たちの隠れ家-』は、浅草が舞台。コロナ禍で黙食が余儀なくされていますが、黙食を、没入して食べる“没食”というアート体験に変換する作品です。本物の浅草の芸者さんも登場!観客は芸者ゆかりの街を歩き、食を楽しみ、五感全てで感じる体験となっています。こちらは残念ながら現地で体験できるチケットは完売してしまっていますが、食事体験なしの配信チケットが5月21日(土)までご購入いただけます。
『Sleep No More』は一生に一度は見たい作品。イマーシブシアターが徐々に日本でも広まってきているのが嬉しいです!泊まれる演劇も休みを利用して、実際に行って体験してみたいと思っています。